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魂(ソウル)に響くジングルベル

サンタクロースがテーマのクリスマスらしいお話です。あなたの元にもきっと、こんな素敵なサンタさんがやって来てくれるでしょう。

 カチッ

 まじるは電気を付けた。

 そこには彼の見知らぬ一人の男が立っていた。

 その日付は12月24日、その時刻は夜、その男は赤い帽子に赤い服・・・。

 そう、その男の格好は紛れもなく、

 B系のファッションだった。




 まずはまじるの説明をしよう。

 名前は三田まじる。高校二年生である。そう、もう一度言うが、高校二年生である。

 しかしその背丈はあまりにも低く、変声期にスルーされたとしか思えない声をしており、しかも極度の童顔。そのため初めて彼を見た人の9割は小学生と間違い、残りの1割は幼稚園児か保育園児と間違う。

 まじる自身もそのことに対し強いコンプレップスを持っている。そして、それをよく弄られていた。


 まじるは友達とファミレスにいた。

 「なあなあ、クリスマスイヴの夜に男たちだけで一緒に騒ごうかって話あるんだけどさあ、まじるは?」

 「いや、悪い。その日はバイトがあるから無理だ。」

 「また例のバイトか?」

 「ああそっか、毎年恒例の。」

 まじるは毎年イヴの夜にケーキ屋でバイトをする。クリスマスケーキの売り子だ。

 小さな体でサンタの衣装を身に纏い、せわしい様子で懸命にケーキを売る様はとても愛らしく、毎年ケーキは飛ぶように売れた。その姿をみんな小さなサンタクロースと呼び、今やクリスマスの名物となっていた。

