第二話 魔法を見ました。
「ふにゃ〜…美味しいですぅ〜……」
「…………」
僕は今、とても驚いている。
目の前の少女は、スズキの切り餅を既に二袋も空けてしまった。
「喉…詰まらせるなよ…?」
「んぐ……んぐぐ………」
一体どれだけ腹を空かせていたというんだ。醤油も置いたのだが、最早付けずにそのまま焼き餅を口に詰め込んでいる。
こちらに全く興味を示さないようなので、僕はしばらく思案にふけることにした。
さて、これからどうしようか。
この様子だと、彼女を家に放っておくわけにはいかなさそうだ。
僕は昨日死んだ事になるはずだったから、せめて周囲に迷惑をかけないようにと、バイトは辞めてある。
だが、またしばらく生活するというと、1人暮らしでも間違いなく1月中に貯金が尽きる。ましてや、この大食らいと同居するとなれば、一週間以内に新しいバイトを見つけなきゃならない。
「でも、また時給850円スタートだろうな…」
「?」
食べることに夢中だったはずのタマキが、不思議そうな視線を僕に向ける。
コイツは気楽で良いよな…。
というか……
「…聞きそびれてたんだけどさ、」
「…?」
「チヒロって何者なの?」
「悪魔です」
「いやいや、冗談抜きで」
「はい、冗談抜きで悪魔です」
「…………はぁ…」
「何ですかそのため息は!」
どうやら、食べたら疲れた感じが抜けて性格がフツーになったらしい。
やっと会話になりそうだ。
内容以外は。
「……その、やっぱり私のこと疑ってますよね…」
「あいにく、生まれてこのかた悪魔にはあったことが無いものでね」
「ですよね〜……」
「……悪魔って言うならさ、魔法とか使えちゃうわけ?」
「はい、一応……けど、それなら天使でも、一部の人間でも使えます」
「一部の人間?」
「…噂で聞いた、ってくらいですが」
「へぇ……」
なんとなく、彼女がお茶を濁すような態度を取ったように見えた。
「で、悪魔との違いって何なの?」
チヒロはまた少し考えて…
「わかりません」
「!?」
「私自身、どうして悪魔と呼ばれてるかなんて考えた事もありませんでした」
予想もつかなかったその答えに、僕は言葉を失っていた。
「両親も天使ですし…」
「天使なの!?」
「はい、私は天使の子です」
「……………」
天使の子が悪魔!?まったく意味がわからない。
まぁ、彼女自身でもわからないことなのに、これ以上追及しても仕方ないか。
「じゃあさ、とりあえず何か魔法見せてよ。そしたら悪魔って認めてあげる」
「わかりました……見せれば良いんですね……」
彼女は一つ深呼吸すると、瞼を閉じ、手近な椅子に手のひらを向けて…
『顕現せよ、!!!』
「………うぉっ!?」
チヒロは、両手で椅子を浮かせたまま真っ直ぐ僕に視線を向ける。
「そんなに驚かなくても…」
「いや、まさか本気で魔法が使えたとは」
「だからずっと私は悪魔だって言ってるじゃないですか!」
今にも泣き出しそうな顔の彼女に、僕はテキトーに謝る。
悪魔なんて無いのが(少なくとも)この世界の常識だ。信じなくても仕方ないと思うんだが。
「じゃ、もう一つ質問して良いか?」
「?」
「君はどうして、屋上なんかに立っていたの?」
彼女は一瞬思案し……
「魔界を追い出されたからです☆(テヘッ」
「………えっ?」