冬に見た夢
登場人物
俺 佐藤 一 さとう はじめ
幼馴染 苺谷 未央 いちごたに みお
本命ちゃん 白河 梨沙 しらかわ りさ
他 男友達2人
今は12月上旬、冬休み前の期末テストを終えて年内の投稿日も残す所数日と言った所。
白河さんとはたまーに休みに遊びに行くけど多分脈ナシだよなぁ、俺はこんなにも好きだっていうのに。
「佐藤〜、土曜日に映画新作やるから映画館朝イチで行かない?」
俺は白河さんが好きだけど幼馴染から猛烈アタックを食らっている。嫌いな訳じゃ無いけど恋愛感情的に特別好きって訳でもない。ただクズ発言すぎるけど「妥協」して苺谷と一緒に居るのはある。
「おうけい、また放課後に時間とか決めようぜい」
ちょうど返事し終えると昼休憩終了の予鈴を、教室ホワイトボードの上のスピーカーさんが告げてくれる。
それからは各自自分の席に戻り授業準備をしたり席の近辺の奴と話したりしている。
クズ発言その2として苺谷はキープ、本命イケるならスパート掛ける。高校受験や大学受験、就職試験などでいう所謂滑り止め枠が苺谷、本命校が白河さんなのだ。
なので下手に妥協して焦って苺谷とくっつく必要は特になく(まぁまだ告られてもないし)、適度なスパンで白河さんを遊びに誘い雰囲気見て告る、フラれたら苺谷と引っ付いたらノーダメージっていうルートを自分のなかで描いている。
1日の授業が終わりHRも終了、後は教室で駄弁る者やバイトで帰る者等みんな様々な行動をしていた。
かくいう俺は自分の席の近くに居る白河さんとその仲間達を眺めたりしつつ、苺谷を含め友人達との会話に花を咲かせていた。
「朝イチの映画って確か専用入口から入ってシャッター開くの待ちだったよな?」
「そうそう、だから開店30分前に到着して中に入っていい席を確保しつつ分担してグッズやパンフを確保後、ドリンクやらフード系の確保って流れだね」
そんな話をしていると白河グループからチラッと視線を浴び、何やらグループの中で会議が行われてそうな予感があった。
たまたま目は合わなかったがすっごい不自然に見られてすぐグループ内の会話に戻ったようだった。
戻った後はより一層顔を近付け、比較的小さい声で会話を続けているようだった。
お互いのグループで会話を続ける事数分。
白河のグループから白河さん自身が離れ俺達の輪に入って来た。
「ねぇねぇ話したい事あるんだけどさ、ちょっち良い?」
突然入ってきた白河さんに少し動揺する。
「佐藤くんさ、土曜日ヒマかな?」
心臓が早鐘を打つ。意識も特別していない時に俺に不意打ちのアタック。
「土曜は苺谷と映画見に行くんだよね、日曜ならフリーだけど、どした?」
「土曜日じゃなきゃダメなんだよね、苺谷さん変わってくれたりしない?」
女は怖い、どう考えても近くで話を聞いていたはずなのに。土曜日の予定を自分優先して尚、お前が後回しにしろ、と交渉出来るのか、これ絶対女子内で揉める話なんだよな。
白河さんが苺谷さんの先約を変えさせた、私は善意で変えてもらった、苺谷さんが可哀想、それに付き合う佐藤も佐藤で悪い、苺谷さんがどう考えても優先だろ、と後々飛び火してくるパターンなんだよね。
白河が座っている苺谷を見下ろす形になっている。
「日曜日昼過ぎから雨だから土曜日に予定入れてるんだ、ごめんね白河さん。雨さえなければ変わってあげてもいいんだけど...」
と苺谷は完璧な返し、実際日曜の降水確率は90%で降水量も20mmオーバーとなかなかの大雨なのだ。そんな中電車やバス、なんなら自転車に乗ってまで映画を見に行き午前中にトンボ帰りなんて誰もしたくないのである。
「あ〜、確かにそうだよね...
あ、ならさ!苺谷さんと別れた後でいいからさ時間調整してよ!何時でもいいからさ、ダメ?」
困り眉をし、首と合わせた手をコテンと傾げ、女の武器をチラつかせる。
女は怖い、普通コレ面と向かって言う???