 まあ、本人はそんな呼ばれ方をされていることを知らないし、知ったら知ったでもの凄い勢いで怒るだろうが。

 まじるがこのバイトを続けている理由は、なぜかケーキの売り上げが伸びていくのが楽しく、さらになぜか給料や待遇が年々良くなっていくからだ。

 「毎年恒例?」

 まじるは聞き返した。

 『あ、やべ・・・。』

 「あ、えっと・・・ほら、お前毎年のことだからさ。」

 ちなみに、まじるの友達たちも当然このことを知っている。そして本人がそれを知ればどうなるのかも知っている。

 「まあな。ま、そういうことで俺は無理だ。」

 「そっか。残念だなー。」

 「お前イヴの夜、ちゃんと早く寝るんだぞ。サンタさんからプレゼント貰えなくなっちゃうからな!」

 「俺は子供じゃねえ!」

 「あはははははははは。」

 「笑うなあ!」

 ちなみにこのやり取りも、毎年恒例である。




 そして来たるクリスマスイヴ。ケーキはすっかり完売。さすがに疲れたのか家に帰りつくとすぐに明かりを消して床についた。


 どれぐらいの時間が経ったのか、或いはそんなに経っていなかったのか、ふと部屋で物音がしているのに気付く。疲れのせいで逆に眠りが浅かったのだ。

 寝ぼけ眼で電灯の紐を探り、引っ張ると、そこには20歳ぐらいのB系ファッションの男がいた。

 男はまじるの枕元に小包を置く途中だったようだ。その形のまま止まってまじると見つめあっている。

 しばらく膠着状態が続き、やがて赤い男の方がゆっくり左手を前に突き出し、フレミングのような形にしながらこう言う。

 「俺はサンタだYO!」

 そして再びの静寂ののち、まじるは軽く息を吸い、大声で言った。

 「そんなサンタがいるかあああああああ!!!!!!」

 赤い男はポーズを決めながら、

 「深夜にそんな大声出したら迷惑だZE!」

 と。なぜかもの凄く落ち着いているようだ。対してまじるは近所迷惑とかそれどころじゃない。

 「お前!なんでここにいるんだよ!?不法侵入だろ!?ていうかサンタってなんだよ!サンタなめてんのか!?」

 「サンタに不法侵入だとか言うなんてナンセンスだYO!」

 「サンタであることが不法侵入を正当化する理由になるとでも思ったのか!?どんな言い訳だよ!?バカだろお前!?絶対泥棒だろ!?」

 「だから俺はサンタだYO!ほら、これが君にあげるプレゼントだYO!」

 「はあ・・・はあ・・・。」

 立て続けに大声で叫んだせいで軽く息切れを起こすまじる。そして全く動じていない赤い男。まじるは男のその堂々たる態度に若干呆れ始めた。

 「まず、まずだ。お前のその格好はどう考えてもサンタじゃないだろ。」

 まずアウターにフード付きの赤いダウンジャケット、中からチェ・ゲバラがプリントしてある白いインナーが見える。そして赤と白のニット帽を被り、やたらとダブい赤いボトムスには白いラインがナナメに二本入っている。さらに左手にはゴテゴテしたシルバーのスカルのリングを二つつけ、サングラスをし、首からヘッドホンを提げている。

 「サンタらしくサンタカラーにコーディネートしたんだYO!」

 「サンタならサンタそのものの格好をしろよ!コーディネート止まりで満足すんなよ!」

 「あんな格好じゃ俺のビートを表現しきれないんだYO!」

 「やかましいわ!ていうかお前絶対B系勘違いしてるだろ!実はあんま詳しくないだろ!」

 散々喚き散らした後、まじるは少し冷静になって気付く。

 「あれ?ていうかなんでこんなに騒いでんのにうちの親起きてこないんだ?」

 「それは俺がこの部屋を外から遮断してるからだYO!」

 「あ、そう。じゃあちょっと警察呼ぶから待っとけ。」

 冷たくそう言い放って携帯を開くが、圏外。もちろんいつもなら圏外になることなどありえない。

 「・・・。」

 これにはさすがに黙るまじる。

 「じゃあ俺はこれで失礼するZE!」

 「おい待て。」

 立ち去ろうとする赤い男の足をガッと掴むまじる。

 どしん!

 と、こける男。

 「な、何するんだYO!さすがに痛いんだZE!」

 「犯罪者をみすみす取り逃がす訳には・・・って。」

 まじるは驚愕した。男の体が壁を透過していたからだ。

 「ま、まじかよ・・・。」




 「なるほど。まあ、つまりお前は本当にサンタクロースと、そういうことだな。」

 「その通りだYO!」

 「その語尾、聞くたびにムカつくからやめろ。あといちいちポーズ決めんのもやめろ。」

 まじると男は互いに正座して向かい合い、冷静に話をしていた。

 「わかった。一応、一応お前がサンタであると認めよう。」

 「でもな、なんで俺のところに来たのかだけ、聞いておこうか?」

 「子供にプレゼントを届けるのが俺の仕事だからだY」

 ガンッ!

 「俺は子供じゃねえよ!もう高校生だっつうの!」

 「嘘をついてると来年からサンタさんが来ないZ」

 ガンッ!

 「もうとっくにサンタからは卒業しとる年齢じゃボケ!」

 とりあえず、まじるとしてはそこが一番腑に落ちなかったようだ。

 「つうかさ、お前サンタとしてなってないよ。サンタってのはもっと夢のある存在でないとだめだろ。」

 まじるは外見こそ子供だが、中身もやっぱり子供である。結構なロマンチストで夢のあることが大好き。だからこういうことには口出しせずにはいられない。実際、男をサンタであると信じたのもその辺りに理由がある。

