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IN:銀河より遠い∞世界  作者: 普通の人/3時のおやつ
第3-2章:「交錯する運命・危機」

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第80話「教会捜索前」

息を吸った。

乾いた、しかし鉄と焦げた匂いが混ざった空気が、喉を焼くように入り込んできた。


――目を開ける。


そこに広がっていたのは、空に黒い煙がゆっくりと、しかし確実に立ち上っていく光景だった。

濃く、重く、空を塗りつぶすような黒。

まるで、この一帯の空気そのものが燃えているかのように見えた。



---


僕は思い出そうとした。

意識を失う前、確かに僕は電車の中にいた。

金属のきしみ、急加速、そして――制御を失った車体。

次の瞬間、何かにぶつかる直前の映像を最後に、僕の記憶は途切れている。


多分……衝撃の瞬間、電車は脱線し、その勢いで僕は外に放り出されたのだろう。



---


しかし、倒れていた身体を起こした僕は、すぐに察した。


――あの黒煙は、電車そのものが燃えている証拠だ。



---



立ち上がった僕の視界に飛び込んできたのは、ひとことで言えば「地獄」だった。


脱線して大きく傾き、複数の車両が折り重なるように崩れ落ちている。

そして、その残骸のあちこちから炎が吹き出し、鉄骨を焼き、ガラスを割り、轟々と音を立てて燃えている。


周囲には外に投げ出された自衛隊員たちの姿があった。

動かない。

それどころか、まともな形を留めている者の方が少なかった。



---


顔が原形を失うほど潰され、血と骨片が地面に散らばっている死体。

腹部が裂け、臓器が露わになったまま冷え切っている死体。

首から上が完全に消え、胴だけが不自然に転がっている死体。

地面に無造作に落ちている腕や足――それらはもう、持ち主を失って久しい肉塊だった。



---


焼け焦げた金属の匂いと、焦げた肉の匂いが入り混じり、吐き気を誘う。

皮膚の下を何かがざわめくような、あの生理的嫌悪感。

けれど――



---



僕は立ったまま、下を向き、吐き気に身を委ねようとした。

だが、気づいた。


吐けない。


いや――違う。

吐きたいのに、吐けない。

喉までこみ上げる感覚はあるのに、そこから先が出てこない。



---


(……なんでだ……?)



---


今まで、何度も死体を見てきた。

そのたびに、反射的に胃の中身を吐き出してきた。

だが、今目の前にある光景は、そのどれよりも残酷で、無惨で、目を背けたくなるはずのものなのに――


恐怖は、なかった。



---


(意味がわからない……なんで、こんな時に……?

気持ち悪くないのに吐きたくなる……吐けば少しは楽になるはずなのに……なんで……?)



---


自分の身体と心が、別々の生き物になったような感覚だった。

その不可解さが、恐怖よりも先に僕を支配していく。



---



その時――


僕の頭の中に、あの声が再生された。



---


リリィの声だ。


「太一君が最後に見た“何か”……あれは、とても大きな教会よ」





---


その一言が、まるで古い鍵を回すように、忘れていた記憶を開いた。


そうだ――あの白い世界で、リリィは三つの助言をくれた。

そして、その二つ目がこれだった。



---


「建物の中に入り、捜索すること」



---


この地獄の中で、そんな助言を受けたことなど、一瞬で頭から消えていた。

だが、今――その意味が、目の前に現れている。



---



煙と炎の向こう、少し離れた場所に、異様なほど静かに立つ建物があった。


縦長の石造り。

古びた壁面には煤がついているが、崩れてはいない。

そして、入口の上にははっきりと「十字架」の形をしたものが立っていた。



---


そこだけが、周囲の惨状から切り離されたように静まり返っている。

炎も血も、そこには届いていない。

まるで異世界の断片が、ぽつんと現実の中に落ちてきたかのようだった。



---


僕は、一歩踏み出す前から理解していた。



---


(……ここだ)



---


リリィが言っていた「大きな教会」。

この十字架の建物以外に考えられない。



---


足元のガラス片がカリ、と鳴った。

その小さな音が、やけに鮮明に響いた。


僕は息を整え、教会の方へと歩き出す。



---


               To be continued

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