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4-脱出

4- 脱出


「向こうの世界ではあなたたちは勇者、様々な甘言が待っているでしょう。だからこそ、本当に心から信じられる味方が必要です。」


「俺にはあんたという味方がいるが?」


「私は向こうに干渉できません。何か大混乱があれば隙をついてあなたに接触はできますが、それも一時。基本あなたは独りです。」


 目的があるとはいえ、真実を隠し、向こうで独り戦い続ける、それに耐えられるのか、女神の質問は俺に迷いを生じさせる。


「さて、そろそろ行きますか?」


 女神はこちらの意志の最終確認をしてくる。


「あぁ、さくっと神を殺してくるよ。」


 勿論俺はソレに応える。それとともに、俺の周りは激しく流れ出す。

 もう女神の見事な流線形や眩しい背景も見えない。俺が別の場所へ注入される。


「絶対に、施政者、それに属する者にスキルを明かさないでください。特に召喚者付近の施政者はジジィの末端です。私の関与がバレます。私とあなたは、もはや一蓮托生。私の自由をあなたに賭けました。」


 女神の懇願だ。覚悟を決めた俺にも、そんな声は響く。


「あぁ、気付いたら素っ裸。そんな侘しい気分を向こうの神にも味わわせてやるよ。」


 もはや返答は聞こえない。だが、俺は安堵と期待の息吹を確かに感じた。








 気付いたら豪華絢爛な宮殿の中だった。

近くには見知った奴等、…知ってはいないな。転校初日に黒板前でザッと見渡した限りだ。俺にとっては知り合い以下、そんな奴等でもここでは勇者だ。ユニークスキルは持っている。今は眺めるだが、いずれ糧となってもらう。


 そんな目で値踏みしていると、


「よくぞ参られました、異世界からの勇者様方。我等はお待ちしておりました。」


 外人集団が待ち構えていた。








 俺たちを待ち構えていたのは、この世界一の大国、モンプレ王国の国王一家と配下たちだった。国王はスーツを着せれば、ニュースの肩書で銀行の頭取と紹介されていても可笑しくない威厳を持ち、王子を名乗る若者もハリウッドの男優です、と名乗られても疑えないほどの美形だった。…ただ王妃と王女は大変ふくよかで、いや愛嬌はある。文明が未発達な所ほど、丈夫な子を産むとかの理由でふくよかな女性が好まれるらしいが。

 

 クラスメイトたちも、女子は色めき立っているが、男子は…、周りの調度品やフルプレート着こんだ兵士で色めき立っている。


「よくぞ我等の召喚に応じてくださった、若き勇者たちよ。この世界は今、魔王―――」


 事前に女神に聞いていた情報なので、俺は周りの様子から情報収集を試みる。


 まずはクラスメイト。ほとんどの連中が、事前に女神から聞いていたこともあり、魔王だの魔物と聞いても、その輝く瞳を曇らせない。おまけに魔王を倒せば地位や名誉、金銀財宝が王家から、魔王からは元の世界に帰る手段が手に入るそうだ。


『向こうの世界ではあなたたちは勇者、様々な甘言が待っているでしょう。』


 女神の言葉を思い出す。


「その根拠は?」


 これがこの王たちからの甘言なのか、それとも―――


「全ては神託である。そしてそれが全て。安心せよ、勇者様方。」


 この世界の神、ジジィからの甘言だった。


 どうせ嘘だろう。俺たちが順調に魔王を倒しても、消すか褒美で取り込むか、本当に帰していたら女神があんなに嫌う筈もない。さっさとここから逃げる手段を考えないと。


「さて、今まで召喚された勇者様は皆、この世界にはないスキルを持っていたと聞く。おい、アレを―――」


 王の目配せで俺たち一人ひとりに金属製のカードが配られる。


「ソレはこの世界で普及する身分証だ。そこに体液を付けると情報が記録され、中身はある装置がなければ見ることはできん。」


 へぇ、便利だな。元の世界にもあればいいのに。


「悪いが、情報の登録を終えたら見せてもらう。魔法が得意な勇者様、剣術が得意な勇者様、はたまた作成術が得意な勇者様もおるでしょう。皆様には個性にあった教育を受けて頂き、それから旅立ってもらわなければ。」


