Third Game―Privilege Execution―
「ね、幸市君は何回目?」
唖然とした。奈美も真帆も言葉を紡げないでいる。当然、幸市も。
「えっと、幸市君?」
何も答えない幸市に葵は不安げに首を傾げる。
「十九回って、なんの冗談、だよ?」
いや分かっている。葵は嘘を吐かない性格である事を、幸市は知っている。
そうでなくても、ルール説明もまだされていない現状で“爆弾ゲーム”の事を知っているということは、何らかの形で葵がゲームに関わっているからに他ならない。
「冗談じゃないよ?
私はここまで十八回、三つのステージを超えてきたんだから。
ここに来て幸市君に会えて、しかも残りの二人は初心者なんて、四つ目のステージはボーナスステージみたいだよね。」
奈美や真帆の様な生き残る為の策を張り巡らせた上での余裕とは違う――それだけの回数を勝ち抜いてきた本物の自信が葵からは溢れ出ていた。
葵がいるだけで、幸市まで簡単に生き残れる気がして来るほどに。
しかし幸市は失念していた。十八回生き残ったと言う事は、十八回生き残れなかった人間がいると言う事――最低でも十八人、葵の前で死んだ人間がいると言う事。実際に葵が爆弾を投げつけたのか、それ以外の人だったのか定かではないけれど。
「ま、正史は、どうなったか、知ってる、か?」
何とか絞り出すように声に出せたのは、そんな言葉だった。
葵がいる以上、きっと正史もこの“爆弾ゲーム”に巻き込まれているだろう。幸市にとって無二の親友である正史のことは確かに心配だ。しかし、幸市が本当に聞きたいのはそんな事ではない。
本当はもっと喜びあいたい。無事で良かったと涙したい。そして、無事に生き残り、正史とも合流し、この“爆弾ゲーム”から脱出する術を相談したい。そして何よりも、葵が乗り越えたと言う十八回のゲームがどんな様子だったのかを聞きたい。
それらの言葉を幸市は口にする事が出来なかった。ここまで十八回もこのゲームを超えてきた彼女に、未だ二回しか参加していない自分が何を言えば良いのか分からなかったから。
「ごめん。正史君とは一緒のステージになる事は無かったよ。だから正史君などうなっているのか、私には分からない。
でも、正史君の事だから、きっと飄々と生き残ってるよ!」
それでも葵は幸市が口を開いた事に嬉しそうな顔をして答えてくれた。
最後には幸市を気遣うように、慰めもしてくれた。
「(そうか、そうだよな。葵がこうして無事だったんだ。正史の奴が簡単にくたばる筈がねぇか。)」
そのお陰で、幸市は“爆弾ゲーム”に参加する破目になって以降ずっと失っていた落ち着きを漸く取り戻す。
葵がいるだけで、幸市はもう何も怖くない程の安心感を得た。
「葵、俺はまだ三回目、なんだ。」
「あ、そうなんだ。じゃあ幸市君からしたらあの二人も怖いかもね。
大丈夫だよ。私がいれば、幸市君は死なないから。」
それは勝利宣言に等しい発言だった。
葵がここまで生き残ってきた以上、まさか自殺をすると言う意味ではないだろう。だとすれば、それは即ち次のゲームで敗北するのは奈美か真帆である、と断言した様なものだ。
そしてそれをアッサリ実現しそうなほどの貫録が、今の葵にはあった。
「は、ハハ、面白い事言うねぇ。
葵ちゃんだったけ?やれるもんなら、やって見せて貰おうじゃないか。」
葵の発言から漸く立ち直った奈美が啖呵を切った。
確かに葵の発言は侮辱ともとれるそれだ。奈美とてここまで五回勝ち抜いた自負もあるだろう。奈美の言葉は虚勢のようにも見えたが、その実生き残る為の完璧なる策を張り巡らせた上での絶対の自信から来るものだ。
「クス……私としても、ちょっと不愉快だわ。」
