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映像三篇

作者: 雨宮吾子

1.水の反映

 そこは希望に満ちた世界。そこは希望に満ちた世界。どうして恨む者があるだろう。どうして悲しむ者があるだろう。

 今日も胎児が産み上げられた。今日も胎児が産み上げられた。どうして彼は泣くのだろう。どうして彼女は泣くのだろう。

 世界の彼方で死が起きた。世界の彼方で死が堕ちた。運動の果てに生きる力を喪って。時の流れに抗って。

 そして底流が死を洗い流す。そして循環が生を生み出す。底の世界から天井の世界へ。張り付いた先は手の届かない足の届く世界。

 列を作って歩き出そう。歩かない者は蹴落とされる。水は今日も流れるだけ。水は今日も流れるだけ。






2.運動

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3.金色の魚

 まるで世界から音というものが剥落してしまったかのように、その光景には音がない。匂いもしないし、何の感触もない。ただ見たものだけを覚えている。

 私がまだ小学校に上がる前のことだ。それがどこなのかも覚えていないが、銀杏の葉が敷き詰められた黄金の道を私は歩いている。風に揺らめく木々に引き寄せられるようにして、私はずんずん進んでいく。木々の散歩道を抜けると、今まで覆われていた世界がぱっと開けた形になって、コンクリート製の天守閣や石垣や門やお堀やベンチやくずかご、ありとあらゆるものが視界に飛び込んできた。頭がくらくらしたようになって、私は緑のベンチに寝転んだ。魚眼レンズのように歪んだ空が今にも落ちてきそうで、私はわっと驚いて起き上がった。そうして空を見ないようにしてお堀を区切っている柵にしがみつく。

 濁ったお堀の中を鯉が泳いでいた。赤や白や黒、ありがたくもない。鯉の群れは空に向けてぱくぱくと口を開けていた。隣の世界から肉片がぼとり、お堀の中に投げ込まれた。それを食べちゃいけない、私は夢中で叫んだ。声は声にならず、鯉に言葉が分かるはずもない。鯉たちはナイフとフォークを持ち出し、投げ込まれた肉片を切り分けていく。実に器用なものだった。くすんだピンクの肉片は、あっという間に鯉たちの腹に収められていった。

 私は世界の核心に触れたような気がして嘔吐した。胃液に混じって光り輝くものがあった。金色の魚だった。たった今切り刻まれたはずの、金色の魚だった。

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