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IN:銀河より遠い∞世界  作者: 普通の人/3時のおやつ
第3-2章:「交錯する運命・危機」

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第83話「家系と居場所」

ページをめくるたび、紙の繊維が指先にこすれ、乾いた音を立てた。

茶褐色に変色したページには、細かな活字と不揃いな朱の書き込みがぎっしりと詰まっている。

僕は呼吸を潜め、視線だけを走らせた。黙読がゆっくりと、けれど確実に、胸の奥を熱くしていく。



---


そこに記されていたのは――


「森下家」の始まりは西暦191年5月。

この月、東海の中央のとある町で、1人の男が叫んだ。




乾いた紙に活字が浮かび上がるように、僕の脳裏に“その場”の気配が立ち上がる。

埃っぽい広場、風に揺れる布、ざわめく人垣。

そして、若い叫び声。


「京の『山野家』は我らを餓死させようとしている。

今年も農作物は不作し、餓死者は増加した。

それなのに、山野家や山野家を従っていた家来は今何をしているかわかるか!!?

……有利な生活をしているんだよ!!!!

朝起きたら豪華な朝食を食べ、羽根つきやかるたをし、生け花を飾ったりする。

そんな生活を毎日している!!!

皆はどう思う!!!?

こんな生活をしている『政府』を許す者はいないだろう。

なら、我に続け!!!

我に続けば、必ず『政府』を討つことができる!!!

さぁ!!!今決めろ!!!

『我に味方するか!!!』『我に味方しないか!!!』を!!!」




読みながら、手の中の紙が少し震えた気がした。

文字が火花のように弾け、人の胸を撃ち抜く。

そこへ、次の行が続く。


近くで聞いていた農民や一般市民、下級武士たちは答えを口にした。


「私はあなたに味方する!!」

「ワイも!!!命を掛けても『山野家』を討ちます!!!」

「私は女だけど…戦ったことはない…でも、何か力になれば手伝います!!!」

「畜生!!!『山野家』め、下級武士を差別しやがって…今に見てろ!!!」




反対はひとりもいない――と記されている。

飢えの中でも、人は炎を持てる。

行の間からそんな熱が立ちのぼる。


しばらくしてその男は、とある言葉を口にした。


「我の名は『森下源五郎』!!!

この世界の『すべて』を知りたい男!!!

『勝者は東にあり!!敗者は西にあり!!』

今すぐにでも『京』で反乱を起こす!!!