真帆もその妖艶な雰囲気とは裏腹に、目に物を見せてやると言いたげな不遜な表情をしている。
確かに二人とも勝ち残る為の策をちゃんと持っている。葵は初心者呼ばわりしたが、思いつかない人間には、何度生き残ろうとも全く思い浮かばない様な策である事も確かなのだ。
それを葵に伝えるべく、幸市は口を開こうとしたところで、ブォンと言う不気味な音と共に画面に文字が現れた。
『それではゲームを始めましょう』
三度目になっても同じ、無機質なただの文字だ。
だが、その次に現れたメッセージは今までとは異彩を放つものだった。
『高井良葵様』
『継続参戦 誠にありがとうございます』
驚いて葵を見ると、葵は気恥ずかしそうに頭の後ろを掻いた。
『皆様は全員経験者でありますので』
『ルールの説明は省かせていただきます』
ここで初めてルールの説明が省略された。
それは間接的な葵の言葉の証明。葵が初参加でない事を否が応にも認めざるを得ないことになってしまった。
『では皆様 円の中へお入りください』
あっという間にゲームが開始される。
それはこれまでの二回には無い程の性急さで、流石の奈美や真帆も戸惑っているようだ。
葵だけが当たり前のように淡々と円の中へ移動する。
幸市も何とかそれに倣って円の中へ移動し、続いて奈美と真帆もこれまでと同じように指示に従った。
位置関係は幸市から順に時計回りに奈美、真帆、葵の順となった。
最後に葵に爆弾が手渡される。
『準備は整いましたね』
『ではゲームスタートです』
そうして今までと同じように『05:00』からカウントがスタートする。
「それじゃあ幸市君、いくよ?」
葵は幸市の方へ向き直り、軽く爆弾を投げる。
それは傍目には可愛らしい所謂『女子投げ』であり、葵がここまで生き残ってきたような猛者とは到底思えなかった。
二回目の時と同じく恐怖が体を竦ませるが、それでも葵がいる安心感か、恐れることなく受け取る事が出来た。
幸市はそのまま葵に向かって投げ返した。
「このまま幸市君とキャッチボールしてるだけで終わっちゃうね。」
他意が有るのか無いのか分からない純真な笑顔で葵はそう口にした。
幸市には思っていても到底口に出す事は出来ない言葉であったが。
「アッハッハ!確かに、こんなゲームで知り合いがいるってのは、そういう強みがあるよねぇ。」
「クス。でも、そう上手く行くかしら?」
そう、このまま葵と幸市だけでキャッチボールを続け、爆発するギリギリに爆弾を奈美か真帆に投げつける――相手が裏切る心配が無い以上、凡そ完璧な“爆弾ゲーム”の必勝法だ。
しかし、奈美にも真帆にもその手は通じない。二人にはそれ以上に爆弾を爆発させない完璧な策がある。
「葵!二人は――」
「なんて、冗談ですよ。ほら。」
幸市の発言を遮るように葵は軽く言いながら爆弾を奈美に投げ渡す。
奈美はキョトンとした表情ながらそれを受け取った。
「良いのかい?今度はこちらだけで爆弾を回すかも知れないよ?」
「大丈夫です。そんな信頼が無さそうなのは見れば分かりますから。」
葵は肩を竦めながら言う。
ここまでの軽口の言い合いの中で、奈美と真帆は気の合う友人同士といった雰囲気を常に発している。
信頼関係の無い人間同士だなんて、二回のゲームを共に過ごした幸市には考えられなかった。
それとも、ここまでの二人の軽薄なやり取りは表面上の物であって、その実は険悪である事を葵は見抜いたと、そういうことだろうか。
考えても幸市には分からない事であった。
そんな事よりも、幸市は葵に伝えなければならない事がある。
「葵!」
「大丈夫だよ幸市君。」
しかし葵は幸市を遮って言う。まるで幸市が言おうとしている事などすべて分かっていると言いたげに。
「二人が何かに自信を持ってる事は分かってるよ。
