⒑Kanazawa
人生には自分ではどうすることもできないことが降りかかる。誰かに言われなくてもこんなことしてちゃいけないことよく分かってる。でも出来ない時ってあるよね。結婚を機に彼の勤務地についていく為、仕事を辞める決意をし最後の出勤を終えた。これから幸せが待っていると思ったら、どん底の現実に直面した彩菜。本当はこんなはずじゃない。こんなことしている場合じゃないし、こんなことしてちゃいけない。どうにもこうにも現実に向き合い切れない彼女が逃げた先はイタリア。偶然の優しい出逢い・不思議な縁によって癒され、新たな一歩を踏み出す物語。
⒑Kanazawa
特急サンダーバードが金沢駅に到着した。緊張しながら孝に電話を入れると、大学近くの喫茶店で待つようあっけなく事務的に告げられた。久しぶりに日本で飲むコーヒーは薄くて苦くあまり美味しくない。長旅の疲れと孝との再会に不安が募る。日本に着いてから読んで欲しいと渡されたパオロからの手紙を取り出した。そこには私に嘘をついたことを詫びた内容が綴られていた。彼の母親のアンナから先にその話を聞いてしまったので、驚きはそれほどでもなかったけれど、それを知りながらパオロに何も告げずに別れてしまった後悔は残っていた。突然の事故で家族を失い自暴自棄になり、私なんかよりずっと現実を受け入れることに時間がかかったことが書かれていたが、彼の妻アンジェラについては何も触れずに僕の想い出の海に一緒に来てくれてありがとう。君の幸せを心から祈っていると締めくくられたライトブルーの便箋は美しい島の透き通った大海を思い出させた。パオロと過ごした日々は彼にとって迷惑でしかなかったかもしれないと思っていたから、どんな形であれパオロの役に立てたのなら少しは報われると思った。あの島へ行ったお陰で彼を疑った香水の謎も解けた。もうすぐ一時間が過ぎようとしていた。二杯目のコーヒーをお願いした。
「ごめん。時間がないんだ」
喫茶店の扉を乱暴に開け、孝が一目散に駆け寄る。久しぶりの孝が息を切らせ私の席まで来て挨拶もなく突っ立ったまま言葉を放った。
「彩菜、わざわざ来てくれ、待たせた上に、本当に悪いんだけど、これから急いで病院に行かなきゃいけないんだ。ごめん。彩菜、時間が無いんだ」
「え。どうしたの?何があったの?」
「ごめん。急いで行かなきゃいけなくて」
「ねぇ、もし良かったら一緒に行ってもいい?」
「いいけど。それなら急いで。外に車を止めてあるんだ」
病院のことで頭がいっぱいで他のことなど考える余裕はなさそう。一緒について行ってしまって本当に良いのかも分からない。でも、せっかくここまで来たのにこのまま何も話さず彼と別れるのだけは嫌だ。孝の運転の様子からも普段の彼とは違いイライラしただならぬ気配が伝わってくる。何も話し掛けられそうにもない。一体、誰が病院にいるのだろう。
「彩菜。着いたよ、急いで」
大きな建物の総合病院の救急受付から戻ってくると、孝は少し青ざめていた。
「どうしよう、優菜が危険な状態らしい」
「優菜って?」
「切迫流産したらしい」
「優菜が切迫流産?」
「ごめん。彩菜。ここに来る前に伝えればよかったね」
「わたしがついて行きたいって言ったから、ごめんなさい。わたし、やっぱり帰る。孝、こんなことになってるなんて思ってもみなくて」
「彩菜、待って。違うんだ。ここに座って。少しだけでも話せないかな」
孝の声がかすかに震えていた。仕方なく病院の廊下にある長椅子に腰掛けた。彼の隣でこんなに緊張したのは初めて。少しの間があってから孝が言いづらそうに口を開く。
「優菜は昨日の夜遅く、突然僕のところに訪ねてきたんだ。なんか実家で色々あったらしく飛び出してきたらしい。少なからず僕も責任を感じて無下にもできなくて泊めたんだ」
「どうして孝のところなの?お腹の赤ちゃんは二人の?」
