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3-取引

3- 取引


「なぁ、女神様。その願い、俺が叶えようか?」


 沈黙していた黒い球体の空気が変わる。驚愕から疑念、そして値踏み。

表情なんてわからないのに、それがわかってしまうほどの視線に晒された。


「驚きました。今まで私が愚痴ってしまった相手は少なくありませんが、女神の願いを

叶えるなんて言い出したのは、あなたが初めてです。」


…そんなに愚痴をこぼしているのか、向こうの神の耳に入ってないだろうな


「勿論、見返りや願いを叶える為の情報は要求させてもらう。」


 そう、これは下っ端女神に対する同情や慈善じゃない、取引だ。取引だとすれば向こう

から申し出てくれるのが理想だが、この驚きようだと俺たち人間が異世界とはいえ、神を

殺すと言い出すなんて考えもしなかったのだろう。


「えぇ、構いません。あのジジィを消す為なら私も全力で力を貸しましょう。」


 言ったな? これで俺と女神は共犯者だ。俺を蜥蜴の尻尾にはできない。


「まず、女神様。さっき『ユニークスキルで魔王を倒し…』と言っていたな。ユニークスキルって何なんだ? それは女神様が俺たちに自由に与えられるものなのか?」


「ユニークスキルとは、その者の性格・素質等を総合的に評価し、転移者に自動的に与えているスキルです。向こうの世界の人間は、最低一つのスキルを持っています。歴史に名を遺す英雄でも5個程度です。スキルにはLvが存在し、鍛錬で育てなればいけませんが、ユニークスキルは最初からLvMAXです。鍛えずに本領を発揮できます。自動的に与えているのは、私が面倒だからであり、私が望みのスキルを与えることも可能です。」


「じゃあ、俺に規格外のスキルを―――」


「無理です。人の身に分不相応な力を持った者を向こうへ渡せば、必ずジジィに感知されます。」


 それは先に言っておいて欲しかった。殺すだの滅ぼすだの安請け合いしたが、手段はこの女神に用意させるつもりだったのに。


「―――しかし、向こうに渡ってから規格外の強さとなるなら、感知されにくいかもしれませんね。」


 そんな女神の独り言に俺の冷や汗が止まる。


「そんな都合の良いスキルが?」


「ええ、そのスキルの名は『経験強奪』、殺した者のスキルを奪うスキル。」


「なるほど、そのスキルで後天的に強さを得るなら向こうの神にも感知されない、と。

 ―――そのスキルは人や、異世界人のユニークスキルも奪えるのか?」


「可能、というよりもそうしなきゃジジィには絶対に勝てません。たとえ億を超える魔物を狩ったとしてもです。」


 女神は嬉しさを隠すことなく、怨敵についての情報を与えてくる。


「可能な限りのバグ、勿論魔王と勇者、つまりあなたのクラスメイトからスキルを奪う、それがジジィに挑む前提条件です。」


 スキルを奪う、つまりは俺にクラスメイトを殺せということだ。


「あとは大地を血と骸で穢し、世界を殺してください。自分の世界が死んだ状態のジジィなら、あなたの力で殺せます。」


「神っていうのは、世界が死んでいるかで力が増減するのか?」


「はい、自分の世界は神にとって半身のようなもの、人なんて居なくても良い、信仰されずとも良い、大事なのは命が循環する世界であること、そんな世界が神の力の源なのです。」


  なるほど、殺しまくり力を蓄え、その結果世界を滅茶苦茶にすればいいだけか。


「向こうの世界が死んだ時点で、私が向こうの世界へ介入できるでしょう。殺し終えた後、そうですね、あなたとあなたの物、もし気に入った人物等がいたらこちらへ持ってくることは可能です。勿論、因果を弄り矛盾や不審な点がないように日常へ溶け込ませます。」


 望んでいた回答を得た。自分の帰還は当たり前、狙っていたのは異世界の物をこちらへ

持ち込む事。ファンタジーを持ち込み、無駄に注目を集める気はない。狙うは金銀財宝、一生自分の人生設計を支える法外な財産。長い人生、挫折もするだろう、そんな失敗をすぐにリカバリし常に前に進むための燃料。親の急死により奈落へ落とされた俺を救う、蜘蛛の糸だ。

 しかも、スキルを集めている間に簡単に手に入るだろう。あの世に金は持って行けないのだから。

 だが、


「人はいらないな。それに、少しでも糧にした方がそちらも嬉しいんじゃないか?」


「糧…、なるほど糧ですか。では神らしく予言をしましょう。あなたは必ず成し遂げてくれます。しか し、心の拠り所なしにはそれは実現しません。」


「…俺には目的がある。強欲な目的がな。その強欲さで突き進められる!」


「そんな単純なモノしか作れぬほど、私は弱くない。」


 表情なんてない球体から俺に襲い掛かる感情は、怒りだ。

この女神は、自分が作ったモノが目的さえあれば只動く人形だと乏しめられ、怒っている。


「…今はわからないでしょう。ですが、どんなことでも仲間は多い方が効率は良いのですよ。」


 女神は苦笑しながら慈しむ眼差しを向けてくれた、気がした。


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