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男は骨に出会う

読んでくださった方、ありがとうございます。


気分転換の短編のつもりが、長くなってしまいました…


ロイグは色々終わってる男です。

天誅くらいますので、暫しお付き合いお願いします。

「…すまん。お前とはやっぱり無理だわ…」

俺はそう言うと、しなだれかかってくる身体をそっと引き離した。


ここで、勢いよく離すのはよくない。

たとえ、そうしたいのが本音でも。


そう言うと、相手は童顔に見える可愛らしい顔を、哀しそうに歪めた。


大きな目から、ぽろりと大粒の涙が溢れる様は、うちしおれる花のようで、比護欲をそそられる…のだろう、普通の男なら。


その童顔に不釣り合いなほど、成熟した「出るとこ出てる」体形も、震い付きたくなる…のだろう、普通の男なら。


「そ、んな…私の何処がダメなんですか?」


兎のように真っ赤になった目でプルプル震える様に、抱き締めたくなるものなんだろう、普通の男なら。


例え、自分の容姿も武器も熟知して、きちんと計算してることが分かってたって、引っ掛かるのが「普通の男」なんだろう。


「悪いな、俺の理想は努力だけで、どうかなるもんじゃないんだ」


脳裏に過るのは、俺の好みを完璧に具現していた彼女のことだ。

二年前、ふっつりと姿を消したきりの、元の彼女。


忘れられないのか、と聞かれたら「それは違う」と即座に否定できる。

ただ、惜しい気持ちがするだけなのだ。


別れてからの月日が長くなるにつれて、彼女のあそこが、他にないほどに完璧であった、ということに気づかされたからだ。


「…はぁ…」


とりあえず、俺は交代番の札を返しながら、明日の大騒ぎを思って、ため息をついた。


隊一番のマドンナを泣かせるとはどういうことかと、ムサイ男に詰め寄られる未来予想図に、気分もすっかり真っ黒になって、俺は重い足取りで家に向かった。


「はー…魔術が使えたらな…」


なんでも、高位の魔術師になれば、一瞬で他国を行き来したりもできるらしい。

羨ましいかぎりである。


しかし、最近の魔術は、魔道石を核として素材をもとに構成されるのが一般的で、転移はこの限りではないから、かなりの高位でないとムリな話らしい。


その代わり、石を身に付けることで、簡単な治癒くらいは、日常的にできるようになったときくから、技術の進歩は何にせよ有りがたいものだ。


しかし、その反面、石を確保する資金は常に汲々で、上司の悩みの種でもあった。

つまりは、俺にも降りかかる難題である。


しかし、出世欲のない俺は、国の守秘義務にがっつり抵触しまくりの、面倒な魔道がらみの案件は、全て同僚に丸投げしていた。

それでも残った仕事を嫌々引き受けて、残業である。


「魔術とか使えるなら金も何とかしろよ!」


誰もいない夜道に愚痴って、魔術のない俺はひたすら、歩いて家を目指した。




そんな心身ともに疲労困憊の、俺を待っていたのは、よい香りのただよう暖かな家だた。


部屋は煌々と明るく、今朝脱ぎ散らかした服の山は、魔法のように消えて、食卓には香りの源である、俺の好物のビーフシチューらしき鍋と、山盛りのパンが用意されている。


そして、この家のどこにあったんだ?というような、ピカピカのカトラリーや、グラスまでセットされているのだ。


俺は戸口で立ち尽くし、そして一度でた。


扉に掲げてある表札の、きったねー自分の字を確認して、とりあえず深呼吸する。


そして、もう一度開いたドアを。


高速で閉めた。


(なんだ?!アレは??!)