 「俺なんかサンタ歴長いからな。俺のほうがよっぽどサンタらしく出来るよ。」

 まじるは胸を張って得意げにそう話す。こういうところがまじるの子供っぽさに拍車をかけているということに本人は気付いていない。

 「じゃあ折角だから俺と一緒にサンタしないかYO!」

 「え、ほんとに!?」

 まじるは明らかに目が輝いている。

 「俺と一緒にキッズのソウルに響くようなジングルベルを鳴らしてやろうZE!」

 「そ、そうだな!よし、ちょっと!ちょっと待ってろよ!」

 そう言っていそいそと着替え始めるまじる。もうツッコむのも忘れるほど浮かれている。まじるは明らかに嬉しそうだ。


 しばらくして着替えが終わった。

 「よし!どうだ!これが本当のサンタってやつだ!」

 まじるはバイト先のケーキ屋からサンタの衣装を貰っていた。ちなみに、このサンタの衣装はまじるが欲しいとおねだりしたものである。

 「でも靴がなあ。いいのあったかなあ?」

 「それなら大丈夫だYO!」

 そう言って男がパチンッ!と指を鳴らすと、突然サンタらしいブーツが出現した。

 「おお!すげえ!そしてかわいい!」

 「これがサンタの力だYO!」

 確かにこういうのを見せられると彼がサンタであると認めざるを得ないようだ。

 「いくらサンタでも土足で人の家に上がるなんてことしちゃいけないんだZE!」

 「いやいや、お前今モロ土足じゃねーか。」

 「サンタの靴は地面から3ミリ宙に浮いているから裏が汚れないんだYO!それでも足音がするのは空気圧のせいなんだZE!」

 「なんかどっかで聞いたような話だなおい。」

 「あとさ、こういうサンタらしいグッズ出せるなら自分で身に付けろよな。」

 ちなみに男の靴は赤と白のスニーカーである。

 「お前名前は?」

 「サンタだYO!」

 「じゃ、なくて名前。サンタにもそれぞれ名前があんだろ?」

 「サンタクロースってのがそのまま名前なんだZE!」

 「あ、そうなのか。じゃあ・・・。ゲバラって呼ぶな。」

 「なんでゲバラなんだYO!」

 「まずそれはこっちの台詞だ。なんでサンタがゲバラの服着てんだよ。」

 「ヤツはとってもクールだからだZE!」

 「あ、そう・・・。」

 まじるは段々男の扱いに慣れてきたようだ。

 「まあ、なんつうか、お前をそのままサンタと呼ぶと世界中の子供の夢をぶち壊しそうだし、何より俺の気が進まない。だからその服にちなんでゲバラ。文句あるか?」

 「そんな名前で呼んでくれるならむしろ本望だZE!」

 「あ、そりゃよかったな。あ、そうそう、俺の名前はまじる。よろしくな。」

 「OK!じゃあまじる、張り切っていこうZE!」

 そう言ってまじるの手を引くゲバラ。二人はするっと壁を抜け外に出る。

 「カモン!」

 ゲバラがそう言うと無人のバイクが空を飛んでやって来て二人を拾う。

 「こいつが俺の愛車だZE!」

 「だからサンタならトナカイとソリ使えよ!」

 まじるのツッコミも空しく、バイクは爆音を立てながら空を駆けていった。

 「うるせー!」

 「改造に結構こだわったんだYO!」

 「サンタが騒音撒き散らしてどうする!」

 「どうせ町の人には聞こえないんだYO!」

 「だったら無駄な改造すんなあ!」

 こんな愉快なやりとりも町の人間には見えてないというのだから、もったいない話である。




 「おじゃましま~す・・・。」

 まじるは小声でそう言いながら、二人で壁を抜け部屋の中に入る。中ではまじるぐらい、もとい、小学生ぐらいの男の子が寝ていた。

 「おい、それでプレゼントは?お前袋とか持ってないじゃんか。」

 「それは今用意するんだYO!」

 「しー!」

 まじるは小声なのにゲバラはおかまいなしの大声。さすがである。