多分幸市君はここまでにその彼女達の自信の片鱗を見てきた事も。
でもね、問題無いんだよ。」
葵の自信が幸市には分からない。
奈美は爆弾を蹴る技術と度胸を持っている。真帆は爆弾を素手で掴まず、手袋を用いて掴むと言う発想力を持っている。
確かに真帆の方法は知ってしまえば、例えば服を脱ぎ、それを介して爆弾を受け取るといったような方法で真似ることは可能だ。奈美の方法だって奈美以外の誰にも出来ない方法と言うわけではない。
しかし、彼女達がその手を用いると言う事を知らなければ、爆弾を投げつけた後に意表を突かれて爆弾を戻され、結果敗北してしまうと言う事は考えられる。
だからこそ、葵に奈美と真帆が用いて来る作戦を伝えなければならない。
「大した自信だこった。それが過信にならなきゃ良いね!」
「ボーイフレンドの忠告は聞いた方が良いんじゃないかしら?」
二人にとって、恐らくは伝えられたら困る事柄である筈だ。
生き残るための秘策が、使用不可になるわけではないとは言え、警戒されてしまうのだから。
しかし、ここまで周到な二人の事だ。きっと、それ以外にも生き残る為の策は色々と考えているのだろう。だから、幸市が葵に何かを伝えようとする事を遮らない。
或いは、ただのハッタリなのかも知れないが。
「虚勢ってわけじゃないよね。自分は強いつもりで威張ってるんだから。
強いつもりってのは、単に虚勢を張ってるよりも惨めで滑稽だよね。」
「言ってくれるね。」
「クス。」
常に軽薄なやり取りを続ける奈美と真帆だが、今の葵の発言に対する不快感は隠そうともしなかった。
幸市は葵に向く敵意に気を揉むことしかできない。しかしそれ以上に、幸市は葵の発言から葵らしさが無い事が気にかかった。
「(確かに葵はハッキリと物を言うタイプで、時には歯に衣着せぬ物言いをすることはあったけど……
葵ってこうも人を挑発する様な人間だったっけ?)」
そこまで考えて気付く。葵が幸市の方を向いて優しく微笑んでいた事に。
「(まさか、葵の奴……)」
煽ることで二人の敵意を自分に向け、幸市を殺させない事を目的にしているのだろうか。
だとすればそれは本末転倒だ。敵意を煽った挙句、葵を苦しませる手段として殺意のみが幸市に向いては目も当てられない。何より、初めから幸市と二人だけで爆弾を回してさえいれば(少なくとも奈美と真帆の策を知らない上では)問題は無かったのだから。
「ほんと滑稽。だって――」
だから幸市には葵が本当は何をしたいのか分からなかった。
「二人の自信の源って、どうせ『蹴り返せば爆弾は衝撃には強いから爆発しない』とか『手袋みたいなもので掴めば人の手で触れてるわけじゃないからカウントは進まない』とか、その程度の浅知恵でしょう?」
葵はここまでに奈美と真帆の用いた秘策を完璧に言い当てた上で、それを浅知恵を切って捨てた。
「は、ハン。それはどうかな?」
奈美はそう吐き捨てるが、流石にそれが虚勢である事は幸市にも分かった。
あそこまで完璧に自らの策を読まれると、奈美の様な人間でも動揺するらしい。
或いは、他にも策はあるがそれを読みとられない為の、言い当てられて動揺したと云う演技か――幸市にそれを見抜く眼力などありはしないが。
「クス。面白い事を言うわね。思いつかなかったわ。」
その点で行くと真帆は流石だ。
内心がどうだかは知らないが、少なくとも傍目には一切動揺していないように見える。
戯れ言を口にする余裕すら見せる。
幸市も真帆が実際に用いた策である事を知らなければ、葵の方が頓珍漢な事を言ったと思ってしまいそうなほどアッサリと告げられた言葉であった。
「虚勢だって分かってるとさらに滑稽ですね。
一つのステージも突破してなきゃ、思い浮かぶ策ってその程度なのかな?