 やばい、バレる。施政者はジジィの末端。俺のスキルがバレたら女神の介入もバレる。どうにかここから、今すぐ逃げないと。

 そんな思いで逃げ道を探している間にも、自分のスキルを知った連中がはしゃいでいる。


「『煉獄』? あ、火魔法を全て使いこなせるみたいだ!」


 なに!?欲しいな。 後で奪おう。顔は覚えたぞ。


「いいなぁ、俺は『破壊者』、鈍器を使った戦闘能力のスキルだって。俺も魔法使いたかったなぁ。」


 その盛り上がりに甲高い声が混じる。


「魔法なら誰でも使えますわよ。スキルに無いからと諦めてはなりません。世には『料理』というスキルがありますが、それを持っていない者でも料理はできますわ。」


 王女がムッチリとした笑顔で残念がる生徒へ近づいていった。

なるほど、スキルというのは無ければ出来ないのではなく、あれば更に伸ばせる、という才能のようなものなのか。


「ただ、ユニークスキルに多いのですけど、スキルを持っていないと使えない魔法や技術、作成できない武具も存在します。ユニークスキルはとても貴重で、一説には1000万に1人という割合で持って生まれるそうです。それを勇者様はもれなく所持している。我々モンプレの民は皆様の力に期待と歓迎をさせていただきます。」


 へぇ、俺たち異世界人以外にもユニークスキルを持っているのがいるのか、楽しみだ。その後も王女は俺たちの世界の事を聞いたり、スキルの説明をしていたが、俺の意識は他の連中のスキル発表へ向いた。


 クラスメイトのスキルが判明する度に奪うかどうか、優先順位まで計画していたが、この場から逃げる事を思い出す。が、思い浮かばない。


 グルグル脳内を回し、脂汗を垂らしている俺に救いの手が差し伸びる。


「失礼、勇者様。どこかお体の具合がよろしくないのでは?」


 王子だった。形の良い眉をハの字に曲げ、実に心配そうに聞いてくる。周りからも心配そうな視線と、王子に話し掛けられた俺への嫉妬の視線が刺さる。


「いや、緊張で腹の調子が―――」


「それはいけない! 君、今すぐ彼をご不浄へ!」


 部屋中の注目は恥ずかしかったが、思わぬ好機に恵まれた。先導する使用人にトイレへ案内される間、心を落ち着かせ、逃げる場所を決める。


 やはり逃げるとしたら人目がないトイレの窓だな。この丁寧な態度の使用人も流石に中までは入ってこないだろう。その間に窓からおさらばだ。



 ダメでした。トイレの前で『ごゆっくり』なんて言われて意気揚々と入ったものの、窓を開けたら切り立った崖の上でした。この城は崖の端っこに立った城らしい。壁も綺麗な白亜の壁で掴まる場所もなく、ここから脱出=この世から脱出である。 詰んだ。


 とりあえずロイヤル洋式便座に座り考える。ここから出て脱出の機会はあるか、否、使用人に先ほどの場所へ戻され終了だ。 死ぬ覚悟で窓から逃げるか? 無理、運よく助かるなんて奇跡すら起こらない高さ、それに奇跡を起こす神は俺の敵だしな。


 考え込んでいる頭にふと思い浮かぶ知識。古今東西、牢獄からの脱走はトイレからだ。自分が座る便器に目を馳せる。ピッカピカに輝くロイヤル洋式便器、そして汚れの沈着を防ぐためか、音姫の役割なのか常に水が流れている。 うん、この水はどこへ行くんだろうな。


 なるべく音を立てないように便器を外し、ポッカリ空いた穴を見つめる。狭そうだが、通れないほどじゃない。だが、途中から細くなった場合、史上初の下水管で詰り死んだ勇者として名が残るだろう。だが行くしかない。他に道はない。



 それに、予想が正しければこの先は俺の目的地に続いているのだから。


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