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精霊国物語  作者: 夢野かなめ
第一部 影の揺りかご

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12話 セルジオとの再会

 エランの町は月光を浴びて輝いていた。


 今夜の星々は他の地を照らしているらしく、月だけが変わらず覚めるような光を注いでいる。エラン特有の月色の岩石で造られた家々が、まるで月光を溜め込み自ら発光しているようだ。


 町へと入り、番役に到着を告げると、すぐにエラン城へと案内された。エラン城は崖の上から、町を悠然と見下ろしている。見ようによっては、城は月。家々は星のようにも見える。その為、エラン城は別名〈月光城〉とも呼ばれている。


 マリーエルは何度かこの城を訪ねたことがあるが、それも随分前のことだった。セルジオ・エラン・ディウスが領主となってからは、セルジオがグラウスの地を訪れることも減り、顔を合わせることも少なくなった。


 木編みの調度品を揃えた応接間に通され、すぐに月光城の世話役があれこれと世話を焼き始める。ひとまずの体を清める為の温められた手巾に、温かい茶、焼き菓子にと振舞われる。


「有難う」


 マリーエルがそう言うと、世話役の者達は心配そうな顔から笑みを浮かべ、後のことをマリーエルの世話役であるアメリアに託し、部屋を出て行った。


 傷の手当てを受け終えたアメリアは、改めてマリーエルの全身を診て、ホッと息を吐いた。


 茶を一杯飲み終える前に、流れるような足音を響かせ、エラン領主セルジオが、執事エミエルと共に現れた。


 日に焼けた肌と月光色の髪、海をそのまま映した瞳は僅かな光でも煌めき返す。この地方の者としては細身の印象を受けるが、動作のひとつひとつが厳しく体を鍛えた者のそれだった。


「マリーエル! 無事に着き何よりだ。船の準備をと報せを受けた時は、クッザールが訪れるのかと思っていたが、まさか君とは驚いた。その様子では道中あの影に遭遇したようだね」


「お久し振りです、セルジオ殿」


 二人は抱擁を交わし、互いの手の甲に額をつけて親愛を示した。


「とんだ成人の儀になってしまったな。ともあれ、成人おめでとう。こんな状況だが、こうして直接伝えることが出来たことを喜ぼう」


「有難うございます」


 セルジオは皆を見回し、カナメのことを興味深そうに見やって笑みを浮かべてから、座るように勧め、自分も長椅子に腰かけた。


「先に休ませてやりたい所だが、そうも言っていられない。話を始めてもいいかな?」


「勿論です」


 セルジオは、もう一度カナメを興味深そうに見やってから話し出した。


 各地の被害のこと。大陸の炉の国から届いた初報。死者の弔い方。これから起こると予想されること。そしてマリーエルの使命について。持てるだけの情報を交換し合う。


 マリーエルが託された、国王からの文に目を通したセルジオは、難しい顔を浮かべた。


「やはり留意すべきは影だけではない、か」


「フリドレードですか」


 カルヴァスが訊くと、セルジオは意味ありげに眉を上げた。


「まだ表立っては言えないがね。影の出現以来、随分と動きがきな臭い。クッザール隊が対応に当たっているだろうが……君が抜けては益々アイツも忙殺されるだろう。しかし、精霊姫の使命も重要だ。こんなことが起こっては、どこも人手不足だな」


 フリドレード地方は精霊山と向かい合うようにそびえるヴルーナ火山を有する山岳地方だ。


 火山を修養場(しゅうようば)とし、精霊人としてより善い器と成る為の厳しい修養を行っている。修養に明け暮れた前領主は子孫を残すことをせず、今その座には、フリドレードで最も厳しい修養を終えた者が収まっている。


 グランディウスの子孫が治めるという不文律を破ったフリドレードの現領主は「最高位はグランディウス王である。我等は高みに上る為修養に明け暮れるのみ」とはばかり、グラウスとの協議を避け、火山に籠り続けている。