 ゲバラが両手の平に力を込めると、ポンッ!とプレゼントが出てきた。

 「なるほど、それで袋いらずなのか。でもなんかちょっと残念だな。」

 まじるはどこまでもロマンチック思考である。

 「ついでに靴下もいらないんだYO!」

 「だからしー!」

 ここの子供は寝つきがよかったのか、一軒目はなんとかばれずにプレゼントを置くことができた。


 「あ、あとこれがどれだけ続くんだ・・・。寿命縮むわ・・・。」

 「最初の家でもう疲れるなんて先が思いやられるZE!」

 「主にお前のせいじゃボケェ!先が思いやられるのはこっちだぁ!」

 ちなみにバイクの音はうるさすぎるのでまじるには聞こえないようにしてもらっている。ゲバラは残念がっていたようだが。

 「ゲバラさあ、こんな調子でよく今までやってこれたな。相当多くの子供に姿見られたんじゃねえのか?」

 「そんなことないZE!サンタをやって10年になるが姿を見られたのはお前が初めてなんだYO!」

 「へ~、10年もやってんのか・・・。」

 「・・・。」

 「って実質10回しか仕事やったことないじゃないか!経験浅いなおい!」

 一瞬数字トリックに騙されそうになったまじる。

 『まあ、それでも俺よりサンタ歴長いのはさすが本職といったところか・・・。』

 『そしてその10回をこいつがばれずに乗り切ってた、というのが疑わしくてならないな・・・。』




 その後も非常に危なげな感じでプレゼントを配ってゆく二人。


 それは、ある女の子の家でのこと。

 「よし、ゲバラ、プレゼント用意。」

 「OKだZE!」

 「だからうっせえって!」

 「う・・・んん・・・。」

 「!!!」

 急に子供が声を上げながら寝返りをうったため肝を冷やす二人。

 「う~ん・・・。」

 しかしすぐにまた寝付く。

 「あ、あぶね~・・・ほ、ほら、早くプレゼント置けよ。」

 「わ、わかったZE。」

 さすがに小声になるゲバラがプレゼントを置こうとする。

 そのとき、ゲバラのリングが机の固い部分にあたり

 カツーン!

 と想像以上にでかい、甲高い音が鳴り響いてしまった。

 「ばっ!何やっ・・・!」

 まじるが怒ろうとしたそのとき!子供がむくっと起きてしまった。

 「!!!!!」

 口を抑えながら懸命に身を屈め、必死に気配を消そうとする二人。

 「・・・。」

 女の子はしばらく、上半身をベットから起こした状態のままぼーっと真正面を見つめていたが、そのうちゆっくり周りを見回しはじめ、ついにその目線が二人がいるほうに向けて落ちていって・・・

 「HEY!」

 そう言ってゲバラが指を鳴らすと女の子は急にぱたっと倒れて寝てしまった。

 「な・・・何をしたんだ・・・?」

 「俺の力で女の子を寝かせたんだYO!」

 「あ、なるほど。そうか、じゃあ始めからこうできるんだったら起こしそうになっても別に問題なかったんだな。ていうか俺のときにもこうしていたらよかったんじゃないのか?」

 「これで何やっても向こう一年は起きないんだYO!」

 「前言撤回だ!問題大アリじゃねえか!何で一年も効果続くんだよ!ちょっとは加減できないのかよ!」

 「急だったからやりすぎたんだYO!」

 「これ俺のときにやられてたらシャレにならんかったぞ!俺の人生がとんでもないことになるとこだったわ!」

 「そのときはきっと一年後に謎の奇病から奇跡の回復を果たした少年として人気者になってただろうZE!」

 「やかましいわボケ!ていうか解け!はやく起こしてやれよ!」

 「でもそうしたら姿を見られてしまうZE!」

 「起こした瞬間に外に出ればいいだろ!ほら、早く!」

 「そう言うならやってみるZE!」

 「いいか、いちにのさんだぞ。いち、にの、さん!」

 パチンッ!

