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とある町の少年たちの物語

星に、誓いを

作者: 前田広大

七夕ネタです。

ニヤニヤしつつどうぞ。

「ねえねぇ。」

「ん?」

「今日は、なんの日だか覚えてる?」

「…ああ、七夕だろ。」

「へぇ、七夕は覚えてるんだ。ふ〜〜ん。」

 突然口を『〜』みたいな形にしてニヤニヤしだす。

「何だ、七夕なんて雑学の一種になるだろ。」

 ちなみに今は7月7日の朝、学校に向かっているところだ。うっすらと雨が降っていて、左をさくさく歩いている少女は似合わないというと怒られるのだがやたら可愛らしい傘をくるくると回しながら歩いている。

「いやぁ、恋愛絡むことはアンタ忘れるじゃん。」

「ああ、織姫と彦星な、ありゃぁ昔話的な…」

「いや、ロマンチックな話でしょ。」

「ちなみに、織姫と彦星がベガとアルタイルだとした話だが、星の寿命を人間に置き換えたらだいたい一年って一週間なんだよ。たいして長くもない。」

「えっ!? でも、一週間、好きな人と会えなかったら寂しい、…でしょ?」

 驚いたあと、突然ちょっと赤くなってこんなことを言い出す。……こういうときのこいつは、なんというか、その、不覚にも可愛いと思ってしまうというか、えーと、あ〜〜〜〜〜めんどい!! 説明が面倒だ。常に論理的であろうと思っている俺だが、こいつの前ではものすごく非論理的になってしまう。こいつが非論理的なせいだ、ああそうだ。まったく困ったものだ。

「まあ…そう、だな。」

 あのバレンタイン以来、……実は特に何か変わったわけではない。もともと家は隣だったから一緒に登下校したりしていたし、一緒にどこかへ遊びに行くこともあった。まあそれは数年前からほとんど無くなってはいたが、そんな感覚はない。親密な何かをするわけでも、……ない。ほとんどこうして話すだけだが、それでも何かが変わったのだと思う。例えば俺の心境にしたって。

「おや〜? 誰を思い浮かべたのか教えなさい。答えによっては殴る。」

「ノーコメントだ。」

「そうか私か。」

「なっ……」

 こいつを好き、かどうかと言われれば好きなんだろう。特別な存在、…でもあると思う。昔から普通に友達としてしか見ずに過ごしてきたから、いきなり異性としてとか切り替えは出来ないけど。でも、やっぱりこいつのことは、大切な存在なんだろうと思う。一緒にいて楽しい、一週間でもそばにいないと寂しい。まして一年なんて耐えられそうもない。得意の理屈? 知ったことか。ただ単純に、一緒にいて楽しい、一緒にいたい、そう思えるんだ文句あるか。

「じゃあ、今日放課後にやろっか、七夕。」

「えっ?」

「もぅ、話聞いてた?」

 うっかりイロイロ考えていて上の空だった。しまった、これは……

「ん〜? 何を考えてたのかなー?」

 ……来やがった。よりにもよって本人に言いにくいことを考えてる時に限ってこういう追求をされる。なんなんだこれはまったく。

「な、何のこたぁないようなことだ、問題ない。」

「慌てるということは私に直接言うには恥ずかしいこと、と。」

「……」

 こういうときのこいつは人間嘘発見器だ。困ったものだ。

「さぁ、吐いてもらおうかっ! おい、カツ丼!!」

「誰に言ってるんだ刑事。」

 こんな状況でも冷静にツッコミを入れられた俺すげぇ。誰か褒めてくれ。

「よしよし。」

 ……まったくコイツは。まあ、とりあえず夕方までには晴れて欲しいな。




 ……見事に晴れた。

「よっ、と。」

 笹を、あいつの家の庭から形骸化した間の柵を超えてこちらに伸ばしてセットする。

「よしっ、OK!」

 そしてあいつはひょいっと間の壁を飛び越える。もはや半同居だよな、家が隣りの幼馴染って。…あ、いや同棲的イベントは起きていない。時々うちの食卓にあいつがさりげなく溶け込んでたり向こうの食卓にお邪魔したりはあるが。…親たちは俺たちが早く結婚してくれないかと思っているようだが、日本の民法知ってんのかあいつら。年齢考えろ早くも何もねぇよ。

 そして、小学生じみた飾りをつけていく。最初に小学校でやるからか? ほかのものを見たことがない。

「さて、短冊書くかー!」

 元気に言うと、当然のごとくうちの中に入っていく。ちなみに玄関など使わず庭に面した…えーっとこういう通る用の窓ってなんて言うんだ? 吐き出し窓だっけ。まあそっちから入っていく。慣れたものだよなこういうのは。そしてどこからともなく短冊を二つ取り出すと低いちゃぶ台、まあもともとコタツなんだが、その上にマジックとともに置いた。

「よし、書いてる間見るなよ。」

 書き上がったら見てもいいのか、なんて言わない。

「声出てるよ。」

 しまった、なんてこった。

「まったくー。」

 ん? ……待てよ?

「…なあ、朝だが、……俺、なんか言ってたか?」

「……さあね♪」

 今すぐ壁に頭を打ち付けようかと思った。



「よし、終わった。アンタは?」

 ひょい、と自分の短冊を見る。単純というかなんというか、まあ純粋……?な、願いが書いてある。

「書けたのね。つるそう。」

 庭に出て、無言で短冊を思い思いのところに吊るす。

「よし、七夕も無事に過ぎたね!」

 えへへ、と、無邪気な笑い声を上げて微笑みながらこっちを見てくる。少し頬が赤い、か? ……不覚にも、ちょっとドキッとした。

「お? なんかドキッとしたー?」

「い、いやそんなことは……」

 結局、そのまま家で夕食以降も長く一緒に過ごした。




 今は深夜、一時くらいか。目が覚めてしまって、暑いからなんの気なしに庭に出る。右には笹。こちら側に突き出して……。つい、あいつが何を書いたのか、気になってしまう。……いいよな?


 ふっ、と、思わず笑いがこぼれた。自分の短冊を軽く手に取り、自然に口角が上がる。

「まったく……」

 よくも、こう似てるもんだ。二つの短冊には、書いてある名前こそ違うが同じことが書いてあった。

 なんとなく、空を見上げる。ベガとアルタイルは明るいからなんとなく見える。天の川は見えないけどな。

 ふと右、隣の家を見る。……そこには、あいつが立っていた。

「願い、……叶うかな。」

 また、可愛い時のこいつだ。最近ドキッとしすぎて寿命が縮む。

「ああ、…叶えようか。」

「そう、だね……」

 二人同時に、空に輝くベガとアルタイルを見上げた。


『ずっと、一緒にいられますように。』


あああ、いいなあ……

前作で虚しくなったという感想がありました。

僕も虚しいです。それでも書く妄想。

きっと続きます。

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