 他地方との不協和に、大事に至っていないのは、間に立つジュリアス地方の領主の手腕があった。しかし、影の出現以来、フリドレードでは山から下りた修養人がジュリアスとの境で多く目撃されている。修養を行わぬフリドレードの民達や近隣に住まう者の間に不安が広がっていた。


 特にジュリアスは広大な平野を有し、国内の食料や資材の殆どを担い、軍事的な部分は弱い傾向にある為、脅かされる不安に揺れている。警備を担うクッザール隊は影の調査にも加え、それに乗じる形でフリドレードの動向を探っていた。


「全く、フリドレードにしろ影にしろ、それ所ではないというのにね。そう不満を口にした所で、どうにかなる訳でもない。──エミエル」


 セルジオは何事かをエミエルに言いつけ送り出すと、マリーエルに笑みを向けた。


「船の準備は済んでいる。いつ出せそうか改めて確認させよう。影の出現以来、潮が読めなくてね。航行に問題はないが、海の様子も何処か奇妙だ。あぁ、その点は心配ない。エラン一の船乗りを揃えたからね」


 言い終えたセルジオは、何かを考え込みながらカルヴァスを見やった。


「これはまだクッザールにも報せていないんだが……。エランでは死者以外にも影憑きになる例が確認されている。道中そのような者を見たかい?」


「な……いえ、見ていません」


 思わず驚きの声を漏らしたカルヴァスの様子に、セルジオは難しい顔を浮かべた。


「クッザールからの報せにもない。グラウスでは確認出来ないのか……いや、グラウスではマリーエルによって祓えが行われたんだったね。多数の死者がでたのも一因だろうか。影も死者の方が憑きやすいのだろう」


 深く考え込みながら言ったセルジオは、そこで言葉を止め、気遣うような視線をマリーエルに向けた。返事に迷ったマリーエルは、気遣う必要はない、とゆるく頭を振って応えた。


 腕を組み、考え込んでいたカルヴァスが、眉間に皺を寄せながら言った。


「生者の影憑きについてどこまで判っているのですか。恐らく大陸でも同様な被害が出ていると思うのですが」


 セルジオは、まだ断定は出来ないが、と前置きした。


「判っているのは、傷を負った者や心身のどちらかが弱っている者が影に憑かれる傾向にあるということだ。ただ、憑かれてすぐであれば、精霊の力を借り、引き剥がすことも出来る。恐らくそれには魂の資質も関係していると思うんだ」


「魂の資質……」


 マリーエルが呟くと、セルジオは小さく頷いた。


「全ての精霊の力を受けるグラウスとは違い、エランでは水の精霊の力を強く受けている。そこに住まう私達は水の精霊の力を受けることに慣れている。だから、影に憑かれたとて水の精霊の力によって引き戻すことが出来る……そう考えている。勿論、全てではないが。確か、精霊姫である君も地に濃く流れる力の方が導きやすいのだろう?」


「はい。その地に存在しない精霊の力を呼ぶには、より多くの力が必要になります」


 精霊がその場に存在し、力を満たすことが出来るのは必ず理由がある。命世界に在るモノに力を与え、そしてまたその力を受ける為に精霊は存在している。


 無の場所に力を引き込むことは、精霊姫であれば出来ないことではないが、今のマリーエルでは、それは不可能に近い。中途半端に精霊を呼び、自らの器を壊すことにも成りかねない。


「今後は各地方でその辺りの情報共有が、より必要になりますね」


 カルヴァスが言うと、セルジオは頷いた。


「その必要があるだろうね。フリドレードとの件は慎重にならねばいけないだろうが──」


 セルジオが、部屋に戻って来たエミエルの姿に目を上げた。エミエルはセルジオに何かを耳打ちし、それが終わると後ろに控えた。


「さて、船が出せるのは今夜を含め二日先と見ているようだ。勿論、急に潮が変わるということも考えられる。君達はいつでも出られるようにだけして、今夜は休んでくれ。数刻は潮も変わらない。夜が明けたら町に出ると良い。これから大陸に行くのだから〝通貨〟の使い方を覚えていた方がいいからね。エランでは試験的に運用しているんだ」


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