「僕にもよく分からない」
「どうして」
「妊娠してることもさっき知ったんだ。ごめん、昨日の今日で僕も事情がよく分からなくて」
「一体、何が起きてるの、本当にごめん、わたし邪魔だったみたいね」
「彩菜ごめん、落ち着いて。本当に悪かった。結婚式の準備が進んでいたにも関わらず、白紙に戻すことになってしまって本当に申し訳ない。君を傷つけてしまった。なんて謝ったらいいのか言葉が見つからなくて。許してほしいなんて言える立場にないし、彩菜に酷いことをしてしまったと後悔してもしきれない。合わせる顔もなくて迎えにも行かず、放ってしまいごめん。本当に申し訳ない。悪かった。でもこれだけは信じてほしい。僕は彩菜を愛してたんだ」
小さな声で話す口下手な孝の言葉を信じたいと思った。
「優菜はあくまでも君の妹で、君の妹として接してきたつもりだ。だけど、一度だけ過ちがあったのも事実なんだ。ごめん。彩菜に正直に謝ろうとした。だけど言えなくて。もしかしたら君を失ってしまうんじゃないかってますます言えなくなった。時が経つほど、結婚式の準備が着々と進んでいって、一度だけなら隠し通せるかもしれないと思えてきて。結婚してしまえばそのうち忘れられると思った。浅はかだった。僕が全部悪い。許してほしいなんて言えない、ごめん、彩菜」
「そんな…」
やっぱり聞きたくなかった。耳を塞ぎたくなる。それでも孝は淡々と続ける。
「今更だけど、去年の冬、君が出張で日本にいなかった時、優菜から相談があるって呼び出されたんだ。お母さんと喧嘩して家に帰りたくないって相当酔ってしまってね。仕方なく僕の家に連れて帰ることになってその時に一度だけ。言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、その夜のことはほとんど覚えてないんだ。だから優菜にはそのつもりない事をはっきり伝えて、それからの連絡も一切断った。僕は君と結婚するし、もう終わったことだと勝手に思い込んでた。だけど偶然、あの日、君のアパートで優菜と顔を合わせてしまったら、ごめん。それでも誤解なんだ」
「え、どういうこと、なにそれ。ちょっと待って、優菜は孝のこと好きだったってこと」
「よく分からない。僕に恋愛感情があったとは思えない。優菜と二人きりはその一度だけ。僕というよりも君に嫉妬してたんじゃないかな。小さい頃からお姉ちゃんと比べられて、君にコンプレックスがあるって話してたから、なんとなく。ごめん。僕がちゃんとしなければならないのに」
「わたしにコンプレックスあるからって、そんなズルいよ。人のものばっか欲しがって。実家暮らしで好き勝手して。彼氏だってよく入れ替わってたけど居たじゃない。それならどうしてあの日…」
「あの日、僕は仕事を早めに切り上げて君に連絡入れアパートで待ってたんだ。だから玄関のブザーが鳴った時、てっきり君だと思って迷わずドアを開けた。そしたら君じゃなく優菜で。君の留守を告げたら靴を脱いであがって来て。一方的に連絡を絶ってしまったから怒ってたみたいで。色々やり合ってるうちに今度は泣き始めて。なだめてただけなんだけど。僕もどうしたらいいか分からなくて。そんな時に君が帰って来たんだ」
「どういうことなの。優菜は孝のことが好きじゃないなら、揉める必要なんかないよね。優菜は未練があったってことでしょ」
私はいつも甘え上手な優菜を羨ましく思っていた。お姉ちゃんだからってたった一つしか違わないのに我慢ばかり。
「ごめん。本当にごめん。僕が悪かった。優菜にきつく言えなくて優柔不断な態度をとってしまったから、すべて僕の責任だ。君を幸せにしたいと思っていたのに君を傷付けるようなことになって本当にすまない。彩菜に酷いことをしてしまったと自分を責める以外できなくて。本当に申し訳なかった。ごめん」
