第一話 悪魔を家に上げました。
「…ですから……私を、あなたの家に置いて欲しいなー……なんて………」
「……はっ………はああああああァ!?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいーっ!!!」
あれから、僕はたっぷり日の出まで不貞腐れていた。
年が明ける直前、悪魔(自称)が目の前に現れて、飛び降りの邪魔をされた。どうしようもない脱力感が、僕の全身を襲った。
当の悪魔(仮)はずっとオロオロとしていたみたいだが、僕にはそれに構っていられるような精神力は無かった。
そして、日の出と同時に彼女が口にしたのは、僕の家に住みたいという唐突な頼みだった。
どうせ僕は今からでも消えられるんだ。断る理由も見当たらない。
「…まぁいいか。ほれ、うちの鍵だ」
「…!」
「財布は和室のタンスの一番上の段に入ってる。お腹が空いたら勝手に使って良いよ」
「………?」
「じゃ、僕はここで」
「ーーーー!!!」
何やら必死に目で僕に訴えかけてくるが、家は明け渡したし、もう用は無いだろう。
(ヘナヘナ…ヘナヘナ……)
彼女は右に少し歩き……
(ヨタヨタ…ヨタヨタ……)
左に進み……
(………ペタン)
「ってなんでここで座ってんだよ!?」
「だって…だってぇ……!」
まぁ仕方ない。確かに鍵を渡しただけじゃ家には辿り着かないだろう。
でも、今の情けない挙動はどうしても僕の脳内で説明がつかない。
「もういい、僕が悪かった。家まで案内する」
「……♡」
エレベーターの下ボタンを押して、僕は隣でモジモジしている少女に目をやる。
美少女を家に連れ込む。シチュエーションとしては、決して悪くないものだろう。だが、今回はあまりにもタイミングが悪過ぎた。
「あっ…あの……」
「どうしたの?」
「その……あなたのお名前を聞いてなかったな…なんて………」
「…夕樹。富村夕樹だ」
「……よろしくね、ユーキさん。私はチヒロです」
「おっ、おう……」
話し方こそユルいけど、結構積極的な奴だな、と思った。
すっかり気力を失った僕は、もう2度と戻ってこないと思っていた玄関の前にやってきた。
たぶん、しばらくその気力は僕には湧かないだろう。こういうのは、モチベーションの問題なのだ。
僕は観念して、鍵を回す。
「………ただいま」
「おじゃまします…」
整然とした(出てくる前に全力で片付けた)部屋には、どこにも生活感が無く、ただ虚無感だけが残されていた。
食べ物も尽きていたし、水道もガスも止めてきていた。我ながら素晴らしい心掛けだと思っていた。
だが、状況が変わった今では、少し困った問題を引き起こす原因となっていた。
グ〜〜〜〜………
「もしかして、腹減ったのか?」
「いやっ…違っ……これは、その……」
クゥルルルル〜〜………
「…無理しなくていいよ」
「……はい………」
この世界での僕の延長戦は、コンビニで二人分の朝食を買うことから始まった。