無理矢理予定ねじ込みして意地でも土曜日に会おうとする執念。いや、別に会うのはいいけどそれを本人の目の前で言うってのが怖い、怖すぎる。
「バイバイした後ならご自由に、ただ佐藤の事も考えてやりなよ?」
「それはもちろん!」
「別に俺はいいけど、苺谷と別れた後にってなったら遅くなっちゃわない?」
「私は大丈夫だよ、冬のナイトデートって雰囲気良くない?」
空気が凍る。
このクラスで苺谷が俺を狙ってるのは皆そこそこ分かってるらしい、特に女子グループ。
苺谷の居ない時に俺達のグループでも時々話題に上がるくらいには勘付かれてる。
俺が白河さんを好きで狙ってるってのは仲良いメンツには相談してるんだよな、人の口に戸は立てられんとは言うし、どこからか絶対漏れるものだろうからあんまり内緒にして、とは言ってない。
そう苺谷は俺を狙ってる、俺は白河さんがターゲット。その中に白河さんからのデート発言。
俺の事を知ってる人が見れば俺と白河さんのカップリング完成、知らない人が見れば俺と苺谷に加わり三角関係とかいう超カオスな状態に変化したと言っても過言ではない状況になりつつある。
「ま、佐藤くん今日帰ったらまた連絡するね〜」
白河さんはそう言いグループに戻るとみんなでカバンをもって教室から出ていった。
「何あれ、ほんと気分悪いんだけど、後から来て予定奪い取ろうとするなんて。ゴメンけど先帰るね」
苺谷も怒ってカバンを持ち正面玄関で鉢合わせしない様に遠回りして教室を後にした。
「面白くなってきましたァ!」
「おいおい佐藤どうすんだよこれ」
2人が言う。
「どうするもこうするも、苺谷が先だし満足する時間を擦り合わせして、そこから白河さんと会う感じになるだろ、下手に白河さんとの時間増やしたら後々外野とかに何言われるか分からん」
「まあそれはそうだよな、てか脈ナシって聞いてた白河さんがデートって態々言うのはなもはや脈アリに転換なのでは!?」
「テンション高すぎだろ、佐藤の身にもなれよ、衆人環視の中で炎上の火種を抱え込まされた挙句、本人は内心嬉しくて堪んねぇってなってて選択誤り下手したら即ドカン、噂が広まって佐藤も白河さんも悪く言われるのがオチだからな」
「あ〜、なるほどな。好きな子を好きと言えず、別の子からアタック食らってるのをのらりくらりと躱しつつ、気持ちが離れないような適度な距離感をとるなんて、モテ男さんは違いますねぇ」
「テンション爆上げかと思ったら急にぶっ刺してくるじゃん君、なに?こわ。佐藤君のメンタル乱高下なんだが?」
そんな話をしつつ学校を後にし、苺谷と白河さんとの時間調整を考える。
午前中から行って映画を見て昼飯を食べて少し遊んだら解散っていう流れでも3時か4時頃解散なら許してくれるであろう。
無理でもこの時間には切り上げさせてもらおう。
『やっほ、明日の擦り合わせしようぜいー』
そんなメッセを送るとすぐ既読と返信が帰ってきた。
『やっほー ヤッホー ヤッホッホー
とりま映画館は9時から入口開くみたいだから9時には現地集合で、それから映画見た後にフードコートでランチ、あとはショッピングさせてもらってもいい?』
『おk、俺も靴欲しかったし靴見させて貰うわ
多分3時か4時頃には解散って形になる?』
『ほいやさ〜
うーん、多分?
白河さんでしょ?( ・᷄ὢ・᷅ )』
うっわ、やっぱ怒ってるか。でも時間決めてないと困るしな。
『そ、そうだけど、、、
多分事情があるんだろうし、ね?』
『事情ね、ホントにあるのかどうか分からないけどね。まあ3時に解散にしようか、私も家の事したりしなきゃだしね』
『了解、楽しみにしてる』
ふう、この数分間で胃に穴が空きそうなぐらいストレスダメージ受けたような気がする。
次は白河さんに連絡なんだけど...
ピロンッ
そう思ってた矢先に新着メッセの通知だ。
やはり白河さんからメッセ。
『おつかれ、土曜日の時間とか決めれそ?』
『おっおっおっー
3時に解散、そこから移動って考えたら何処に集まるかにもよるけど4時以降とかの方がありがてぇ〜
お出掛けスポットはどーする?』
『うわ返信早w好きすぎかよw』
いけない、即返信してしまった...
好きだと声を大にして言えたらどんなに楽か...
恋すると普段通りの行動が取れなくなってしまう、まあ仕方ない、落ち着いて返信考えよう。
『世界中ノミンナハキョウダイです、ミンナアイシテイマス』
おい普段通りどこいった俺。
『人類みな兄弟理論の外国人さんやめて?wツボったwww』
ガチか、意外とウケてるなら儲けもの。
『すまんすまん、笑い死にさせる所だったか』
『マジでデスる所だったわww
まだ止まらんww
ふぅ、じゃあ移動しやすいように駅に集合しようか、何時頃に駅着けそう?』
『余裕で3時半には着きそうだけど?
もう少し早いかもだけど余裕みて3時半で』
『おっけー、じゃあ3時半に駅に集合!
お出掛けスポットはもう考えてる!夜ちょっと遅くなりそうだからしっかり暖かい格好してきてね!』
『了解!お任せします
灼熱の太陽着て行きます』
『ちいちゃめの太陽でお願いねw』
マジ普段通りの対応どこいった。
そして時は流れ金曜日
冬休み前の最終日の登校日、LHR後
もう明日から冬休みといっただけあって用事がある人以外は全然帰らず他クラスに行ったりと各々自由を満喫していた。
そんな中また先日の4人(男友達2人と俺と苺谷)で集まって話していた。
「今年こそはクリスマスデート行けるように頑張るぜ」
「大体イベントで付き合う人達って長続きしないって言うよね、気をつけなよー?」
苺谷がニヤリと笑う
「うっせ!どうせ俺たちゃ今年もクリぼっちですよー」
「勝手に俺達も巻き込まないでくれる?大変遺憾であります」
「ほんとそれ、遺憾の意を表明せざるを得ませんな」
「2人とも何その言い方、外交官じゃーん」
苺谷はニコニコと笑う。
「なんだとぉ!毎年恒例じゃないか!」
「ちなみに俺は彼女いるぞ?」
俺の男友達の片方がそう言う。
「「「は!?」」」
まさか誰も知らされていなかったとは...
「もう半年も前だけどな、偶然女子校の人と仲良くなってそれから付き合ってるんだ」
照れながら視線を俺達から逸らし頬をポリポリと指先でかく。
「佐藤くん〜」
この空気を壊すように白河がニコニコと割って入ってきた。
「おお、2学期お疲れ様」
俺が答える。
「みんなもおつかれ〜」
「あっという間に1年終わっちゃいそうだよね、もう来年は3年だしさ」
苺谷が答える。ただ白河さんの方には目もくれない。
「ホントそれな、俺進級出来るのかどうかすら分かんねぇよー」
「まぁ頑張ってね、私は進路の事の方が不安だよ」
白河さんが腕を組んで目を瞑って考える素振りをする。
進級すら危うい奴がさらに顔を青くしウンウン唸り出した。
「ところで佐藤くん、明日のデート楽しみにしててね、絶対楽しめると思うから!それじゃ先帰るね!バイビー!」
今度こそ教室中が静まり返った。
あんな事を聞こえるように言ったのだ。男も女もこちらを見ている。こういうのもなんだが白河さんはクラスのマドンナ的な立ち位置の女子だ。男女問わず色んなクラスに友達がいるようだし、顔も整っておりスタイルも標準的でとても見目麗しい。
そんな彼女に想いを馳せる男女がいるようだ。
そんな中の先日と今の発言。周りのヤツらからは睨まれる始末。
「この前に引き続きまたデート発言ですな佐藤。そのうち他の男から刺されても文句は言えねぇぞ」
「ほんとにどれだけ自分に自信あるんだろ」
今度は俺が居た堪れなくなって逃げるように帰った。
下校時、たまたま下駄箱で白河さんと遭遇した。俺は隠れるように下駄箱の影に隠れるようにして、自分の下駄箱の場所まで移動してきた。
「あれ?またまたたまたま遭遇佐藤くん」
「さっき会ったけどな」
悪い事してないのに悪い事したみたいな気分になっちゃったじゃん。
そのまま靴を履き、上履きはレジ袋に入れてからリュックに放り込んだ。
「大丈夫なら途中まで一緒に帰らん?」
ニコニコと話してくる白河さん、眩しい...
