第五話 彼の都合を知り得る者たちは
「zzz……zzzzz………」
まったく、悪魔とは無防備な生き物だ。
間近にあるチヒロの寝顔を見て、つくづくそう思う。
向こうの世界では、寝首をかかれるという事は無いのだろうか。
とりあえず、今は僕の昔着てたパジャマを着せている。
………つん。
「z…ぅにゃぁ……………zzzzz………」
突いて見ても、主だった反応は無い。
何となく、こちらまで平和な気分になる。
「………少し火照ったな」
彼女の体温は、若干人のそれより高い気がする。まぁ、そもそも僕が最後に人と同衾したのはいつだったか。
僕は布団を出て、スマホを片手にベランダに出る。
今頃、アイツ等は何処にいるのだろうか。
もう少しこっちに居れば、もっと面白いものを見られたのに。
でもまぁ、きっとアイツ等もとびきり愉快な体験をしてることだろう。共有できないことがひたすら残念で仕方ない。
正月三ヶ日の空には、やはり夜でもどこか浮かれたような空気が漂っている。
もう3時になるというのに、どこからか聞こえてくる宴会の声。眼下を走る国道には、いつもより忙しなく車が行き交う。
そういえば、僕にも従兄弟が1人いたんだっけ。
まだこっちにいるなら、僕も挨拶くらいした方が良いのだろうか。
「……ところで、うちに何の用ですか?」
…問いかけると、リビングの影が僅かに揺れた。
「ただのコソ泥なら、容赦はしませんよ」
「………ふぅ…バレちゃったかー…」
影は一歩踏み出し、月明かりの下に身を晒した。
そして、芝居がかったような口調で言った。
「こんばんは!アタシはハヅキ。うちの“姫様”の様子見がてら、この人間界で遊んでやってるのさ!」
「お前……どー見ても男だよな…」
「うるさいな!男で一人称がアタシの何処が悪いのよ!」
大仰な軍服姿、テノール程のよく通る声、短めな髪。僕よりもイケメンに入りそうなナリをしたそいつが、いつの間にか家の中に入り込んでいた。
どうしても残念系に見えるのは、おネェという際立った特徴のせいだろう。
「お?君、アタシが何者なのか聞かないんだねぇ…」
「生憎、女と同衾してもソワソワしない程度には肝が据わってるからな」
「………あくまでも正体とかはノータッチ?」
「慣れてるからな」
「そっ、そう…」
もう1人の悪魔(仮)、ハヅキは少しうろたえながらも、僕を真っ直ぐに見つめていた。
「ま、とりあえず座って話そうか」
「そうねぇ。じゃ、ゆっくりティータイムといきましょうか」
「コーヒー切らしてるし、紅茶でいいか?」
「もちろん」
何となくおかしな流れかもしれないが、これは単に僕自身の喉が渇いているためだ。
どうにも体のダルさが抜けないまま、僕はティーカップを2つ出し、ヤカンに水を入れて火をかけ、準備を進める。
「さて、ハヅキさん。僕から聞きたいことは2つある」
「はーい、何でもー」
確かさっき、晩飯のために買い物出たついで、菓子を買ってシンクの下に纏めて置いてたっけ。
「悪魔ってのは、みんなアイツくらい頭が良いのか?」
「へ?」
あれっ、おかしいな…
米びつの隣のカゴが空になっている。
「いや、そんな事はないねぇ。少なくともアタシは、こちらに来て2年になるけど文字は読めないかな」
「それは…逆にダメじゃないか?」
「あはは……」
これはもしや…と思ったが、湯が沸いたようなので火を止めてカップに注ぎ、温まったらお湯を捨て、また新たに注いでティーバッグを入れる。
「独り暮らしなのに、凝ってるね」
「食事くらい美味しくなきゃ、やる気も起きないだろ」
「それもそうだね…」
チヒロが起きてきたら、お菓子を盗み食いした罰で昼は抜きだ。
軽くティーバッグを揺らして混ぜ、抜き取って彼に手渡す。
「それで、もう1つの質問は?……あっ、この紅茶おいしい」
「そりゃどうも」
若干、間を空ける。
余韻を楽しませるというのも、もてなしの心だろう。
「アンタはどうして、ここに来た?」
「それはさっき言ったじゃん、“姫様”の様子見…」
「そうじゃない」
「………へ?」
「アンタとチヒロがどういう関係かは知らんが、様子見する程度なら、魔力やら何やら使えばいつでも出来るんだろ。なのに、アンタは今、直接ここに来てこうして僕と会話している。それがどうしてか聞きたい」
「………ふーん、結構頭の切れる人なんだね、君」
感心したような彼の態度を、僕は軽く受け流し、次の言葉を待つ。
「じゃあ、その前にアタシからも少し質問」
「質問を質問で返すのはマナー違反じゃないか?」
「まぁまぁ、そう焦りなさんな」
そうして、彼は飄々とした態度で言った。
「君さ、命って何だと思う?」
「?」
こんばんは、Gさんです。
いつも閲覧・評価ありがとうございます!
「ここはこの方が読みやすい!」とか、「ここが良かった!」といったコメントも、お待ちしてます!!
テスト終了……
今はただひたすらに、眠りたいです。
明日からがんばりますorz