表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

第一話 悪魔を家に上げました。

 


 「…ですから……私を、あなたの家に置いて欲しいなー……なんて………」



 「……はっ………はああああああァ!?」

 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいーっ!!!」



 あれから、僕はたっぷり日の出まで不貞腐れていた。

 年が明ける直前、悪魔(自称)が目の前に現れて、飛び降りの邪魔をされた。どうしようもない脱力感が、僕の全身を襲った。

 当の悪魔(仮)はずっとオロオロとしていたみたいだが、僕にはそれに構っていられるような精神力は無かった。


 そして、日の出と同時に彼女が口にしたのは、僕の家に住みたいという唐突な頼みだった。

 どうせ僕は今からでも消えられるんだ。断る理由も見当たらない。


 「…まぁいいか。ほれ、うちの鍵だ」

 「…!」

 「財布は和室のタンスの一番上の段に入ってる。お腹が空いたら勝手に使って良いよ」

 「………?」

 「じゃ、僕はここで」

 「ーーーー!!!」


 何やら必死に目で僕に訴えかけてくるが、家は明け渡したし、もう用は無いだろう。



 (ヘナヘナ…ヘナヘナ……)


 彼女は右に少し歩き……


 (ヨタヨタ…ヨタヨタ……)


 左に進み……




 (………ペタン)




 「ってなんでここで座ってんだよ!?」

 「だって…だってぇ……!」


 まぁ仕方ない。確かに鍵を渡しただけじゃ家には辿り着かないだろう。

 でも、今の情けない挙動はどうしても僕の脳内で説明がつかない。


 「もういい、僕が悪かった。家まで案内する」

 「……♡」



 エレベーターの下ボタンを押して、僕は隣でモジモジしている少女に目をやる。

 美少女を家に連れ込む。シチュエーションとしては、決して悪くないものだろう。だが、今回はあまりにもタイミングが悪過ぎた。


 「あっ…あの……」

 「どうしたの?」

 「その……あなたのお名前を聞いてなかったな…なんて………」

 「…夕樹(ゆうき)。富村夕樹だ」

 「……よろしくね、ユーキさん。私はチヒロです」

 「おっ、おう……」


 話し方こそユルいけど、結構積極的な奴だな、と思った。



 すっかり気力を失った僕は、もう2度と戻ってこないと思っていた玄関の前にやってきた。

 たぶん、しばらくその気力は僕には湧かないだろう。こういうのは、モチベーションの問題なのだ。


 僕は観念して、鍵を回す。


 「………ただいま」

 「おじゃまします…」



 整然とした(出てくる前に全力で片付けた)部屋には、どこにも生活感が無く、ただ虚無感だけが残されていた。

 食べ物も尽きていたし、水道もガスも止めてきていた。我ながら素晴らしい心掛けだと思っていた。


 だが、状況が変わった今では、少し困った問題を引き起こす原因となっていた。



 グ〜〜〜〜………


 「もしかして、腹減ったのか?」

 「いやっ…違っ……これは、その……」


 クゥルルルル〜〜………



 「…無理しなくていいよ」

 「……はい………」


 この世界での僕の延長戦は、コンビニで二人分の朝食を買うことから始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