 女の子は目を覚まし、キョロキョロと辺りを見回した。するとそこにはプレゼントが置かれていた・・・。


 「ふう・・・最高にスリリングだったZE!」

 「お前のせいだろうが!そんな指輪してるからだバカ!」

 「つうかさ、サンタがクリスマスに髑髏身に付けんなよ!不吉だろうが!」

 「だってロックじゃないかYO!」

 「何がロックだ!てかそれなら十字架にしろよ!つかなんで逆に十字架つけてないんだよ!」

 「・・・おお!それは思いつかなかったZE!」

 「お前ほんっとにバカだな!!!」

 まじるのイライラはもう頂点に達している。

 「あとさあ、よく考えてみりゃこんな必死になって泥棒みたいに姿隠さなくても、お前の力があれば姿を見えなくするのなんか造作もないんじゃないのか?」

 「人生には常にスリルが必要なんだZE!」

 「・・・。」

 「え、えと・・・YO・・・。」

 まじるに思いっきり睨まれ圧倒された結果、その後の家は姿を消して入ることになった。




 だいぶ多くの家を回った頃、二人はある病院の前に行きついた。

 「う~ん、こいつは困ったZE!」

 「どうした、ゲバラ?」

 ゲバラはある病室をじっと見ていた。

 まじるがその部屋を覗くと、そこにはベットで眠る女性と、その傍らに座る女の子が見えた。

 「もしかしてすでに起きてるから配れないとかそういうことか?」

 「そうじゃない、あの子の望むものが問題なんだYO!」

 「望むもの?」

 「あの子の願いはプレゼントの代わりに母親の病気を治すことなんだYO!」

 「あ、なるほど。でも、それってお前の力ならできるんじゃないのか?なんか反則的なぐらいに色々できるし。」

 まじるは身も蓋もないことを言った。ファンタジー思考はどこへ消えた?

 「たしかに治すこと自体はできるがそれじゃだめなんだYO!」

 「何がだめなんだ?」

 「サンタクロースは子供には信じてもらいたいけど、大人には決してその存在を知られてはいけないんだYO!」

 「俺は子供にカウントされてんのかよ。」

 しかしツッコミはスルーされた。

 「実はプレゼントにはその子の親が見るとそれを自分たちで買ってきたと思い込むような仕掛けが施されているんだYO!」

 「だからプレゼントの中身はその子の親が買いそうなもので、その子自身も欲しがっているようなものを選んでいるんだYO!」

 「な、なんかすごい裏話だな。てかそこまでちゃんと考えられてるとは思わなかった。」

 ゲバラは基本的に適当に見えるが、サンタとしてすべきことはちゃんとしているようだ。

 「心当たりもないのに突然プレゼントが来るという状態になったらだめなんだYO!あくまでも世の中の秩序を乱さないようにするのが俺たちサンタクロースの仕事なんだYO!」