「大丈夫だけど、方向一緒?」
「多分?」
靴を履いた俺達は校舎玄関を抜け正門に向かって歩き出した。
玄関から正門までまだまだ生徒が残っている。ただただ駄弁る者、部活のメンバーで集まってる者、1年生が外から教室内の人と話していたりと下校時間になってから少し経つがまだまだ学校内には沢山の人が残っているようだった。
年内最後の人もいるだろうから年明けまでの分を話貯め?しているのだろう。
「ねぇ佐藤くん、明日楽しみにしてくれてる?」
横からふわふわとした声が漂ってくる。
「もちろん、女の子と2人で遊ぶのなんて滅多に無いし、白河さんと遊びに出るのも久々だしな。それに...
いや、苺谷は幼馴染だしノーカンか?」
「えへへ、久々に...か
私はちょくちょく佐藤くん以外の男の子と遊んでたけどね」
「え?なに?モテ自慢?白河さんも急に刺してくるじゃん」
「ハハハ、そうじゃないよ〜。知らないかもだけど佐藤くん人気ある方だよ?」
そう言って肘で俺の脇腹をチョイチョイつついてくる。
楽しい、何でもない感じがとても楽しい。本当に一緒に居るだけで楽しく感じられる。
いつ分岐がきて「また明日」と言って分かれるか分からない。早いかもしれないし遅いかもしれない、分かれる前に勇気を出して送ってあげると言うべきなのか。
用事や理由があるなら断られても仕方ない、言うだけ言ってみようか。
「あ、そうだ白河さんさえ良ければ送ってくよ?」
佐藤はなんでもない様なフリをして白河に提案した。内心はとても焦り、断られたらどうしようという気持ちでいっぱいいっぱいだった。
心拍数は跳ね上がり、声が上擦って無かっただけマシで、少しずつ手汗が滲んできていた。
「お〜?じゃあ駅までお願いしようかな?と言ってももう見えてるけどね」
そう、この高校は徒歩10分も無い場所に建っている。大方の生徒は電車を使ったり自転車を乗ってきているようだ、割合と言っては恐らく2/3位が電車や自転車の利用。残りは近くの小中一貫校から進学してきた人が徒歩で来ている位だ。
佐藤はここの徒歩枠の生徒である。
そう、ならば必然的に佐藤もわかるはずなのだ。小中一貫で見知った顔ではない白河は電車通学なのだと。
やはり佐藤は上がってしまっていた。
そして他愛もない話をしている間に駅に着いてしまった。
「なんかあっという間に着いたね、普段はもっと長く感じるのに。
ありがとね送ってくれて、また明日ね」
「おう、また明日」
時刻表を確認した彼女は改札を抜け、笑顔を浮かべ手をヒラヒラと振るとそのままホームへ降りていった。
「ほんと、あっという間...」
独りごちた佐藤は改札前を後にし自宅への帰路に着いた。
日付が変わって土曜日の朝8時半。
着替えて髪のセットも済ませ、映画館が併設されたショッピングモールへ自転車を転がしていた。
無事に天気も晴れ、日中も雲ひとつ無い青空になりそうな雰囲気を感じつつ、冷たい風を全身に浴びながら佐藤は少し考え事をしてながら漕ぎ続けていると突然後ろから声を掛けられた。
「おはよう佐藤」
声の主は苺谷だった。
幼馴染と言うだけあって家もそこそこ近く、現地集合にしたとは言えほぼ経路は一緒だった為遭遇した形になった。
「おはよう苺谷、まさか割と早い段階で会うとはな」
「まぁね、でも丁度9時くらいに着きそうじゃない?」
多分このペースなら5分前位には着くはず、早めに着いて少し休憩出来るくらいが丁度いい。
「だな、朝食後の運動にも丁度だしたまには自転車も乗らないとな」
「佐藤も私もそこまで太ってないし気にしないで良くない?」
「今は良くてもゆくゆく健診で引っかかるようになるんだよ」
「お父さんにも同じ事言われたんだけどマジで...」
そう、それが事実なのだから。
そして佐藤達は無事映画館のチケットを確保し、映画鑑賞の後フードコート内でのランチタイムに入っていた。
2人はステーキ丼とデザート枠でドーナツを食べ、映画の感想を語りあっている時だった。
「ねね、これからショッピングの前にゲーセンでプリでも撮ってから行かん?」
顔を少し赤くしながら苺谷が言う。
「プリ?珍しいじゃん、あんま撮りたがるイメージ無かったけど。
よし、食べ終わって少し経つしゲーセン行くか〜」
佐藤が言いながら時間を確認し終えると2人はゲームセンターへ向けて足を進めた。
そして普段プリクラを撮らない苺谷は複数あるメーカー、筐体のどれを選べばいいか分からず悩んでいた。
「確かこのプリ機が結構自然な仕上がりで評判良かったはず」
佐藤は自然にそう言うとお金を投入、加工やデザインをスラスラと決めて行った。
「なんかプリ機って進化したんだね」
苺谷は時代の進化に取り残されている気分と、佐藤が迷いなく筐体を選んだ事に少し複雑な気持ちになっていた。1年も撮らなければ見知った筐体等もデザインを変え名前を変えリニューアルしたりと大変なのだ。
2人はプリクラを取り終えたので、佐藤が先に出ようとするのを苺谷が腕を掴んで引き止めた。
「あ、あのさ。
こんな所で言うのもなんなんだけどさ、佐藤。
ずっと佐藤の事好きだったんだ、告るつもりは無かったけど白河さんとデートって言うから焦ってさ、取られる前にって。
だからさ佐藤、好きです付き合って下さい」
苺谷は顔を真っ赤にし視線を掴んだ佐藤の腕に固定したままそう言った。
佐藤も佐藤でやっぱり来たか、と思っていた。
「ゴメン、苺谷。薄々感じてた、クラスのみんなも俺も。好きなんだろうなって。
でも、俺は酷い男だからさ、やめといた方がいい。普段が楽しくなかった訳じゃなくてさ、苺谷よりもっと好きな人が居るんだ、その人が居なきゃ付き合ってたかもしれない。
だから苺谷とは今まで通り幼馴染で、昨日みたいに4人で集まって話してる時の関係性で居たい、なんて」
佐藤が掴まれていた手を取り軽く握ると苺谷も熱くなった手を握り返してきた。
「あえて誰かは聞かないけどさ、大体こうなる事は分かってた。気持ちを伝えないまま、っていうのもモヤモヤしそうだったから言うだけ言ってみた!