「全部孝に押し付けて逃げた私も悪かったけど、何それ、馬鹿みたい」
彼をただ信じていれば許せたのかもしれない。逃げなければやり直せたのかもしれない。
「いや、彩菜は何も悪くないよ。僕がもっと早く君に正直に謝っておけば、君は勘違いしなかったし、優菜ともこんなことになってなかったと思う」
もし今、私がここでやり直そうと伝えたらやり直せると、かすかに期待しながら言葉を飲み込んだ。なぜかその言葉を口に出せなかった。
「孝、もういいよ。きっと優菜が優しい孝に甘えただけだと思う。ごめんね、孝。私たち、あの子に引っかき回されただけだったのかもね。でももしかしたら優菜は孝のこと、本当に好きだったのかもしれない。だとしても憤りを感じる」
新しい環境で仕事をするだけでも大変な筈なのに、優しくて断ることが苦手な孝も同じ時間苦しんできたのだろう。少しやつれ疲れ切った彼を責める気になれない。最後のチャンス。孝からやり直したいと申し出てくれたら、やり直そう。でも自分の口からは言いたくない。私の最後のプライド。
「あの、吉澤優菜さんのご家族の方ですか?」
と看護師さんが私たちに声を掛けた。
「先生からお話があるそうなので、診察室にお願いします」
ちっぽけなプライドが邪魔して私はその場を立ち去るしかない。席を立とうした時、孝が私の手首を強く掴んだ。
「彩菜、待ってくれ。君の妹が危ないんだ。一緒にいてくれないか?」
「孝、お願い離して。わたしここにはいられない。いたくないの。家族なのにごめんなさい」
家族だから?血が繋がっているから?姉妹だから?どんな理由で心配しないといけない?私は冷たい人間?わからない。妹にここまでされるほど恨まれることをした?どこで何を掛け違えた?私は何ひとつ完璧じゃない。だけど、だからって、私たちの関係を壊していい理由にはならない。
「ごめん、彩菜」
それでもまだ許せないのは彼を本気で愛した証なのだろうか。
「わたしもごめん、孝。わたしも孝を愛してた。あなたと幸せになりたかった。ついさっきまでそう願ってた。でももういいよ。いいから早く優菜のところに行ってあげて」
これ以上ここに居たらもっと傷つけ合ってしまいそうな気がした。孝が言葉を失い茫然としていると、看護師さんに急かされた。円満な別れなどただの幻想でこの世に存在しないのかもしれない。愛し合っていながらも別れなければいけない二人と、愛し合ってもいないのに一緒にいる二人。
「彩菜、本当にごめん」
「さよなら、孝。わたしも本当にごめん」
「彩菜、君の幸せを祈ってる」
優菜のことだけでも肩を落としている彼とこんな場所でこれ以上話をしても、何の解決にもならない。私の幸せって何?孝はしつこいくらい謝っていたけど、やり直そうとは口にしなかった。去って行く私を追いかけてくる気配もない。本当に終わってしまった。もう何もない。私もゼロじゃなくマイナスからのスタートだよ、健人。きっと無事家に到着して、家族と久々の再会をしてるんだろうな。頭の中で色んな事が乱暴にグルングルンする。パオロの声のリフレインも止まない。
~君の外の世界で何が起こっても、君の価値は何ひとつ変わらない~
外側で何があっても君の価値は何も変わらない。幸せな道を進む。そう決めて帰国したはずなのに逃げたくなる。不完全な現実が受け入れられない。どんな意味付けをしたらいい?これで本当に良かったの?まだやり直したい?私たちの絆はこんなにもろかったの?どうすれば良かったの?助けて。