幸市君はどう思う?」
どう思うと問われても、葵の言う『その程度』すら思い浮かばかなった幸市には何を言う事も出来ない。
確かに虚勢を張る様は見ていて滑稽だし無様かも知れないが、奈美にも真帆にも、まだまだ奥の手がある様な気がして、葵の楽観が気が気でなかった。
「ふん、面白くないねぇ。」
そうボヤキながら奈美から幸市に爆弾が回される。
それは奈美の意地だろう。再び爆弾を明け渡すことで、葵など物ともしていないと態度で示すための。
『01:57』
既にゲーム開始から三分以上経過している。
時間がカウントされるのは爆弾が手に触れている時のみである以上、実際の時間はもっと経過している事だろう。
それ程の長い時間を過ごしていた感覚は幸市には無かったが、それだけ葵達のやり取りに集中していたと云う事だろうか。
幸市はあまり考えず、爆弾を葵に投げ渡す。そこにはもう葵とのキャッチボールだけでゲームを終わらせたい逃げの意図があったが、それは本人含め誰に気付かれる物でもなかった。
「どんな虚勢を張っても無駄ですよ。
お二人とも、まだ一つのステージも突破してない事は、さっき教えてくれたじゃないですか。
それじゃルールから読み取れる事しか知らなくて当然ですよね。」
葵はその爆弾を受け取りながら言う。
それは意味深と言うよりは、意味不明な発言だった。
確かに奈美の用いた策も、真帆の用いた策も、ルールから読み取れる事というよりはルールを曲解したものだろう。殆ど屁理屈だ。
「(屁理屈だろうと通れば理屈――ってわけでもないだろうけど。)」
確かにそれらはルールありきのものだ。
ここまでの幸市の経験で、ルール説明の中の文面だけで分からなかった事と言えば――
「ルール違反は……射殺。ゲームは続行……」
知らず、幸市は頭の中で前回のゲームで燈が殺された様子を思い出しながら呟いていた。
「そうだよ流石幸市君だね!」
葵はそんな風に幸市を称賛し、爆弾を再度幸市に投げ渡す。
「(でも、そんな事は奈美も真帆も当然知っていて……)」
そう幸市は考えながら爆弾を受け止めた。
「例えばルールにない事だけど『爆弾を取りこぼした場合、その爆弾に一番近い人が取りに行くように指示される』って知ってる?
あと……『爆弾を拾った後、ちゃんと円に戻ってから投げないと円から出るなっていうルールに抵触する』ってことは?」
それらは何となく察していたルールだった。
燈が取りこぼし、拾わずに射殺された時、今度は次に爆弾に近かった幸市に指示が出た。また、取りこぼした爆弾を拾った後、幸市はほとんど無意識に円の中へ戻ってから爆弾を投げ渡していた。
「はん、そんなことは知ってるさ。」
奈美が当たり前だとでも言いたげに、吐き捨てる様にそう言った。
「ほんとかしら?
幸市君、爆弾ちょーだい?」
葵に要求され、幸市は無意識に葵に爆弾を投げ渡していた。
「それともう一つ。『指示の内容は意外と厳密に指定されている』ってことはどう?」
葵のその言葉に奈美は顔をしかめる。
奈美には何か嫌な予感があったようだが、幸市には何が何だか分からなかった。
「それらを纏めると、こういうことができるのよ!」
強く言いながら葵は爆弾を投げる。
「なっ!」
それに驚愕の声を上げたのは奈美だった。
葵の投げた爆弾は奈美と真帆の中間。奈美も真帆もどれだけ手を伸ばしても絶対に届かない位置を通過する。
当然、誰も受け取る事が出来ず、爆弾はコロコロと地面を転がった。
どちらかと言えばだが、近いのは奈美だ。
『平林奈美様』
『五秒以内に爆弾を拾いゲームを続行してください』
そして幸市は気付いた。奈美も、真帆も、恐らくは。
奈美は悔しげな表情。真帆もしてやられたといった表情をしている。
「(もしこの投擲が残り一秒で行われていたら。)」
爆弾を拾ってから、円に戻って誰かに投げる――これらの動作を一秒以内に終わらせるのは不可能だ。
