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男は天誅を受ける

お付き合いくださってる方、ありがとうございます。


主人公、最底辺の回です。


ここから盛り返す…ような、ただアホになるだけのような。


もう少しだけお付き合いいただければ、幸いです。


「あ、俺、きょう予定あるんで!」

「おい…!」

上司の声も、山積みの申請書も見ないふりして、俺は一目散に家路に着く。


早く、スケルトン・シェリーと話したかった。


骨になってまで、会いに来てくれた彼女なら。


理想の鎖骨どころか、全部骨になってしまった彼女なら。


どこに住んでるのか。

なんの仕事をしてるのか。


どうして、俺を好きでいてくれたのか。


鎖骨に関係ない、彼女自身の話を。

今なら聞ける気がした。


だって、俺はようやく気づいたから。


その恥ずかしいような、高揚するような気持ちが、俺をとことん鈍くさせていた。


今や事務畑とはいえ、軍人の端くれ。

後を付けられて全く気づいてないなんて、人には恥ずかしくて言えない。


ようやく、俺のきったない字の表札が見えた時。


「ラフ・ロイグ…!」


小さな呼び声が、俺を止めた。

その震え声の主が誰か、振り返らなくてもわかって、俺はタメ息をつく。


涙で潤む大きな瞳に、誰もが可愛らしいと認める顔。

そしてそれを支える、肉感的な体。


「ナタリー…」


用件は、聞かなくたってわかる。

腹筋を鍛えまくってる筋肉ダルマたちは、声もデカイのだから。


「なんで…?!…なんであの人なの??私のほうが…勝ってるわ!」


俺は、ナタリーを見た。

ナタリーがそれだけで脅えるくらい、冷たい目だった。


「何が勝ち負けか…俺には分かんないけど…俺には、シェリーのがいい。シェリーがいい」


好き、とは言いたくなかった。

初めての気持ちを打ち明けるのは、例えスケルトンでも、シェリーにしたかった。


その言い方が良くなかったのか。


ザクッ…


やけに小気味のいい音がして、俺の腹には小刀が刺さっていた。


「あんたなんか…あんたなんか…ちょっと素敵な鎖骨なだけじゃない!あと血管! !」


余りの痛みに、目の前が赤く染まる。


立っていられなくて、膝をついた俺の後ろをナタリーが走って去っていく。


なんだ、同類じゃねーか。


俺の頬に、皮肉な笑みが浮かぶ。

もしかして、打ち明けてたら結果は違ったんだろうか。


これが、因果応報ってやつか。

スケルトン・シェリーは、最後の神様の情けだったのかもしれない。


最低の男が、最低の終わりを迎える前の、ほんの少しの救いの手。


ごろん、と転がった先に、すっかり暗くなった空が見えた。

頭の方を照らすのは、シェリーが灯しただろう家の灯りだ。


人生最後の眺めにしては、悪くない。


そのまま、意識を失いかけて、何かの足音に、ふと目を動かす。

大分霞んだ視界に映るのは、紫のフードをかぶったスケルトン。


ついに、死神まで見えたか。


逆さに浮かぶそれの、習性で鎖骨を確認して、俺は跳ね起きた。

腹にはナイフがぐっさり刺さってるけど、それどころではなかった。


その完璧な鎖骨の持ち主は、この世界にただ一人。


「シェリー…!おまっ…家から出てっ…!」


ネクロマンサーの術は家の中だけ。

そう言っていたのに。


俺の言葉に、スケルトン・シェリーの顔が近づいてくる。

たおれこんだ、俺の側にしゃがんだらしい。


「うん。でも、ロイグ…ほっとけないから。ホントは優しいのに、突っ張って素直じゃなくて…鎖骨大好きなの隠してるつもりなのに、皆にバレバレだったり、ちょっと抜けてるんだもん」


マジでか。

俺の特殊性癖は、公開されてたのか。


というかシェリー、出血死する前に俺を憤死させる気なのか?!


なんにもうつさない真っ黒な眼窩から、透明な水が盛り上がって、俺を濡らす。


…今度は溺死させる気かよ。

泣くなよ、スケルトンのくせに。

初めて見たシェリーの泣き顔が、スケルトンってどうなんだ…


「迷惑だったのに、帰ってきてゴメンね。でもたのしかったよ。新婚生活って、こんなかなーって夢見れた。ありがとう」


勝手に夢、叶えてんじゃねーよ。


言いたいことは一杯あるのに、口に溢れるのは血ばかりだ。


行くな。側にいろよ。

笑っていろよ。


スケルトンでもいい。

シェリーなら、骨だけだって愛せる気がするんだ。


そうわかったのに。


スケルトン・シェリーは俺の頬に、手を伸ばす。

骨だけの指は固いはずなのに、何故か柔らかく感じる。


「お礼に、これあげるね」


透明な水が盛り上がる二つの穴が近づく。

俺の額に当たる感触は泣きたいほど、唇に似てやわらかかった。


いよいよ、感覚さえおかしくなっている。

俺、本気で死ぬのかもしれない。


それなら、シェリーと同じ骨になって、そしたらずっと一緒にいれて。


それはそれで、ハッピーエンドじゃないか?


そう思った瞬間、腹が熱くなる。

閉じたくないのに、目が重くなる。


「…元気でね」


優しい頭をなでるような声に、目を開けた一瞬。


スケルトンじゃないシェリーが笑っていた気がした。


大粒の涙を流しながら。


泣くのか、笑うのかハッキリしろよ。

つーか、もう泣くな。


そう言いたいのに、結局なにも言えずに、俺は意識を手放した。

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