広い病院の階段を足早に駆け降り、真っ先に正面入口扉を目指す。ここから離れたい一心でひたすら重たい足を前へ前へと運ぶ。動かしているのに進みが鈍い。疲れが身体中にドッと押し寄せる。せめてこんな場所じゃなく落ち着いて話したかった。それなのに…。きちんと対話してお別れすることすら許されないなんて、やっぱりやるせない。だってだって好きだったから。本当に愛していたから仕事を辞めて結婚することを選んだの。目の前で繰り広げられる現実がパラレルワールドなら。心の中のネガティブとパオロの言霊たちが高波のようにパシャと大きくぶつかり合い、脳ミソの中を猛スピードで撹拌する。受付の人だかりを抜け、正面にある大きな自動ドアを通り過ぎようとした時、今にも泣いてしまいそうで下を向いていたら誰かと肩がぶつかった。
「すいません」
と言われても相手の顔を見る余裕などない。気にも留めず重たい身体を引きずる。せめてここから早く離れたい。
「オジョウサン、オコマリデスカ?」
どこかで耳にした懐かしい声が私の耳を優しくくすぐった。ぶつかった相手の顔を見上げてみたら健人だった。
「やっぱり、彩菜さんだ」
「どうして?」
「彩菜さん」
「健人」
「何かあったみたいですね。僕、車なんで。こっちです。一緒に来てください」
健人の大きな手が私の肩を抱き、病院の駐車場へ引っ張ってくれた。
「父が入院して、急いで母と来たところだったんです」
「え。大丈夫なの?」
「はい。ただの過労らしくて。救急車で運ばれたって電話貰って、母の方が動揺しちゃって。今は落ち着いてまだ父の傍にいたいって言うんで母だけ残してきました」
「それじゃ、実家に着いてから車走らせてきたの?」
「そうなんですよ。びっくりしましたよ。帰って玄関開けたら、いきなり母が泣きついてきて、息子との久々の再会を喜んで泣いてるのかと思ったら、まったく違って」
「大変だったね」
「拍子抜けしました」
「私も」
「そうみたいですね。ねぇ彩菜さん、海に行きませんか?きっと夕陽がきれいですよ。僕、とっておきの場所知ってるんで。その後はおいしい蟹でも食べに行きましょうよ。せっかく久しぶりに日本に帰って来たんだから、帰国祝いしましょうよ」
僕の目にはフィレンツェで初めて出逢った時よりも辛そうにみえた。
「うん」
「父の実家がこっちで小さい頃から金沢にはよく来てたんですよ」
「そう」
「何があったか分からないけど、彩菜さん、海にぜんぶ流しにいきましょう」
まさかこんなところで健人に再会するとは思ってもみなかったけどどこかで強く彼を求めていたのかもしれない。助手席からの車窓をぼんやり眺めていると、金沢の美しい古都の街並みがなんだか少しフィレンツェと雰囲気が似てるなと思った。
僕は沈黙に耐え切れず何か話さなきゃと思っていたら、こんな状況でも再会できたのが嬉しくてついつい話さなくていいことを口走ってしまう。
「僕、いつか必ず彩菜さんに会いに行きたいって思いながら別れたんですよ」
「うん」
「関空では一人前の男になるまでは絶対無理だって諦めたけど、彩菜さんと偶然にもこんなに早く再会できてよかった」
「うん」
「彩菜さんの傍にいたいんです」
「そう」
「ずっと」
「ずっと?」
「彩菜さんのことが好きだから、ずっと一緒にいてくれませんか?」
「私なんて何にもない。今度こそ正真正銘のすっからかん」
「彩菜さん、彩菜さんの外側で何が起こっても、彩菜さんは彩奈さんですよ」
「え?」
「彩菜さんが教えてくれたんですよ。健人の外側で何があっても、健人は健人だって」
「そうだっけ?」
「僕の知っている彩菜さんはイタリア美術が大好きで素直でまっすぐな人です。彩菜さんは僕のこと、年下だし男として見てくれてないのはよく分かってます。相手にされてないのも。だけど、僕、もうなんて言ったらいいんだろ、彩菜さんの悲しむ顔だけは見たくないんで、彩菜さんを全力で守らせてください」