三度目のドアは、内側から開いた。


「お帰りなさい。疲れたでしょ?ほら入って入って~」


なんだかいつも、楽しいことばかりのように、弾んでいる声。


思わず、その言葉通りに中に入って、俺は扉を閉めた。


「あら?鍵忘れてるわよ」


横から伸びた手もとい骨が、ドアの鍵を下ろすのを、目は捉えているのに、頭が追い付かない。


「あら、やだ。そんなに驚いた?」


と、片頬に手を寄せるが、押さえるべき頬は、そこにない。


あるのは頬骨だけ。


そして、その上には三角の穴がふたつ、そしてさらに上には、真っ黒な眼窩がふたつ。

しゃべるとカタカタなるのは、顎の骨。

腕も足も身体も、全て骨で出来ている。

すなわち、こいつはスケルトンなのだ。



ややこしい仕事やら、告白やらに疲れて帰れば、家に嫁気取りのスケルトンが待っている。


いくらなんでも、超展開過ぎるだろ。


頭が追い付かない俺は、ひとまず座って考えることにする。


すると、何を勘違いしたかスケルトンが、いそいそと給仕を始めた。

いつまにか用意された皿に、美味しそうなビーフシチューを入れて、俺の前にセットしてくれる。


「あ、ありがとな…」


思わず礼を言って、受け取った時。

スケルトンの剥き出しの(ま、全部剥き出しだったけど)鎖骨が、目に飛び込んでくる。


ガタンッ…


思わず、俺は立ち上がった。


「お、お前…シェリーか?!」


その言葉に、スケルトンは首を傾げて…頷いた。


「あら?私そんなに変わってる?」


(変わりすぎだー!!)


シェリー。

俺の元の彼女。

俺の理想を具現する、完璧な鎖骨を持った女。



そう、俺は特殊な性癖を持っている。


すなわち、女の鎖骨にしか興味が持てないのだ。


俺にとって女は、鎖骨についてるおまけに過ぎない。


おっぱいや尻は二の次、顔など論外。

ただ、ひとえに俺は、骨を愛していた。



…だからって、この仕打ちは酷すぎる。


理想の鎖骨を持った女は、二年見ないうちに骨(完全体)になっていた。


「不治の病気だっていうからね、ラッキーって。その研究材料になる代わりに、ネクロマンサーさんに頼んでみたの!そしたら死んですぐだと、腐ったりして大変だから骨になってから、出ておいでっていってくれたんだ~」


俺だって、サボってるとはいえ軍人。

大抵のグロいものは、耐えられると自負している。


しかし、それでも骨の中を通過していく、オカルトすぎる食事風景は無理だった。


(自分も飯が食えなくなる…!)


と、言うわけでスケルトン・シェリーには自分のお古の服を着せてみた。


体格は女性だから、ブカブカの襟元から覗く鎖骨が…エロくない。

相変わらず完璧なラインを描くそれは、今は他の骨に埋もれてよくわからない。


生身のシェリーの時は、よく悪戯に襟元から見える鎖骨を食んだ。

くすぐったそうに身をよじる彼女を、捕まえては悪戯して、飽かずに愛でたものだった。


あの頃は楽しかった。

結局、何が切っ掛けで別れたのか、俺は知らなかった。

気付けば、シェリーは僅かな荷物を全て片付けて居なくなっていたから。

俺は俺で、特に探しもしなかった。


女は、鎖骨のおまけだ。

シェリーという女には、俺にとってなんの価値もないのだから。


「じゃあ…お前は病気になったから、俺と別れたのか?」


今更ながら聞いてみると、スケルトン・シェリーは軽く頭をかいた。


「かるーい気持ちで健康診断にいったら、不治の病って言われちゃって…びっくりしたのもあって、とびだしちゃったんだー。でもその後で、チャンスかなって」


「…チャンス…??」


この先は聞かないほうがいい。

ろくなことにならない。

そうわかっていたけれど、口は勝手に聞いていた。


シェリーと話すと、いつもこうだ。

他の女ならすぐに切り上げたくなるのに、彼女のふんわかのほほんとした声をきくと、何故かずっと聞いていたくなるのだ。


「ロイグの理想の女になるチャンス…骨、大好きでしょ?」


スケルトン・シェリーは嬉しそうに、シチューを口に入れた。

だーっと茶色のものが喉骨を通過していく。

それを見ながら、俺は味のよくわからない食事を終えた。


確かにそのようなことは、言った気がする。

覚えてないけど。

シェリーをナンパしたときか?


しかし、それはあくまでも鎖骨。

皮も身もあって成立するものだ。

骨だけでこられても、困るのだ。


「つか、どんだけ上級者コースなんだよ?!」


例え万人の好みからは外れても、

人の道からは外れてない、と思う俺なのであった。

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