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精霊国物語  作者: 夢野かなめ
第二部 木の歌と火の器

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30話 目的

「それで、無駄なことって?」


 動揺を隠さぬジェーディエを卓に落ち着かせ、改めて淹れ直した茶を飲んだカルヴァスが切り出した。


 深刻な顔をしたジェーディエが、茶を一口飲んでから頷き、マリーエルをちらと見てから話し始めた。


「ジュリアスから戻った後、俺は衣に仕組まれた札について調べ始めました。お恥ずかしい話ですが、身内の手も考えられたので、一人で調べるしかなく、本当に少しずつですが……」


 ジェーディエはまず、自身の所属する基礎地縁派の道場を調べ始めた。


 表向きは前領主に仕えていた者や、恩のある者達が集まる場であったが、今後のフリドレードについて()()()議論が交わされる場でもあった。


 現領主ランドシの器としての力は強大だ。しかし、フリドレードに連なる者ではない。打ち滅ぼそうという訳ではないが、しかし〈フリドレード〉の名を継がずにこの地を治めるということを許していいのだろうか。ランドシが実質その力で治めることになったとしても、フリドレードの名の許に、この地の民は集うべきなのではないか。基礎地縁派の者達の中ではそういう共通認識があった。


 ランドシは従来の修養のいくつかを棄て、器を高める修養のみを修養者に強いた。曰く、その修養成さぬ者に精霊の呼び声はなし。


 時を経て変わるものもあるだろう。しかし、ランドシの許に行われる修養は、何処か本来の意義を欠き、信心を置き去りにしているようにみえた。それに懸念を抱く者の多くは、基礎地縁派の道場で、日夜話し合っていた。


 それに加え、先の他地方との戦に、影の利用。大きく二分された勢力で、フリドレードは揺れている。


 基礎地縁派のジェーディエを陥れようとするのは、規律実行派の者なのだろうが、儀式用の衣は、確かに基礎地縁派の者によって用意されたものであり、そのままの事実から考えるなら、何らかの細工がなされたか、間者がいることとなる。


「うちの道場ではそれ以上何かが判る訳ではなく……ただ、これが」


 ジェーディエは懐から紙を取り出すと、卓の上に置いた。


「また何か判らない紋様だな」


 紙には札に描かれていたような紋様が描かれていたが、一目で別のものと判った。


 カルヴァスの問うような視線に、アントニオが眉根を寄せる。


「恐らく、同じ者……または同じ考えを持つ者が描いたものでしょうね。いくつかの点で共通する部分があります」


 そう言ってアントニオは紋様の何か所かを指さした。その拍子に紙がずれ、下に置かれたもう一枚に描かれた紋様が明らかになる。


「これは……」


 札に描かれたものと似通った紋様が描かれた紙に、アントニオが問うような視線をジェーディエへと向ける。


「俺は、規律実行派の道場にも潜り込んだんです。勿論、正面から訪ねる訳にもいかず、少しばかり無理をしましたが……その時にこの紙を。よく、似ていますよね」


「ええ」


 じっと紙を見下ろしたジェーディエは、難しい顔をした。


「それをもたらしたのは、大陸からの訪問者であったと。それだけは聞くことが出来ました。ただ、大陸からこの地へ訪れる者は、多く大陸の物を持ち込みますから、これもその中のひとつに過ぎないのかもしれません。ただ──」


「ただ?」


 アントニオの問いに、ジェーディエは唇を噛んでから言った。


「この紙を手にしてから、どうにも不自然なことが続いている気がします。本来、修養の番ではないのに選ばれ、予定とは違った修養をこなすことになりました。勿論、修養それ自体は一身に尽くしました。ですが、修養から戻り確認したこの紙も……何処か最初に手にしたものとは違う気がするんです」


 皆の視線が紙に集まった。相手の目的も何もかもがハッキリとしない。


 沈黙を破ったのはインターリだった。


「アンタ狙われてるでしょ。相手はアンタのことを消したって痛くもないって訳だよ。今生かされてんのは、こうしてお姫様に近付く為か……ねぇ、アンタら基礎地縁派の目的は? 僕は此処でアンタを斬った方がいい?」


 やめろ、と制したカルヴァスも、難しい顔をしてジェーディエを見やる。


 ジェーディエは緩く頭を振ってから、再び口を開いた。


「俺達基礎地縁派の者達の殆どは、代々フリドレードの血を継ぐ者に仕えてきた者なんです。遡ればその血を受ける者もいる。ただ、多くの者が上に立ち、治めることに向いてはおらず。そして現領主ランドシ様に敵う者は……いないでしょうね。恐らくランドシ様はカルヴァス殿をもしのぐでしょう。勿論、剣の腕など全てを考慮すればまた違いますが」


 腕を組んだカルヴァスが、口を曲げた。


「まぁ〈気炎のランドシ〉ってのは、オレが子供の頃からよく聞いた名だからなぁ」


「気炎のランドシ──彼の扱う炎は、思うままに舐め、焼き通るといいますね。十年程前にジュリアスの森に火が熾った際、それを自身の許へと集めヴルーナ火山へとその力を還したとか。修養中に炎に巻かれたが、彼の体を焼くことなくより一層の力を得た、など逸話は多数ありますね。だからと言って、此度のような所業が許される訳ではありませんが」