言い始めたら止まらなくなってしまい、緊張まじりに一気に吐き出してしまうと、規則正しい寝息の音に気がついた。車を止め助手席に目をやるとぐっすり眠っている彼女がいた。小さい頃よく連れてきて貰った千里浜なぎさドライブウェイ。砂原に車を止めるとちょうど半分姿を隠した夕日が美しい。遮るもののない波打ち際。僕らだけの海。波音がただゆったりと心の波と共鳴する。僕はこの景色を眺めながらミケランジェロ広場を思い出した。フィレンツェ最後日の僕は仕事も来なくていいと言われ、荷物もそんなになかったから、ひとり美術館巡りですよ。ミケランジェロだけでなく、ボッティチェリやラファエロも見て、彩菜さんが絶賛したサンマルコ寺院のフラ・アンジェリコ『受胎告知』もちゃんと見てきましたよと報告し、気持ちよさそうに眠る無防備な唇を奪ってしまいたくなるのをグッと我慢した。彼女はどんな夢を見ているのだろう。彩菜さんの寝顔もアランチャの色に染まる。沈みゆく橙とともに長いイタリア生活の幕が下ろされたのを実感した。刻々と色を濃くしながら燃えていく緞帳が真紅から緋へ。そして紫へと色を変え次の幕開けを待つ。
黄昏時、私は健人と手を繋ぎ、人影のない白浜を歩いていた。どこまでも続く水平線に真っ赤に燃えゆく空のキセキ。ミケランジェロ広場のダビデ像が真っ白い歯を輝かせニッコリ微笑むとこちらを凝視しながら近づいてくるのに驚き、急いで彼に声を掛ける。そんな私に気づかぬ健人はのんびり手すりにもたれ美しい夕焼けに酔いしれ振り向く素振りもない。びくともしない彼にもう一度声を掛けると、不意打ちに唇を奪ってきた。突然の彼の行動に慌てふためく私に向かって
「ここでキスしてないカップルは僕らだけだったから」
と悪びれもせず皆がしている事はなにも考えず右に習えの誰かさんのように言い放つ。
「え、でもここって外国の人しかいないじゃない」
と反論し詰め寄って彼の顔を覗き込むと、私の知るさわやかな青年の健人じゃなく、今の私よりも年上らしき健人がいた。
「佐保姫の別れかなしも来ん春に
ふたたび逢はん われならなくに」
ともっともらしくドヤ顔したダンディな健人は私を抱きしめたまま離そうとしない。飛花落葉。諸行無常。すべては憂い変化していく。ようやく安心を取り戻す。再びゆるやかな波の音が聞こえてきた。かすかに肌寒い潮風と繋がれた手の温もり。本当は待っていた。健人の腕の中が私の還る星だったのかもしれない。
「彩菜さん、やっと目が覚めましたね」
「え、ここはどこ?どうして健人がいるの?」
「彩菜さんと夕陽を見ようと思って、日本一美しい渚に来たのに、もうすっかり夜空になっちゃいましたよ。彩菜さん、蟹行けますか?僕、お腹ペコペコなんで付き合ってくださいね」
「ねぇ、どうして私、健人の車にいるの?」
「彩菜さん、よく眠れましたか」
「ねぇ、どうしてここにいるの?」
真っ黒な車窓から星月夜が瞬いていた。散りばめられた数多の星屑は海面に反射しながら揺らめいている。
「彩菜さん、急いで車走らせて、お店に着いたらゆっくりちゃんと説明するんで。彩菜さん、大丈夫ですから。もう心配いらないんで。もうちょっと休んでてください」
空港でのさよならは再会する日などないと心寂しさを振り切った。それなのに今、隣に健人がいる。目を凝らしても波音だけで海岸線はわからない。流星が降りそそぐ夜空遠くやせっぽちの三日月を見つけた。漆黒の海に浮かぶ星たちの煌めきが綺麗で夢心地になる。これが夢じゃありませんようにとキラッと光る星守にそっと祈りを捧げた。
読んでくださり、ありがとうございました。わたしが好きな国、イタリアを舞台に選んだ。わたしが生きていてもいいと気づけた街だったから。人生には自分ではどうにもならないことが、否応なく訪れる。そんな時、あまりその出来事にネガティブな意味をつけても、辛くなるのは誰でもない自分だ。いいことも悪いこともすべての出来事の意味づけは自分で決めている。そんな事に気づけたら、少しだけ生きていくのが楽になるんじゃないかな、と思った。「大丈夫、すべてはうまくいっている!」全くそう思えない日でもそう思って生きてける強さを持てたらと思って描いた作品。