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精霊国物語  作者: 夢野かなめ
第三部 水底の王国

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13話 出立に向けて

「海底へは華発の設計していた潜水船で向かうことになる。僕の知識も合わせた装置だから安心して。お前達はまず炉の国へ向かって、その後華発の大渡の町へ。ムシカが滞在しているから、そこで鏡を通して僕等と連携しながら海底……いや、その前に巨大生物に関して華発が掴んでいるかもしれない。エランの調査団も出ているからね。僕の隊からはノノミが出ているよ。態勢を整える間に潜水船の支度も終わるだろう。それでいよいよ海底へ」


 言い終えたヨンムは、「海底か」と惹きこまれるように呟いた。マリーエルの首から下げた鏡を見つめ、ふぅんと小さく唸る。


 この日、精霊隊の出立に向けて、ヨンムから簡単な説明がなされていた。


「ヨンム様。お気持ちは判りますが、今貴方は観測所とレティシア様の件を任されている身ですから──」


「判ってるよ」


 アントニオの言葉にヨンムは口を曲げた。自身の胸元からも鏡を取り出し、眉を寄せる。


「これが共鳴してくれることを願うよ。僕の理論としては問題ないとは思うけど、海底なんて誰も行ったことがない。何が在るか判らない……。もし、精霊石に替わるような物質があったら……」


 考え込み始めたヨンムの肩に、アントニオが手を置くと、ヨンムはハッと顔を上げた。卓についた皆の顔を見回し、咳払いしてから続けた。


「とにかく、アントニオの知識から考えるに海底で何か起きているのは確か。海で影憑きが現れ、今後問題となるのも確か。マリーエル、精霊姫であるお前に任せるしかない。現地でのやり取りはお前達……まぁ、カルヴァス、お前に任せるしかないけど、他のことは僕の方でやり取りさせて貰うよ。特にジョイエルス王とのやり取りは僕の方で」


「はい、判りました。ヨンムお兄様」


 そう言ってから、マリーエルは何となしに鏡の細工を指で撫でた。卓上には精霊隊宛に書かれたセルジオからの書簡があった。


 ヨンムにひとつ頷いて応えたカルヴァスが、マリーエルの視線を追って口を開いた。


「まぁ、前に大陸に行った時と基本的に経路は同じだ。まずはエランへ。そこで船に乗り炉の国へ……カッテ、お前はどうするんだ」


 カルヴァスが訊くと、カッテは憂鬱そうな瞳を書簡に落とした。


「アタシは勿論、マリー様達について行きたいとは思ってる。セルジオ様の許しが出れば……だけど」


「そんな感じなら、大人しく陸で待ってた方がいいんじゃない」


 窓辺に座ったまま話を聞いていたインターリが言った。カッテがギロリと睨み付ける。


「アンタは相変わらず口が減らないね」


「しょぼくれてる奴が居ても、海の上ではただの足手まといだからね」


 ニヤリと笑うインターリにカッテが舌打ちをし、ハッとしてマリーエルを見てから恥ずかしそうに頬を掻く。


 その時、ヨンムがひたとインターリを見つめて言った。


「そこの問題児。この僕が言うのもアレだけど、そんな態度じゃ後々困ることになると思うけど」


「……は、はぁ?」


 僅かに視線を泳がせたインターリは、カルヴァスの呆れたような視線に気が付き顔を(しか)めた。あまり接点のないヨンムとの距離感を、インターリは測りかねている。


「別に困んないと思うけど。僕はソイツを心配してやっただけだし」


「判ってるよ。でも、言い方をどうにかしないと伝わらない。──というか、お前を見てると以前の僕を見ているようで少し恥ずかしいんだよな」


 ヨンムの言葉に、アントニオがふっと笑みを漏らした。


「確かに、近頃のヨンム様は各所とのやり取りも問題なく熟されていますからね。ご立派です」


 目を瞬いたヨンムは、口元をもごもごと動かしてから、真剣な顔を作った。


「とにかく、態度は改めた方がいいんじゃないかと僕は思うだけ。それだけで色々上手くいくこともあるんだから。というか、インターリ。お前がこの国に来た時……つまり、そこの彼女の船に乗っていた時、お前は動ける状態になかったんだろ」


 そう言って、ヨンムは問うようにカルヴァスを見やった。


「あぁ、腹に穴開いてましたからね。他人を〝足手まとい〟なんて非難する(いわ)れはないですね」


 思い切り顔を顰めたインターリは、気まずそうにマリーエルを見てから、カッテに向き直った。


「……悪かったね」


 その言葉に、カッテは目を瞬き、ふっと笑った。


「相変わらずかと思ったけど、アンタも少しは成長した訳だ。──気にしてないよ。確かに今のアタシじゃ足手まといなのは事実だからね。エランに戻るまでに、立て直すよ」


「……そう」


 気まずそうに返すインターリに、ベッロが嬉しそうに抱きついた。「あぁ、もう止めろ!」とインターリが声を上げる。


 そうしながらも、インターリはマリーエルへと気遣わしげな視線を向けた。マリーエルはそれに笑顔で応えた。


 無理をするでもなく、インターリは少しずつ精霊国での居場所を作り、育んでいく。


「これも、マリー様のお陰かな」


 カッテの柔らかな声に、マリーエルは目を瞬いた。


「え? 私何もしてないよ」


「そういう所だよ」


 カッテはそれ以上説明する気はないらしく、ふふ、と笑ってからカルヴァスに目を向け話を続けた。


「エランで精霊隊の為に用意された船は一応アタシが指揮を執ることになってる。勿論、セルジオ様にそれが許されたなら。でも、ちゃんとアンタ達を連れていけるよう、アタシも気合を入れ直すよ。──それに、親父を探してやんなきゃ。向かったのは滅多に通らない航路だからね。そのまま世界の縁へと流されるなんてことは……いや、親父には生きてて貰わないと困る。直に船と船長の座を継ぐ予定だったんだからね」


「お、ついに船長になるのか」


 カルヴァスが言うと、カッテは誇らしそうに胸を張った。


「まぁね。やっとだよ。エランの祭の時にマリー様達には伝えようと思ってたんだけどね。色々あって、親父も最後に海に出ることになって……。ま、そういうことだから、親父には生きてて貰わないと」


 カッテはニッと笑みを浮かべた。


「うん、行こう」


 マリーエルの声に、皆真剣な表情で頷いた。


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