ね...ホントに最後のお願い。
キス、して」
佐藤は驚く。けど振った手前断り難い。
なんかそう言う心理学あったよなと頭の片隅から記憶を引き出そうとしていた。
本命のお願いをする前に、断られるお願いを先に出すと本命を断られ難くなるとかなんとか。
ほんの少し悩んでいる時にプリ機の暖簾?をかき分けて別の組がはいって来たので急いで手を引いて出て、加工ブースへ入った。
2人は向かい合ったまま気まずい空気が漂っていた。
「1回だけ、軽くね」
そう言った佐藤は軽く繋いだままの手を引き、空いている手で腰を抱き寄せ軽く唇に触れるキスをした。
苺谷は少し驚き固くなっていたが、1秒、
2秒と時間が経つと力が抜けて落ち着いていた。
何秒していたかは数えていない。
プリ機の中で話してる間に、加工時間がただでさえ短かった残り時間が10数秒まで減っていた。
お互い顔を離し顔を紅潮させ、プリ機の画面を見る。
「もう盛れない、ね」
平井が画面を横目にしながら言う。
佐藤ももう加工は諦めていた。
こうして2人はこの日初めて撮るだけ撮って加工しないプリクラを入手した。
「ありがと、佐藤。キスしてくれて。引きずるだろうけど、距離感だけは変えないで」
プリントされて出てきたプリクラを備え付けのハサミでお互い切り取り、スマホケースやサイフに仕舞った。
「あーあ、ショッピングする気無くなっちゃった。白河さんとの事もあるし解散にしてもいいよ」
喧騒まみれのゲームセンターを出ると、目を真っ赤にした苺谷が言う。
「苺谷が、それでいいならね。俺は靴だけ見て帰るよ、ランニングシューズの寿命が来ててさ、割と急ぎだからさ」
「了解、なら、解散!私も欲しかったアクセだけ見て帰るね。
またね、佐藤、と言っても初詣で会うんだろうけど」
「ああ、またな。事実あそこしか近くに無いからそうなるだろうけどな」
そう言い残し、2人はゲームセンターを離れ別々の方向に歩き出していった。
片方は近くにあるスポーツシューズ店へ、もう片方は店の中央部にあるアクセサリーショップへ振り返ること無く進んで行ったのだった。
佐藤は探していたシューズを見つけ出し試着し、価格をネット通販サイトと見比べ差額に驚きつつ店を後にした。
苺谷は泣きそうな目を瞑って、アクセサリーショップでプリムラをモチーフにしたイヤリングを購入した後、それをすぐさま耳に付け店を後にした。
佐藤は自転車を漕ぎながら先程までの事を考えながら駅まで自転車を走らせる。
頭の中には、告られた、キスした、シューズ店舗価格高ぇ!の大まかに3つだった。
ウンウンと悩みつつ、この冬の空気で乾いた喉を時折水で潤わせながら自転車を走らせ、あっという間に待ち合わせの駅に着いたのだった。
待ち合わせは3時半、現在時刻は2時前。
ショッピングモールを後にしたのが1時半すぎだった為、早く着きすぎるのも分かっていたが、1回家に帰るとダルくなったり色々考えそうなのでそのまま駅まで来たのだがある意味正解したと思った。
なんせ身体が冷え、先程から飲む水が氷水のように感じられるのだ。
この駅にはコーヒー店が併設されており、佐藤はそこに入り時間を潰すことにした。
注文したのは勿論ホットコーヒーとフォンダンショコラ、両方とも少しでも身体を温めてくれたら、という思いで佐藤は注文したのだった。
席につきコーヒーとスイーツを味わっていると店内の快適な温度設定と心地よい音量のピアノジャズ、適度な騒音が佐藤を微睡みに誘う。
腕を組み、佐藤はそのまま睡魔に逆らうことなく眠りへと入ったのだった。
視点変更
ふーっ、息を手に軽く吐いて指先を温める。
手袋をしていたとはいえ12月の空気はキツイ。
「まだ2時半、か。緊張し過ぎて早く着きすぎた...
