第三話 オマエ…タベタイ……(適当
僕は、少し困惑していた。
チヒロは今、天界を追い出されたって言った。
でもそれって、そんなに軽い事なのか?これは余程な事情があるに違いない。
「どうして追放されたんだ?」
「えーと……(モジモジ」
「?」
「実は…おぼえてないんです…」
「………はぁ」
だろうと思ったよ。覚えてたらもっと騒いでるもんね。
「直前までお父様と言い争いをしていて、最後にワープホールに突き落とされたことは覚えているのですが……」
「どうして言い争っていたのかまでは覚えていない、と……」
「…はい………」
あーあ泣いちゃったよコイツ。仕方ないからもう1個口の中に焼き餅を突っ込んでやる。と、次の瞬間にはもう飲み込んで幸せそうな顔をする。可愛いけど怖えよ。
「…というわけで…そんなことをなんとなーく記憶の隅っこの最果てにおいて、すごい片手間でも良いので一緒に帰り方を探してくれたら、それはもうとんでもなく嬉しいですぅ(ニコッ」
「お前…帰る気無いだろ……」
「えーそんなことないですよー」
「絶っっっ対送り返してやるからな!安心しな!」
「むぅーー!」
3袋目を開け、今度はフライパンで餅を焼く。チヒロは「?」という顔をするが、放っておく。
絶対に送り返すとは言ったものの、どうやるのか全くわからない。だからしばらくはここに居座ることになるだろうけど…
「なぁ…チヒロ」
「はい?」
「お前…日本語読める?」
「読めません(キリッ」
「算数は?」
「何のことでしょう?」
「…一般教養は……」
「はい?(ニコッ」
ですよねー……
これアレだわ、喋るのだけ魔法でどうにかしてるやつだわ…
「あっ、ちなみに天界の公用語は日本語です」
「ーーーーーー!!!」
うそ…だろ……
いつの間にかチヒロは僕の横にすり寄ってきて、餅を眺めてヨダレを垂らしている。
取って食べないように僕は必死に背中でガードする。さっき僕の餅食べられちゃったもん。これは僕のだよ。
「…じゃ、僕が出かけてる間はそこの棚の本でも読んでおきな」
「はーい…(ジュルル」
幼児用の本でも、もしかしたら勉強になるかもしれない。少しでも早くコイツが自立出来れば…
程よく焼けた餅を、小皿に出しておく。そして、家を出る時に盲点だったコンロ下の棚にあったオ◯フクソースと鰹節、青ノリの封を開ける。あっ、手際悪いから餅がくっついちまった…
「話せるのに書けない、か……」
教育を受けていなかったのか、はたまたあちらには文字が存在しないのか。どちらにしろ、ここで生きるには不都合すぎる。早くどうにかしないと。
オタ◯クソースをしっかり餅に絡め、最後に上から鰹節と青ノリをかける。懐かしいような、美味しそうな香りが充満する。
最早チヒロの理性が崩壊してきてるっぽい。目を輝かせて「あーん♡」とかしてるけど、これだけは…
「…………食べたい?」
「!!(コクコクッ」
「………………ほれ」
ガブッ!!(バキィッ!?)
「あああああお前菜箸まで食いやがったなぁぁぁああ!!」
「んぐんぐ……んんんん!!!」
「ほらペッてしろ!ペッ!」
なんだか、僕もまだまだ甘いんだな。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「……んーーー、やっぱこれ疲れるわぁ」
薄暗く、ジメジメとした部屋で彼は愚痴る。
ここは天宮の最下層、地下牢と呼ばれる場所。彼はそこから、強力な魔法を発し続ける。
たった1人の脱獄犯を探すために。
「しょうがねーだろ、元はと言えばお前がアレから意識抜いたのが悪いんだろ?」
「それくらい分かってるし!……でもさー……」
彼を咎めるのは、口の悪い彼女。
「そもそもどの“世界”に逃げ込んだのかもわかんねーし、ココ洗っても無駄だろ……」
「ツベコベ言わずとっとと働け!陛下の命令だろーが!」
「痛っ?!」
彼は鳩尾を殴られ、顔を歪める。
「アタシなんか、ついさっきまで知らなかったけどね……」
“囚われの姫、なんてね…”
彼女は忌々しげな顔で、そう呟いた。
Gさんです。
おなかすいた。