二輪
夜8時。
うるさい車の走る音を聞きながら、隣にいる奴と町を歩いていた。
「なぁ、お前、吸血鬼やめたんだってな。」
「ああ。」
「そう簡単にやめれるもんか?」
簡単だろうが、簡単でなかろうがそんな事どうでもいい。
今となっちゃ、たんなる最悪な思い出だ。
「やめたいと思ったからやめた。それだけの事だ。」
「理屈でやめた事にはならねーよ。」
ちなみに隣にいる奴は吸血鬼。
どこにでもいる、鬼だ。
「んで今なにやってんだよ。」
「殺人鬼。」
「お前は人間か?人間のありきたりな職業をホンマの鬼がするか普通。」
「殺人鬼は職業じゃねぇ。」
それこそどこにでもいる、鬼だ。
人間を殺す鬼は、今日も返り血を浴び、快感に浸る。
復讐こそ最高の快感。
人口を減らし、また減らし、無くなるまでやり続ける。
「復讐だよ。」
「ん?」
「人間と変わりない、至って普通の動機だ。」
「確かにな。んでもお前、吸血鬼も止めれてねーぜ。」
「どういう事だ?」
「吸うのを止めたんなら牙を抜けそんな度胸がねぇんなら死ぬまでお前は吸血鬼だ。」
「…。」
返す言葉がない。
否、返す言葉はあるけれど、力のない単語しか思いうかばなかった。
「まあ、よく悩め若僧、ただ、お前は吸血鬼でありながらその能力を勿体なく使用しない鬼でしかないんだからな。」
「ああ。」
そうだ。
こいつの言う通りだ、僕はただの鬼なのだろう。
「あんたと僕の考え方は違うんだろうな。」
「あん?」
「なら僕は出血鬼になる。」
「は?訳の分からねーことほざくなよ。」
「まあ僕が即興で思い付いたことだ。殺人鬼でもあり、吸血鬼でもある。」
僕は人間と鬼も境目に立つ者となる。