寒いしコーヒーでも、と」
白河は佐藤の居るコーヒー店にたまたま入り注文を済ませ、コーヒーとガトーショコラを受け取り席を探す。
土曜の昼過ぎといった事もあって少しだけ人は少ないがそれでも選べる席は多くない。
店内を見渡していると見知った顔が1人用ソファの席が向かい合った2人用の区画に居ることに気がついた。
よく見ると彼は席に浅く座り足を少し伸ばし、腕を組み背もたれに背を預け、腕を組み瞑想中のような悩んでいるような、何とも言えない体勢を取っていた。
ここのこういった2人席は半個室のような形になっており、座っていると外からの視線は余り気にならないような設計になっていた。
それでもたまたま見つけたのは愛のなせる技か、運命か、はたまた偶然か。
白河は飛ぶようにして、眠っている佐藤の前に何食わぬ顔で座った。さも待ち合わせしていましたと、当然のように腰をおろし荷物をカゴに入れコーヒーを味わう。
「おいしい、あったまるぅ」
両手で口と鼻を覆うようにしてふぅ〜と息を手に吐きかけ手を温めると同時に、コーヒーの匂いを確かめる。
コーヒーで口を潤し、身体を温めた後ガトーショコラをフォークで切り取って食べる。
こちらも程よくビターかつ甘みもあり、口に入れると溶けるようにしてチョコが全体に広がり滑らかな舌触りと小さく砕いたクルミの風味を味わえる。
コーヒーに合う、とても美味しい組み合わせ。私はこの店に来たら毎回この生ガトーショコラと深煎りのコーヒーを注文する。
たまに気分転換で彼の頼むフォンダンショコラを食べる事もあるがやはりこの組合せ。
そしてこの店の雰囲気がタイプなの。
店内のお高いスピーカーから流れるジャズ、店内を漂うコーヒーの香り、座面が長めで背もたれが倒れていて寛げる柔らかいソファタイプのシート、カウンターには1枚板を使ったいたりシックな内装。必要最低限の道具、かつ邪魔にならないようにバランスよく店内に配置された装飾物。この店は私の五感を満足させてくれる。
チェーン店では無いのに駅ナカのテナント料が高いはずの場所に10年以上も前から居座り続けているのには理由があるハズだ。
「朝から苺谷さんとデート、午後からは私とデートなんて、ほんと悪い人」
本人は目の前で眠りこけている。
疲れた体にこの店内空間とコーヒーは確かに致命傷である。
なんだか私も少しウトウトとしてきたような?
コーヒーを少し飲み、ガトーショコラをまた1切れ口に運び目を覚ます。
が眠い。
30分だけ眠ろう。
そう決めた白河はイヤホンを取り出し耳に入れアラームをセットする。イヤホンは外音取り込みにしてジャズを聞きつつ、アラームで他の客に迷惑をかけないようにした。
目を瞑るとあっという間に私は意識を手放した。
視点変更
俺は組んだ腕を解き、目を擦り目の前のコーヒーを1口飲む。
寝てたか、と腕時計を確認すると3時過ぎ、丁度いい時間に起きた。深く座りぐーっと体を伸ばす。
が丁度視界に違和感を覚え視線をあげるとそこには白河さんが座って眠っていた。
うわガチか、ビビるわ!なんで目の前居るんや怖すぎ!
佐藤は体をビクッとさせ驚いたが店内という事もあり声も出せず、少し深呼吸して落ち着かせるようにした。
「寝顔もかわいい」
息をしているのかどうかさえ分からない位浅い息をしている白河はとても儚げで、人形が椅子に座らされているような映え、を感じる。
机の上に置いてあったスマホの画面が付きアラーム画面に切り替わる。
音は無いが画面が表示されてるということはイヤホンでもしているのだろう。
「ふわぁ、おはよう佐藤くん」
少しピクっとアラームに驚いたのか身体を強ばらせ、目を開く白河。
「おはよう、よく寝れた?」
「うん、思ったより寝れたよ」
白河さんは御手洗にとポーチとスマホを持ってすぐさま席を立った。
流石に寝顔を見られたのが恥ずかしいのだろう。
にしても今日の白河さんも可愛い。
服装が超似合っている、ミニスカタイプの黒のタイトニットワンピで体に密着している為大分ボディラインがハッキリしている。
首元には同色のファーがあり大人っぽさ全開で、足元は膝下丈のロングブーツ。
俺は白河さんと釣り合うのだろうか?
スリムタイプのジーパンにの黒のハイネックのTシャツ、そしてグレーのジャケット。
まあ組み合わせは悪くないと思うけど、白河さんのアレ見たら天と地、亀とスッポン位差があるように見える。
「ごめんごめん、お待たせ」
白河さんが席につくとコーヒーを啜りガトーショコラを食べる。
口に運ぶと目を瞑り幸せそうな表情を浮かべる。
見ているこっちまで幸せになってしまう様な笑顔、とてもありがたい。
佐藤も手元のフォンダンショコラが残り少ないのでコーヒーが冷め切る前に食べきろうと口に運んだ。
2人はスイーツを食べ切るとコーヒーを片手に店を後にした。
丁度時間は待ち合わせの3時半になるかならないかと言うところだった。
「糖分補給も済んだし、しゅっぱーつ!」
お〜!と手を挙げた白河に佐藤も後を追うよう
ついて行った。
少し歩き駅を抜け反対側にあるショッピングモールに進んでいく。
ここは色んなブランドのテナントが入っていたり、家電や工具、そういった物以外は大体売ってるのでプレゼントなどに困ったらここに来れば揃うといった利点がある。駅の改札抜けて少し歩けばすぐ入れるから交通の便もいい。