 「・・・。要するに、だ。整合性があったら問題ないってことだな。」

 「What?」




 「お母さん・・・。」

 女の子は母親の寝顔をずっと見つめていた。

 すると、急に部屋が薄暗くなった。

 女の子は驚いて辺りを見回すと、そこには少女の見知らぬ一人の男が立っていた。

 「やあ、こんばんは。」

 彼はにこやかな表情で女の子に話しかけた。

 その日付は12月24日、その時刻は夜、その男は赤い帽子に赤い服・・・。

 そう、その男の格好は紛れもなく、

 サンタクロースそのものだった。

 「さ、サンタ・・・さん?」

 女の子はその男を上から下に一度眺め、言った。

 「・・・、小さいね。」

 一瞬顔が引きつるサンタ。

 「ち、ち、ち、小さくても!サンタクロースだからね~。」

 その小さなサンタクロースは根性を見せ、笑顔で答えた。なんとか踏みとどまったようだ。

 「え、え~っと、きみはういちゃん、だよね?」

 「え?なんでういのお名前知ってるの?」

 「だって俺、いや、ぼくはサンタクロースだからねー!」

 「すご~い!」

 とりあえず掴みは成功した小さなサンタさん。

 「ういちゃん。今年一年良い子でよく頑張ったね。偉い偉い!ごほうびにサンタさんがプレゼントをあげよう。何がいいかい?」

 するとういは顔を伏せていった。

 「・・・。いらない。」

 「いらないの?」

 「プレゼントなんかいらない。だからお母さんを助けて。」

 「お母さんね、病気になっちゃってずっと眠ったままなの。もうずっと起きてないの。だから起こしてあげたいの。また起きて一緒に遊んでもらうの。」

 「・・・。ほんとにいらないのかい?」

 「・・・いらない。」

 「なんだってプレゼントしてあげるよ?ういちゃんの欲しいおもちゃでも、ゲームでも、ペットでも、なんだったら」

 「いらない!!!」

 ういは大声で叫んだ。

 「なんにもいらない。なんにもいらないから。おもちゃも、ゲームも、なんにもいらないから・・・だから・・・お母さんを治してあげて・・・。」

 ういは大粒の涙を流しながら必死にそう訴えた。

 小さなサンタは少し後悔した。

 この子が本当に母親を助けたい気持ちが、プレゼントをチャラにしてまで母親を助けたいという気持ちがあるのかを試したことを。自分がやったことはただ、いたずらに少女の心を惑わせ、不安にさせただけなのではないか、と。

 しかし、こうでもしなければ彼もまた確信の持てない曖昧な気持ちのまま母親を治療することになっていた。それは彼自身の、正義感の揺らぎに繋がってしまうだろう。

 きっと、後悔したことも含めて、彼が起こした行動は正しかったのだろう。

 小さなサンタは自責の念を抑えつつ、優しい表情でういの頭を撫でた。

 「・・・ごめんね、いじわるして。ういちゃんが本当にお母さんが好きだってことがよくわかったよ。」

 「サンタ・・・さん?」

 「よし!それじゃあぼくがういちゃんのお母さんを元気にしてあげよう!」

 「ほんと!?ほんとに!?」

 「ああ、だってぼくはサンタクロースだからね!」

 そう言って母親の傍まで寄る小さなサンタ。

 小さなサンタがその両手を母親に翳す。

 「さあ、治すぞ!」

 若干大きな声でそう言う。すると、母親が急に光に包まれ始めた。

 「わあ~・・・」

 ういはそう小さく声をあげて事の成り行きをじっと見守っていた。

 やがて光は収まり、小さなサンタは翳していた両手を戻した。

 ういはすぐ母親の元に駆け寄った。

 「お母さん!お母さん!お母さん!」

 すると、

 「ん・・・、うん・・・。」

 母親はゆっくりと目を覚ました。

 「お母さん!!お母さん!!お母さん!!」

 「うい・・・、ういなの?」

 「おかあ~さ~ん!!!」

 ういは号泣しながら母親にしがみついた。そして、その温もりを小さな体いっぱいに感じていた。

 「ごめんね。心配かけて、ごめんね。」

 母親も目に涙をため、その喜びを噛み締めていた。

 小さなサンタはその光景を見届けたあと、ナースコールを押し、窓の方へと歩いていった。

 「あの、あなたは?」

 「サンタさん!サンタさんだよ!」

 「サンタさん・・・?」

 母親は驚いた表情でその小さなサンタを見つめていた。

 小さなサンタは窓の前で立ち止まり、振り返った。

 「あなたの心にもジングルベルは響きましたか?メリークリスマス!」

 そう言って小さなサンタはそのまま後ろ向きで窓から飛び降りた!

