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第18節 揺らぐ光、揺らぐ心

 蔡河さいがを渡る進善橋の真ん中で、レツィン達は立ち止まって河を見下ろした。いつもは黒々とするばかりの流れにも、今日は五彩が照りかえり、水底にはそのまま夜の都が沈んでいるかのようだった。


「…一つだけ、聞いてもいいか?」

 敏は手すりに身体をもたせかけ、川面に目を向けたまま問うてきた。

「何?」


「お前、我が主君に想いを寄せてやしないか?」

「なっ…」


 レツィンは顔を真っ赤にし、どうかこの薄闇のなかで相手にそれを見られていないように願った。


「いきなり唐突に何を言いだすかと思えば!」


 彼女がぽかぽかと相手の腕を叩くと、誰かが「この頃の若い男女はけしからぬ…」と舌打ちして通り過ぎた。


「誤解するなよ、別にからかおうと思って聞いたんじゃない」

「じゃ、じゃあ、何のために…」

「お慕いしているのか?本当に」

 レツィンはうつむき、敏はふうっと溜息をついた。

「仕方のない奴だな、いくら想っても不毛なことなのに」

「…だって」


 心の底に押し隠してきたはずなのに、敏に――よりによって、悟られたくない相手に知られてしまった。

「見ていればわかるさ、いつも主君を追っているんだよ、お前の眼差しが」

 そのようにあからさまだったろうか――レツィンは改めて、顔から火が出る思いだった。そして、あの方にはすでに気づかれてしまっただろうか。もしそうなら、いま死んでしまいたいほどである。


 彼女は腕を組んで橋の欄干に置き、その上に額を押し付ける。

「わかってる……本当に、言われなくともわかってる。天地がひっくり返ったって、所詮は叶わぬことだもの」


 彼は烏翠の直系王族、自分はラゴ族の姫であること。彼は山房の籠の鳥であり、自分もいずれ王宮の籠の鳥となること。彼は自分を可愛がりこそすれ、それは妹のように思ってくださっているからであり、決して男女の愛の対象などとは考えていらっしゃらないこと。

 それに――最も重要なことだが、弦朗君は自らの隣に座るべき者について、遠くを見る眼差しでもって、まだ見ぬ人を待っておられるらしいことも。


「我が主君は、主君としては身を粉にしてお仕えすべき大切な方ではあるが……何故だ、俺のほうが背も高いし剣も遣えるし、といっても将来性といえば承徳のほうがむしろ…」

 敏はぶつぶつと言い、レツィンはむっとして口を尖らせた。

「何を訳のわからぬことを……それに、あなたって、意外とうぬぼれ屋さんね。男は顔でも家門でも、地位でもないのよ。誠実で、心優しく、それでいて強い方であれば。第一、あなたの物言いは主君に対して不遜よ」


「――にしておけばいいのに」

「え?」


 俺にしておけばいいのに。確かに、レツィンの耳にはそう聞こえたが、敏はそれを言ったことすら瞬時に忘れたかのように、きびすを返して歩き出した。


「馬鹿じゃないの……大体、いつから私を『お前』なんて馴れ馴れしい呼び方をするようになったのよ」

 レツィンは敏の背中に向けて罵った。


 あなただって、私とはいずれ離れ離れになる運命なのに――。


 そして、あれほど温かくきらめいていた明かりの数々が、いつのまにかなにやら物寂しく、沈鬱なものへと変じてしまったかのように思えてきた。

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