「ねぇ白河さん、今日の白河さんめっちゃ大人っぽいよね、超似合ってる」
佐藤は心拍数が跳ね上がりながらも思いを伝える。
「えへへ、ありがと!佐藤くんも今日めちゃキマってるよ?今までちょくちょく遊んでたけど過去一似合ってる〜」
白河は佐藤の爆上げの心拍数などお構い無しに返答をしてくる。これでは佐藤の心臓が幾つあっても足りないぐらいに脈打ち続けている。
「今までそんなに酷かったかな?ちょっとショック」
佐藤が泣き真似をすると白河さんが少し慌てる。
「ち、ちがうろ!今日は140%位で似合ってるってだけ!」
噛んだ、ちがう『ろ』盛大に逝った。
言った傍から白河さんの顔が真っ赤になる。
「かわいwちがう、ろw」
佐藤はここぞとばかりに白河をイジる。
もー!っとプンスコ怒る彼女を横目に佐藤の心拍数は平常に戻っていた。
ショッピングモールに入り、店を1度抜け、外にある広場に出てきた。
そこには巨大な装飾されたクリスマスツリーが出ていたり、雑貨や食べ物の屋台など色々な出店がありこれを回るだけでも1,2時間は余裕で無くなりそうな規模であった。
「うわ〜すっげぇ、クリスマスシーズンってこんなになってんのか!初めて見る光景だわ」
佐藤は感激していた。いつもは子供が走り回っていたり、ボール遊びをする子供達とその両親位しかいないこのだだっ広い芝生エリアにここまでの装飾と店と人が居るのだ。
「でしょ?クリスマス前の土日だけこの出店たちやってるみたいなんだ、去年クラスの子から初めて教えて貰ってさ。佐藤くんと行きたいなって思ってたんだ」
テクテクと歩き出した白河さんにまた離れ内容に急ぎ足でついて行く。
大まかにエリアが3つに別れている。
1つは雑貨や焼き菓子等の火を必要としないエリア。もう1つは火を使うフライドポテトや豚汁、焼きそば等の屋台エリア。
最後の1つがここの目玉のクリスマスツリー周辺から伸びるライトアップされた小川や植栽達、ちょっとした迷路みたいになった植木等の映えスポットエリア。
「先ずは雑貨達をみて、少し早い晩御飯を食べて、クリスマスツリーを見て、最後に店の中で暖まろうと思っています!」
白河はキリッとした顔付きで言う。
「了解です隊長、ついて行きます」
ふざけて敬礼までするとそれを横目で見た白河もビシっと敬礼をした。
真後ろからみたら2人並んで敬礼しながら歩いてる変な人、なんだよな...
それから2人は寒さを忘れたように優に2時間を超え会場を練り歩いた。
「ふぃー、超歩き回った〜」
2人は外から店内に帰ってきており、近くのファミレスに入っていた。
片手に持っていたコーヒーもとっくに無くなり、その代わりのお互いの手には小さい袋が握られていた。
雑貨などを見ている時に急に佐藤が思い付いたように言葉を発した。
「これだけ店あるならお互いに1つだけクリスマスプレゼントとして何か交換しよう」と。
白河もウンウンと首が取れる程頷き、制限時間を30分と儲け2人は別々に行動をした結果がこの袋なのだ。
「まずはご飯頼もう〜外の屋台の匂いでお腹ペコペコだよ〜」
確かに少し前からぐぅとお腹がなっているのが聞こえていた。あの喧騒で聞こえるなら相当お腹が空いているに違いない。
2人は注文を済ませ、料理が来るまで何が良かった、あの店の何が美味しそうだった、いや実は自由時間の時にこっそり食べた、とかを話し合っていた。
料理が来てからも箸と一緒に話も止まらない2人。相当楽しかったと見える。
実際佐藤はこれでもかというぐらいに幸せを感じていたし、白河も白河でバレてないと思ってるのだろうがちょくちょく買い食いしてるのを佐藤は見ていた。
そしてあの会場も毎回同じ出店があるとは限らないから欲しいと思ったものは店の名刺を貰うなりそこで買うなりしないといけないと白河さんが教えてくれた。
そんな白河さんの反対の手にはいくつか小物が入った袋が握られていた為お目当ての物がいくつかあったのだろうと察した。
「よし、お腹もいっぱいになった所でお互いの
プレゼント交換といくか」
佐藤が待ちきれないといったように白河に声をかける。
「ふふん、私のプレゼントにビビるでないぞ佐藤」
「フン、白河は我のプレゼントに恐れ慄くがいい」
2人とも啖呵を切って袋をテーブルの上に乗せスライドするようにして交換する。
俺が買ったのはアロマデフューザー。
なかなか値は張ったがしっかりした作りで安定していて倒れにくい。ちなみに匂いは金木犀でここの店のアロマデフューザー達は一点物らしい。花言葉もあったりするけど金木犀の匂いが大好きなので選んだ。秋からフワッと風に乗ってくる甘い香りが俺の初恋であり失恋を思い出させる。甘くもあり苦い思い出と結びついている為金木犀の香りがすると懐かしい気持ちにもなる。
「じゃあ、俺のから開けてみてよ」
「自信があるんだね?」
少し大きめのビニール袋からさらに紙袋を取り出し、紙袋の折り目を開いていく。
紙袋を開けた白河は少し驚いたようにリアクションを取った。
俺の買ったアロマデフューザーはガラス細工、ガラス加工等を生業としている人達から購入したものだ。