 と、思えば、窓を出た瞬間小さなサンタはまるで煙のように消えてしまった。

 唖然とする母親。笑顔で手を振るうい。部屋の明かりはいつのまにか元に戻っている。

 「ういちゃ~ん、どうしましたか~?・・・!」

 「や、山川さんが!先生!先生ー!」




 「なかなかド派手なことしてくれるじゃないかYO!」

 「いや、まああれなら多分辻褄が合うんじゃないかとね。ほら、夢オチ?的な。」

 ゲバラもこれには呆れていた、

 「だがかなりクールだったZE!俺もそういうの嫌いじゃないYO!」

 こともなかった。

 終始演出の役しかなかったゲバラだが、どうやら満足しているようなので何よりである。

 「念のために聞くが、あの母親眠らせたのはお前じゃないだろうな?」

 「そんなことしてないYO!」

 「さっきおもっくそしてただろうが。」

 「あれは慌ててたからであのときしかやったことないYO!」

 「そうか、ならいいけど・・・。」

 まじるは、

 『これもし母親が眠ってたのがこいつのせいなら、もう自演ってレベルじゃ済まされないよな・・・。』

 と、内心冷や冷やしていた。


 「じゃあ残りのプレゼントも配りに行こうZE!」

 「おう!」

 二人を乗せたバイクは、誰にも聞こえない轟音を立てながら空を駆けていった。

 いや、もしかしたらその音は、心地よいジングルベルとなって人々の魂に響いていたのかも知れない。




 「それにしても信じられない。」

 「ええ、奇跡としか言いようがありません。」

 医者と看護師は目を丸くしていた。

 「私・・・夢を見たんですよ。」

 「夢、ですか?」

 「ええ、サンタクロース、それも、小さなサンタクロースが来てくれる夢です。」

 「夢じゃないもん!ほんとに来てたもん!」

 「ふふ、そうね。」

 「じゃあもしかしたらその小さなサンタさんのお陰かも知れませんねえ。」

 医者は非常に懐の深い人間だった。

 「ふふ、そうかも知れませんね。」

 「ほんとだよ!ほんとにサンタさんがお母さんを治してくれたんだよ!」

 「じゃあサンタさんにお礼を言わなくちゃいけないねー。」

 看護師もそう言ってういの頭を撫でながら微笑んだ。

 「小さなサンタといえば、知ってますか?」

 「ああ、あのケーキ屋のことか。毎年バイトしてる男の子。」

 「はい、私も知ってます。そういえば、どことなくあの子に似てたような・・・?」

 「それはまた。いやあ、ほんとに奇跡みたいな話ですねえ。」

 「不思議な繋がり。こんなことって起きるんですね。」

 「そっか、じゃあ来年はあそこでケーキ買おっか?今年お祝いできなかった分、来年は楽しくやろうね、うい。」

 「うん!」

 親子はまだ一年も先のクリスマスに、早くも胸を躍らせていた。




 「あ・・・頭いて。体いて。」

 そこには、ひどい顔をしてぼっさぼさの髪型のまま無様に布団の上をのたうちまわる元・小さなサンタがいた。

 「時計も確認せずに寝たからな~。昨日結局俺何時に帰ってこれたんだ?」

 ちなみに現時刻は午後1時。

 「あああああ・・・」

 汚い声を上げながらやっと体を起こすと、手に何かが触れた。

 「これは、ゲバラの。」

 そう、あのときゲバラが置いたプレゼントだ。

 「え~っと、なんだっけ?プレゼントの中身はその子の親が買いそうなもので、その子自身も欲しがっているようなものを選んでいる、だっけ?」

 「じゃあ俺はどういうプレゼントになるんだ?」

 まじるは包みを開けた。

 開けた瞬間止まった。

 「確かに、確かにうちの親が買いそうなもので、俺も欲しがるようなものだ。ああ、間違いない。」

 「だが、だが。」

 「来年アイツに会ったら・・・殺す!」




 中に入っていたのは、


 みんなを見返せ!これでアナタも背が伸びる!


 という本だった。




Merry Christmas




え~、前書きは見え透いたミスリードでしたw


私には人を感動させられるような作品が書けないので終始ギャグテイストに徹してみましたがいかがでしたか?

仕上げたのが24日ギリギリだったこともありディティールがあまりちゃんと作り込められなかったのが残念です。なんせ文字数が伝説の勇者(笑) 全編とほぼ同数だったくらいなもんで。

この作品を読んで少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。






あとクリスマスにいちゃつくカップルばくはt(ry

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