 アントニオの言葉に、カルヴァスが片眉を上げ、鼻を鳴らした。


「この臭い、ランドシからしない」


 突然、ベッロが言った。影の墨の包みと、紋様の描かれた紙の匂いを嗅ぎながら、首を傾げた。


「それは、ランドシは指示を出しているだけだから……とは考えられないか」


 カナメの言葉に、ベッロはふるふると頭を振り、インターリに視線を向けた。考え込んでいたインターリは、ははぁと言って笑った。


「成る程ね。これは上品なグラウスの人等には判らないだろうね。でも、何でこんなことするんだろう。此処から攻めたって──」


 再び考え込んだインターリに、カルヴァスが思い至ったように顔を上げた。


「そういうことか。オレ等は随分と踊らされてたみたいだな」


「どういう──まさか」


 アントニオがカルヴァスに続くのを、マリーエルは戸惑いながら見比べた。


「あの……どういうことなの?」


 マリーエルの問いに、アントニオが小さく頷いた。


「我々は今のフリドレードの状況に明るくありません。そういった取り決めが古くからあったからですが、それは必要があれば互いに支え合い、譲歩し合うという前提があってこそ。此度のことは、代が替わったことと、内部勢力の均衡が崩れたことに原因があるかと捉えていましたが、どうやら他の目的があるようです」


 マリーエルが必死に頭の中で話を整理しようとしていると、カルヴァスが呆れたような視線を一瞬だけアントニオに向け、マリーエルを見やった。


「要するに、これまでは単純にフリドレード内二派の争いと、グラウス始め他地方とのいざこざだと考えてたけど、恐らくフリドレード側にもう一派くらい居るんじゃねぇのってこと。しかも、恐らく大陸の影響を受けてる」


「え……!?」


 マリーエルは思わずジェーディエの顔を見たが、ジェーディエは驚いたようにふるふると首を振っただけだった。しかし、すぐにハッとして考え込み始めた。


「確かに、そう考えた方がこれまでのことに全て説明がつきますね」


 そこで悔しそうに声を上げる。


「この地に居ながらその可能性に思い至らないとは……。大口を叩いておきながら面目ない」


 その言葉に、インターリが鼻を鳴らした。


「こういうのは大陸のやり方だよ。アンタらのやり方は大陸から見ると随分と甘い。得体が知れないのは確かだけど、そこに付け込まれたんだろうね。特に今は影のこともあるし、アンタらが気が付かないのも仕方ないんじゃない」


 インターリはせせら笑うと、影の墨の包みを持ち上げた。


「この包みをあの部屋に収めたのは、アンタと同じ派の奴だよ。アンタらはその帯の色で何処に属しているのか表してるんだろ」


 インターリが言う通り、ジェーディエは熾火(おきび)色の帯を付けていたが、ランドシ始め規律実行派の者達は燃え盛る炎色の帯を付けていた。


「主義思想を表すものでもあるけど、単純にどの道場に属しているか表すものでもあるって案内人に聞いたよ。『主義思想がぶつかることもあるけれど、皆よりよい器となる為の修養を重ねる身であり、争う必要はない』って。どの口が言ってんだと思ったけどね。その後、案内人を振り切って城の中を見て回ってたらこの包みを見つけてさ。丁度アンタも見掛けたから、折角だしお姫様の前で暴いてやろうと思ったけど、もしかしてアンタってただの捨て駒なのかもね」


 ニヤニヤと笑うインターリに、ジェーディエが俯いた。アントニオが咳払いをしてジェーディエを見やる。


「これ以外に、話していないことはありませんか。こうなったら、貴方を利用してでも、その画策者を捕えねばなりません。それには、我々で争っている訳にはいかない筈です。一体何処まで引き出すことが出来るのか判りませんが、貴方達基礎地縁派としても、これ以上の狼藉を許すつもりはないでしょう?」


 僅かに言い淀んだジェーディエは、マリーエルを一瞬だけ見やり言った。


「俺達の目的は、マリー様との関係を築くこと。俺が霊司に選ばれたのも、道場内で力がある者だったのは勿論ですが、マリー様と年が近いから近寄りやすいという考えからです。ご本人を前に明かしては、もう意味がないですが。……正直に話したように振る舞いながら、きちんとお話出来ず申し訳ありません。これは、規律実行派にマリー様の身柄を得ようという動きが見えたからこそ、それに対抗するように立てられた計画です。先程も言った通り、我々は長らくフリドレードの名の許にお仕えしていた身。グランディウスに反旗を翻そうなどとは考えていません。ただ、現在の状況、ランドシ様をこのまま主としていいのか、納得がいっていないだけで、戦も望んでいません。──その姿勢が付け込まれる原因なのかもしれませんが」


「それならば、基礎地縁派と協力するのはどうだろうか」


 カナメの声に、皆が表情を曇らせた。


「そう出来ればいいでしょうね。ですが、基礎地縁派の中にも、件の第三勢力が居る、と考えると、そうもいきません」


 アントニオの言葉に、カルヴァスは考え込みながら頷いた。


「何を目的としているのかを掴むまでは、このまま気が付かない振りでもしていた方がいいだろうな」


「そうですね。今暫くは、このまま儀の為の準備を進めることとしましょう。どんな目的があるにしろ、恐らく滞在中に何かは起きるでしょう。そのつもりで」


 ジェーディエに今後も基礎地縁派から見聞きしたことを伝えて貰うことを約束し、その場は解散となった。



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