これはガラスの器から製作され、外側にステンドグラスのように色とりどりのガラス破片が散りばめられ、場所によっては鳥の形をしていたり太陽のような形、三日月の形があったりととても手の込んでいた作品を選んだ。
また、オプションとしてデフューザーの下につけるライトも購入し、オイルの有無に関わらずライトの電源を入れるとステンドグラスの色がとても綺麗に見えるという物をセットでプレゼントした。
「アロマデフューザーじゃん!確かにこれは自信アリアリでもおかしくないですなぁ」
そう言った白河はステンドグラスを取り出し店のライトに翳しながら様々な角度から見る。
「ありがとね佐藤くん、大満足!」
「どういたしまして、匂いはまた家についてから確認してみて、食べ物の匂いと混ざると変わりそうだしさ」
慎重に箱に戻してから紙袋にしまう。そしてビニール袋にあったように仕舞った。
「じゃあ次は私のターン!召喚!」
ビシっと指をさされたのでビニール袋を開け中にある長方形の箱を取り出す。
「おぉぉおぉ」
蓋を開けるとそこには銀色のネックレスがあった。デザインはシンプルな喜平で2面ダブル。
素材は多分ステンレスだろう。温泉とかでもつけたまま入れるし、シンプルが好きな俺にはベストチョイスな品だった。
最初に見て回ってる時に少しだけ目を引いたのが恐らくこのアクセサリーショップだったのだ。
たまたまこれを選んでくれたのか、それともちょっと見入ってたのがバレてたかのどっちか。
「佐藤くん一瞬だけどここのアクセショップ2度見してたような気がしたからさ〜、佐藤くんに似合いそうな奴を選ばせていただきました。
これなら服の中にも隠れるだろうし学校でも付けれるしね?普段付けてる所見たこと無かったしこれでイメチェンだぁ!」
「一瞬気になったのバレてたんか、確かに長さも服の中に隠れる長さで丁度いい感じじゃん、シンプル目が好きなのも俺の事分かってるじゃん」
「でしょーでしょーでしょでしょー」
ニコニコしながら左右に揺れる白河さんが超可愛い。
「ズバリお互い点数付けるなら何点!せーので発表!」
「「せーの!」」
「200点!」
「1万点!」
俺が200点といい白河は1万点ときた、インフレしすぎだろw
ぷっふふっ、と笑いが2人とも込み上げ笑い合う。
「1万は反則だろw普通100点満点だろ!」
「そう言う佐藤くんも200点じゃん!何言ってんのさw」
と当分はお互い笑いが治まらなかった。
2人は会計を済ませ店を出る。
時刻は夜の7時前、いい感じに屋台も雑貨屋達も撤収を始めていたようで人も少なくなりショッピングモール内から外を眺めるとクリスマスツリーや装飾のキラキラ、イルミネーションがとても綺麗だった。
「「あのさ」」
漫画かっていうぐらい同じタイミング被る。
「あのさ、寒いけど外行かん?2人でイルミの写真撮りたい、一瞬だけ、ツリーの前でだけでいいからさ」
「...うん」
顔を俯かせ小さく返事をする白河。
なんかマズい事でも言ったかな?やっぱり寒いの嫌だったかな。
「寒いの嫌だよね、やめとく?」
「嫌!行く!撮りたい...写真」
俯いたままだけど返事はしっかりした。
なら行くかと荷物を持ち直し歩き出した。
2人で自動ドアをくぐりしばらく歩くと、空いている左手に何かが当たる感覚があった。
チラッと見ると親指、人差し指と中指で俺の小指を掴んでいるのが見えた。
いきなり心拍数が上がったがいい雰囲気だった為、そのまま佐藤も手を引き寄せて恋人繋ぎをしてツリーの下まで歩いていった。
「やっぱ寒いな」
次の日が雨と言うだけあって少し雲が出てきている為暗く、普段より寒い気がした。
2人でツリーの下に並び腕を目いっぱい伸ばして自撮りする。
「あの、撮りましょうか?」
通りがかった男の人が申し出てくれた。
「あ、いいですか、お願いします」
佐藤が答える。願ったり叶ったりだな。
それから写真を撮ってもらおうとスマホを渡そうとしたら手で制止され、背後から見るからに高級そうなデジタルカメラと三脚を取り出した。
「はい、準備万端です、ポーズお願いします」
2人で満面の笑みを浮かべながらピースとプレゼントを掲げての写真。
そしてカメラマンさんからのポーズ指定で、向かい合って出来るだけ引っ付いて、白河だけが少し背伸びするように踵を上げて欲しいと言われた。
しばらくするとパシャパシャとシャッターの落ちる音がする。
そしてこの体勢はマズい、上半身が密着して白河は体重を俺に少し預ける形で、顔はお互いを見つめている。
心拍数がヤバい病み上がりでマラソン走った時ぐらいバクバクいってる。密着してるから絶対伝わってる、手汗もやばい、軽く腰を抱いて片手は恋人繋ぎのままだが絶対バレてる。
佐藤も心臓が動きすぎて死にそうだったが、白河も白河で限界を迎えていた。
好きな人とツーショを撮るだけの筈がまさかプロのカメラマンさんに撮ってもらう事になるとは。
最初は良かった、オシャレなふたりが写真を撮ってもらっているだけに見えたはず。
けど最後のこの体勢!もうキス待ちの体勢じゃん!顔も近いし手握られて腰も抱き寄せられてるし!心臓もバクバクいってるの伝わってないよね!手汗もなんか滲んで来た気がするし凄い恥ずかしい!
何より自分の空いている片手を佐藤の腰に回してる自分も恥ずかしい事この上ない!
