異世界で宗教画を修復したら、バズってしまった〜異世界ゆるゆる宗教改革〜
異世界転移って現実でも起きるんか?
「頭、痛いわ……」
目の前はのどかな田園風景。蒼い空は美しく、風は爽やかだが、決して日本のそれじゃない。立派な風車もある。稲作でもキャベツ畑でもなく、麦畑だった。
「何ここ、異世界?」
確か俺、深夜にラーメンを食べながらアニメを見ていた。異世界もののアニメで、作画が酷いとかツッコミながら見ていたが、なぜかその世界にいた。リアルでこうして見ると、別に酷い作画でもないわけだが……。
夢かと思ったが、どうにも頭の痛さはリアル。中年の手取り二十万の俺、ロキソニン買うのもケチっていたが、そこまで節約する必要はなかったか?
「まあ、とにかくここはどこだ。帰れるんのかなぁ」
あのアニメのヒロインや主人公はどこにもいない。どうやら舞台になってるスローライフ世界とは少し距離がある村にいるっぽい。作中に名前と特徴だけ出て来た村と特徴が当てはまる。
とりあえず適当に歩き、人を探す。農民らしき人に話けた。
「だったら教会の修道院のシスターに頼むといい。身元不明のホームレスとかいるから」
驚いたことに日本語が通じた。異世界といっても日本の制作会社で、原作者も日本人だからだろうか?
それにしてもあのアニメ、ツッコミどころ多かったんだよなぁ。腐敗した宗教も出てきて、アメリカ人のキリスト信者がブチキレるっていうまとめサイトもみた。日本のアニメのナンチャッテキリスト教に怒るとは、俺にはよくわからん感覚。それより家に帰ってビール飲みたい。
「ホームレスさんですか!? きゃー、私はこの教会のシスターユリアです! さあさあ、お客様用の部屋を案内しますわ!」
修道院に行くと、妙にテンションが高く、変なシスターがいた。空気が読めない感じ。頭痛い。
「外国人さんです!? 顔が平べったいですね!?」
失礼なこともナチュラルに言ってきたが、たぶん十代後半ぐらいだ。俺の半分ぐらいしか生きていないと思うと、冷笑したくなるな。それにとりあえず部屋も与えられ、衣食住は確保できたからいいか。
「しかし、修道院の飯ってこんなん?」
ユリアが持ってきたおかゆを食べた。美味しくない。オートミールをミルクで煮詰めているようだが、質素すぎる。貧乏な俺でも日本ではもっといいもの食べてた。
「ええ。修道院の食事はこんなもんです! 私も三食全部コレ!」
ユリアは無邪気に言う。
「そんな……」
よく見るとユリアは痩せて細っていた。声も大きくテンションも変なシスターだが、宗教的な事情でこんな飯なのだろうか。
気になった俺、少し修道院の中を偵察してみた。あのアニメの宗教、腐敗していたし、この修道院でも何かあってもおかしくない。
俺がいる部屋は施療院っていう建物の中らしい。病人やホームレス、客人用の建物。シスターが使っている修道院の中は男は入れないようだ。礼拝堂は田舎の修道院の割にやたらとピカピカだ。天使像や聖母像が置かれ、豪華な宗教画も目立つ。いかにも異世界アニメに出てきそうなナンチャッテキリスト教。
しかも、すれ違った神父はデブだった。ツヤツヤとした肌はとても主食がオートミールに見えない。そもそも客人の俺に興味も示さずスルーって……。
「やっぱり腐敗してるのかね……?」
その後、数日が過ぎた。意外と施療院の中での生活は居心地がよく、病人と食事したり、ゲームを楽しむ。シスターたちは良い子が多いらしい。ただ神父以上の立場は全員腐敗しているという噂も聞いた。やっぱり異世界らしい宗教だ。
そんなある日のこと。ユリアがキャーキャー騒いでいた。もうユリアのテンションの高さは慣れていたが、一応聞く。
「ユリア、どうしたん?」
「どうしよう! 修繕士さんが来ないんです」
「修繕士?」
「礼拝堂に飾ってある天使の宗教画の修復してくれるプロです。でも、風邪ひいて来られないって。もうすぐ収穫祭もあるし、どうしよう! あの絵がお披露目できないと!」
ユリアが泣きついてきた。耳がキンとする。正直、ちょっとうざい。
「だったら、タケシさん! あの絵を修繕してくれません?」
「は? 俺?」
いや、俺は美術の教養もない。手取り二十万の工場勤務のおっさんなのだが。
「無理だって、無理!」
「そこをなんとか!」
ユリアに無理矢理引き摺られ、修道院のアトリアまでやってきた。ここに置いてある絵筆をつかい、さらっと修繕しろという。
「じゃ! 私は忙しいので適当にやっておいてください! このカビがあるところとか消えてればいいんで!」
「ちょ、ユリア!」
一人アトリエに残された俺。目の前のは神々しい天使の絵がある。絵筆や絵の具もあるわけだが。
「まあ、カビがあるところを消せればいいんだろ?」
なんて甘く見ながら絵筆をとり、白い絵の具をつけて塗ってみた。
「うん? あれ? あれ?」
しかし塗れば塗るほど、何かが変だ。何かがおかしい。神々しい天使がなぜか消えていく。
「い、いや……?」
塗れば塗るほど、もふもふとした猫みたいのが見えてきた。冷や汗が出てきた。絵筆を持つ手も汗で滲む。
「お、おぉ……」
三十分後、なぜか神々しい天使から猫のイラストが出現していた。羽をつけた猫。なんじゃコレ。ゆるキャラか。これがバレたらどうなんの。俺、異端の魔女として火炙りにでもされんの?
「キャー!何このもふもふな猫天使ちゃん! ちょーかわいい!!!」
ユリアの反応は予想外だった。目をハートにしてかわいい、かわいいと騒いでる。
ユリアだけでなく、他のシスターも似たような反応だった。好評みたい。おいおい、適当な修繕がバズってるみたいなんだが?
施療院の病人、村の農民、子ども、主婦、教師なども押しかけ、「かわいい!」の大合唱じゃないか!
君たち、あのアニメの設定では敬虔な信者じゃなかったのか!?
だったらもうヤケクソだ。猫天使モフちゃんと名付け、グッズ展開も提案。文房具、ポスター、バッグ、ぬいるみ、シャツなどが作れないか、村の職人や工房とも掛け合い、修道院にお土産コーナーも設置されるようになった。
猫天使モフちゃんの宗教画は礼拝堂にも設置され、村人だけでなく、近隣の村や王都からも観光客が来るようになってしまった。おかげで修道院の経済も安定。また、こうして人が観光しに来るようになったため、村でも新しい雇用が生まれているという。神父もいつのまにか交代し、食事も野菜や肉がバランスよく提供されるようになった。
俺はどうなったかって?
最近が猫天使モフちゃんの着ぐるみの中に入って観光客を呼び込んでいる。
「キャー! モフちゃん、かわいい! ちょーかわいい!」
相変わらずユリアはうるさいが、今の彼女は標準体重となり、なんだかんだ幸せそうだ。