皆の者、良いか!!!!?」




“勝者は東にあり、敗者は西にあり”。

どこかで聞いた、血が騒ぐ合図だ。

ページの向こうで、人々の喉が裂けるほどの歓声が上がる。


皆、餓死寸前の中でも、「声」を出した。

まるで、空腹がなかったかのように人々は皆、団結した。


源五郎は微笑んだ。

「国を変えたい」「世界のすべてを知りたい」

この2つの目標を子供の頃から立てていたのは源五郎自身だけだろう。

まだ16歳。

成人になってから約2年しか立っていない少年。

その少年が一瞬にして、「人々を従えた」。




十六にして、世界を背負うと宣言した少年――森下源五郎。

僕は無意識に唾を飲み込む。

この紙に刻まれた文字は、ただの過去ではない。

今を引っ張る鎖のように、僕の指に絡みついてくる。


源五郎や従った人々は、武器を持ちながら、各地で色々な人々を従い『京』まで目指していった。

東海の西、近畿の南の人々を従えていった。


源五郎に従った人々は、組織名を『反山野家派』とした。




“反山野家派”。

名前は単純だが、切実な意志がにじむ。

そして――


191年6月中旬。

源五郎率いる『反山野家派』の人々は、山野家の本政府場所『京』に到着した。


到着した際、源五郎はこう言っていたといわれている。


「いいか…お前ら。

我らが時代を変える時が来た。

ここからは、命を『買う』ことはできない。

我らは命を掛けて、敵に『売る』ことになる。

……皆の者!!!!この戦、勝利するぞーーー!!!」




“命を買うことはできない。敵に売ることになる”。

言葉の重さが胃の底に落ちる。

彼らはその覚悟を叫びで共有し、いよいよ火蓋が切って落とされた。


そして、戦の火蓋が落とされた。

源五郎率いる『反山野家派』と山野家やその家来、『零の刀団』率いる『山野家派』が翌年の西暦192年1月中旬まで、『京』を中心に起こった反乱。


この反乱は後に**『京の乱』**と呼ばれた。




“零の刀団”。

刃の冷たさが文字から滲む。

ページの端に墨で描かれた古い刀の素描が、薄く影を落としていた。


西暦192年1月中旬。

この戦に勝利した『反山野家派』の本隊長『森下源五郎』は『京』で新たな政府を設立した。

新たな政府の設立と同時に、日本の『権力』が、森下家に変わったのだった。




行はそこまでで、ぷつり、と切れていた。

次のページへ指を滑らせる――が、紙が、ない。

綴じ糸が露出し、後半は“破り去られて”いた。


僕はゆっくりと息を吐いた。

紙の匂いに混じる、金属と埃の匂い。

静かな部屋の中心で、時間だけが止まっている。



---


「……ここまで、か。」


僕は閉じられた本を胸に当て、部屋の片隅を見た。

床ににじむ薄いシミ。

さっき感じた“生臭い匂い”は、きっとこの部屋がただの保管庫ではなかった痕跡だ。

――けれど、今の僕に必要なのは、匂いの意味じゃない。


情報だ。

名前だ。

繋がる線だ。



---


「森下家にこんなことがあったなんて……でも……亮さんの名前はなかった……」


声に出した瞬間、胸の内側がからんと空洞の音を立てた。

予想はしていた。

けれど、期待もしていた。

この紙束のどこかに“森下亮”の文字が現れて、すべてが線で結ばれることを。


書かれていないのは、僕が悪いわけじゃない。

この資料に“すべての事実”が欠けているのが悪い。

――そう言い聞かせることで、やっと足の震えを止めた。


本をケースの上へ戻し(割れたガラスが、かすかな音を立てた)、僕は踵を返した。

資料室を出て、中央のホールへ戻ろう。

少なくとも、東側は洗い終えた。


扉に手をかけた、そのときだ。



---


頭の奥で、低く冷たい声が蘇った。

あの地下研究所の、最期の別れ際――


「この世界に、『俺のすべてを知っているクソジジィ』がいる。

そいつを見つけろ。そいつを……必ずな」




足が止まる。

こめかみがわずかに脈打つ。

僕しか知らない言葉。

“居場所”へ続く唯一の糸。

――なのに、手繰るべき方向が、どこにも見えない。


「場所なんかわかるはずないのに探しても……意味ないじゃん……」


吐き出した言葉は、情けなく床に落ちた。

けれど、それが今の等身大の僕だ。

目の前にぶら下がる扉は、どれも鍵がかかっている。

鍵穴の形すら見えない。


僕は額に触れ、深く息を吸い込む。

酸素が肺に入ってくるだけで、少しだけ頭が冷える。


東側の捜索は、終わった。

成果は――「森下家の骨格」だけ。

亮さんへ直結する一本の線は、見つからなかった。



---


扉を開け、長い廊下に出る。

石畳に靴音が返ってくる。コツ、コツ。

遠くの西側から、久野さんと岡本さんの声が微かにして、すぐに消えた。

彼らも彼らで、手の中に何かを掴もうともがいているのだろう。


中央のホールへ戻ろう。

小暮隊長が待っている。

小野さんが眠っている。

そこに戻らなければ、僕の“今”は保てない。


歩きながら、もうひとつの声が脳裏をよぎる。

あの白い無音の世界で、蒼い瞳の少女が告げた“助言”。


リリィの助言――教会を捜索する。




僕は上を仰ぎ、息を細く吐いた。


「リリィの助言は……本当なのか? 嘘なのか?」


わかったことは、あまりに少ない。

紙の山は、過去の炎だけを残して、現在への道筋を示してはくれない。

もしかしたら――騙されたのかもしれない。

そんな黒い囁きが、背後から服の裾を引いた。


それでも、足は止めない。

疑いと希望は、いつだって背中合わせだ。

信じるという行為は、何かを掴んだあとにするものじゃない。

“掴みに行く”前に、先に胸の中へ灯すものだ。


コツ、コツ。

中央へ続く廊下の音が、規則正しく戻ってくる。

扉の向こうに灯りが見える。

僕は拳を握り直し、ホールへ向かった。


――“家系”は見えた。

――“居場所”は、まだ遠い。


それでも、進むしかない。


         To be continued

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