そして画面の指示は『爆弾を拾ってゲームを続行する事』――拾うと云う動作は複雑だ。例えば手で掴む動作は『拾う』だ。例えば足の甲に乗せて運ぶでも広義では『拾う』だろう。
しかし全体で五秒というタイムリミットが邪魔をする。
二十メートル四方はある広い部屋。円から爆弾までの距離は短く見積もっても五メートルはある。
その距離を例えばリフティングなどをして五秒以内に運ぶのは現実的じゃない。
かと言って、その場で誰かに蹴り渡すと云う行動は『爆弾を拾う』という指示に反する、その上蹴り渡した後自分は円の外――『円から出るなと言うルールに抵触する』とそういうことだ。
“爆弾ゲーム”なのだから、爆弾を相手の届く所へ投げるのは当然であると云う先入観を逆手に取った策。奈美の『蹴り返す』という策を完全に封じる一手。
しかし――
「それは残り一秒ならってだけだろうが!」
奈美は激昂して円から飛び出して爆弾を拾い、当然のように円の中へ戻った。
そう時間はまだ一分以上残っている。
確かにその策は盲点ではあった。実際に残り一秒で用いていれば、備えの無かった奈美はここで敗北したかも知れない。
しかし、冷静に考えれば真帆の様に手袋などを用いて間接的に拾う事で、普通に回避できる策でもある。
まだ残り時間のある現状でそれらを教える様な行動をすることは、無駄に奈美の警戒心を煽るだけの結果になるのではないだろうか。
そして警戒された以上、もう葵や幸市に爆弾が回される事は無いのではなかろうか。
「ふん、調子に乗ったんじゃないのかい?」
予想通り、奈美は真帆に投げ渡す。真帆は奈美に投げ返す。
「クス。色々言ったけれど、おしまいかしらね?」
もう奈美も真帆もどうやら幸市や葵に爆弾を渡す気はなさそうだ。
ここに至れば流石に葵を警戒しているだろう。どんな手を使われるか分かった物じゃないと奈美も真帆も感じているだろう。
ゲームとして楽しんでいた前の二回とは違う。どうやら奈美も真帆も、葵を真剣に処理すべき敵として認めた上で、身も蓋もない方法で封殺する事に決めた様だ。
その点で、どうやら幸市は二人の眼中から排除されたように思える。
「(計画通りなのかよ。)」
この後、二人の内のどちらかから爆弾が幸市に向かって投げられると言う事は無いのだろう。
幸市を殺させないことが目的なら、確かにそれは達成されたのだろう。
それがずっと二人を挑発していた葵の目的なのか――幸市にはとてもそうとは思えない。
実際の所、それは葵の目的の半分――いや、目的から生じる副産物でしかない。
残り時間は――『00:21』
「実はね幸市君。一つのステージをクリアするごとに、ゲームから抜けるか、新しいステージに行って継続するか選べるんだよ。」
残り時間は――『00:16』
「私は多分幸市君も正史君も巻き込まれてるって思ったから、ずっとステージを変えて続けてきたんだよ。」
残り時間は――『00:11』
「幸市君と無事に会えて良かった。だから、正史君もきっと無事だよね。」
残り時間は――『00:06』
そこで奈美に爆弾が渡る。
奈美はこれで終わりだと凶悪な笑顔を浮かべた。
これまでの遊びとは違い、本気で殺す殺意を孕んだ笑顔だった。
「それでね、これはステージを突破した人しか知らないんだけど、突破する度に一ゲームに一回使える裏技を教えてくれるんだよ。」
残り時間は――『00:02』
残り一秒で葵に投げつける為、奈美は既に投げる為の動作に入っている。
恐らくは、リリース動作終了できっちり残り一秒未満(コンマ数秒レベル)で奈美の手を離れるのだろう。
「特権執行――Count Out――」
そう葵が口にした瞬間生まれた閃光と爆風に、幸市は葵の真の目的が、残り数秒の時確実に奈美か真帆に爆弾を持たせている事だったのだと知った。