といったように2人は2人で死にかけていた。
「はい、OKです!今写真出しますね」
そう言ってカメラマンはリュックからタブレットを取り出し何やら操作をしている。
しばらくするとリュックのサイドポケットを開けると印刷した写真が出てきた。
「はい2枚ずつあります、撮って出しなんで加工もあまりしてませんけどよければ」
そう言うと写真を入れた袋をくれた。
「あの、お金払います、印刷までして頂いたんで」
佐藤がそう言い佐藤と白河が財布を取り出そうとすると、カメラマンはまた手を制止した。
「ただ好きでやった事ですから、どうしてもというのであれば写真の入れ物にウチの名前入ってるんで店に2人でお越しください。
あ、あと写真の元データもお渡し出来ますけど、どうされますか?」
「ぜ、ぜひ!」
白河が食い気味に答える。
カメラマンさんはニコニコしながら2人に写真を送ってくれた。
それではまた、と言ってカメラマンさんは帰っていった。
2人は携帯に写真があるにもかかわらず写真を見ようともせず、少しの間見つめあっていた。
「佐藤くん、そろそろ帰ろうか、流石に寒いかも」
2人は駅まで戻り、また最初にあった駅ナカのコーヒー店に入っていた。
そして同じ席が空いていたので2人でコーヒーを注文し同じ席に座った。
「白河さん、今日はありがとう。ありえんぐらい楽しかった」
「いえいえ、私も大満足だよ」
ニコニコと微笑む2人、手元が2人ともコーヒーを弄っており落ち着きがない。
「コーヒー飲み終わったらばいばい、だよね」
白河さんがコーヒーを見つめながらそう言う。
「時間も遅いしね、ここまで暗いし白河さんの家の近くまで送っていっても...」
自然と佐藤の口から出た言葉だった。
佐藤も言ってからしまったと思ってしまった。
「今日は駅まで親に送ってもらったから、送迎してもらうんだ。迎えが来るまでは一緒に居て?」
「もちろん、じゃあもう連絡してるの?」
「うん、ちょっと離れてるからね、多分あと2,30分もすれば来てくれるはず」
無言の空間。しかし気まずい空間ではなく、外が暗く雰囲気的にとてもジャズが似合う空間にいるのでリラックス出来ている。
お互いが口を開かぬままコーヒーをチビチビと啜る。
佐藤も白河もお互いきっと同じ気持ちかもしれない、けど確証が持てぬまま、雰囲気が良かったイルミネーションから離れて人のいる店にまで来てしまっていた。
告白する勇気がどちらかにあれば、あの場で言えていたらどれだけ楽だっただろうか。
2人は更に時間を浪費する。
ピロン
白河のスマホが通知音を鳴らす。
「あ、両親到着まであと5分、ってきた」
言い方wと白河さんは微笑む。
「じゃあそろそろ下に降りようか」
佐藤はそう言って白河の荷物を持ち、店を出る。
イルミネーションを見ていた時より風が出てきて寒くなってきていた。
車の送迎場所まで降りてきて、白河と佐藤が並んで立つ。
佐藤は焦る。あと数分もしないうちに白河さんの両親が来て、年越してからの学校まで会えないと思うと辛くて堪らない。
それは白河も同じようだったが踏ん切りがつかずお互い進展は無し。
佐藤が勇気をだして口を開く。
「白河さん、何回でも言うけど今日は楽しかった。2人で交換したプレゼントも、カメラマンさんに撮ってもらった写真も、3時前に飲んだコーヒーも今さっき飲んだコーヒーも、最高の思い出になった」
佐藤は白河を見ずに告げる。
「白河さん...俺白河さんの事大好きだ。」
佐藤は体ごと白河に向き合うが半歩、もう半歩と距離をとった。
「うっ、ぐすっ、あたしもっ」
1歩分距離をとった佐藤に1歩分進んだ白河が両手に荷物を持ったまま抱きつく。
佐藤は咄嗟のことでびっくりし両手が所在無さげに右往左往していた。
白河は佐藤の胸の中でグズグズと鳴き声を上げて泣いている。
「あたしも、あたしもずっと好きで...苺谷さんと距離近いの見て焦っちゃって、ずっと前から言おう言おうと思っても言えなくて、佐藤くんから距離感感じちゃう事もあったし、勘違いなのかなって。
今日も言えないまま終わるんだって思うと情けなくて、悲しくて、でも佐藤くんと居た時間は楽しくて...」
そこからはズビズビと泣いて何を言っているか分からなかったが、佐藤は白河を抱きしめ背中をさすっていた。
当然土曜の夜とはいえまだ8時代、それなりに行き交う人々から視線を浴びとても恥ずかしい思いをしている。
それ以上に白河さんが自分の事を思っていたことが嬉しすぎて途中から白河さん以外が気にならなくなっていた。
「りっちゃん、迎えきたわよ〜」
目の前を助手席の窓が開いた車が通る。
言わずもがな白河さんのご両親だろう。
真っ黒の最新高級国産車、セダンタイプでヤのつく人達が乗っていそうな車であった。
白河さんは目元をハンカチで抑えながら荷物を地面に置きお母さーんと車までかけていくし、運転席からはサングラスをした強面の人がコチラを覗いている。
佐藤が荷物を持ち上げ、真っ黒の白河号に近づいていく。
「こんばんは、遅くなってしまいすみませんでした」
軽く会釈を挟み車の中の両親に謝罪をする。
「いいのいいの、帰ってこない事も想定してたから〜、若い2人だしクリスマスだし?もしかしたら〜って」
そこまで言うと運転席の男の人が母親を小突き、白河さんもママ〜って軽く怒っている。
「ハジメくんだね、梨沙をありがとう。寒い中待たせてゴメンね」
運転席の男の人、お父さんが喋る。
見た目だけでなく声にも圧を感じる。喋っている内容は怖くないはずなのに。
「いえ、先程まで暖かい店でコーヒーを飲んで居ましたから」
そう言っている間に白河さんは後部座席のドアをあけ荷物を拾い上げ車内に入れ、座り込んでいた。
「佐藤くん、またね、帰ったら連絡してね!」
白河さんが窓を下げ伝えてくる。
「もちろん、良いお年を」
「良いお年を」
白河さんがそう告げ手をヒラヒラと振ると車は窓を上げながら発進して行った。
佐藤はそのまま見えなくなるまで見送りし、風が吹くなか家まで自転車を気合いで漕いで帰った。
そこからの記憶はあまりなく、テンションが上がりきってハイになっていたのか、一線を通り越して無になっていたのかも分からぬまま日を跨いだ。
「うぅ〜さむ、ふぁ」
寝起きに佐藤が大欠伸をする。
「久々にいい夢見たわ」
布団に入ったまま独りごつ。
「おはようハジメ、いい夢ってどんなの?教えてよ」
「ん〜?どうしよっかな?」
「えぇ〜!ハジメのケチ!朝ご飯のフレンチトーストとコーヒーを抜きにされたいか!教えるのじゃ!」
「そんなご無体な...分かったよ梨沙。朝ご飯食べながら話すね」
2枚のフレンチトーストとコーヒーが2人分と小さなお皿に小さく切られたフレンチトーストと牛乳が並んだ机には、クリスマスツリーをバックに2人で見つめ合う写真と笑顔で並ぶ3人の写真が飾られていた。
夢を見たのでそれを軸にストーリー書き上げました。
誤字脱字等あるかもですが平にご容赦を。




