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IN:銀河より遠い∞世界  作者: 普通の人/3時のおやつ
第3-2章:「交錯する運命・危機」

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第79話「リリィの助言」

あの瞬間――あの、耳を裂く金属音と骨を砕く衝撃が車体を襲った瞬間、

僕は確信していた。


ああ、これはもう助からない。


視界は暗転し、世界が音を失った。

重力の感覚も、痛みの感覚すらもどこか遠くに押しやられていく。


まるで、自分の身体がゆっくりと水の底へ沈んでいくような、そんな感覚だった。



---


僕は、その底なしの暗闇の中で謝罪していた。

誰にでもなく――いや、確かに誰かに。



---


小野さん……

助けられなくて、ごめん。


「僕が必ずあなたを助ける」

そう、胸を張って言ったのに。

言葉だけで、何も出来なかった。



---


みんな……

ごめん。

僕がみんなより先に逝くなんて、自分でも情けないし、恥ずかしい。



---


博士……

もっと話したかった。

あの時の研究のことも、インフィニティのことも……。

でも、結果はこのザマだ。



---


謝罪の連鎖が、心の中で止まらない。

そんな自分を、どこか冷めた視点で「本当に僕らしいな」と見下ろす別の僕もいた。



---


やがて、僕の思考は「死」のその先へと滑り込んでいく。



---



天国と地獄――

もし死後の世界が本当に存在するのなら、僕はどちらに行けるのだろうか。


天国なら、虹の橋を渡り、優しくて親切な人たちに迎えられるだろう。

温かい食事と、柔らかいベッド、穏やかな笑顔。

「もう怖くないよ」と肩を叩いてくれる誰か。


だが――僕は人を殺している。

ゾンビ化していようと、元は人間だ。

その事実は消せない。

ならば、行き着くのは地獄だろう。

炎と絶叫と血の匂いの中で、永遠に責められる。

そう、僕は――天国には行けない。



---


そう思った、その時だった。



---



闇が、突然、色を変えた。


真っ黒だったはずの世界が、ゆっくりと、しかし確実に白に染まっていく。

雪のような白ではない。

それは色彩の概念すら拒絶するような「無機質な白」だった。


天井も床も、境界すらもない。

方向感覚も、重力の感覚も、すべてが消え去っている。



---


音はない。

風もない。

感覚すら、研ぎ澄まされすぎて無音に溶けている。



---


――知っている。

この光景を、僕は「前にも」見たことがある。


「あ……これ……まさか……」


思い出しかけた、その時だった。



---



コツ、コツ、コツ……


乾いたヒールの音が、真っ白な無に反響した。

その音は遠くから確実に近づいてくる。


やがて、白い靄の向こうから小柄な影が現れる。



---


帽子の先に金色の意匠。

肩を包む黒いマント。

裾を縁取る金緑色が、まるで古い聖堂のステンドグラスを切り取ったように煌めく。

そして、深い蒼色の瞳。

真っすぐに僕を見つめる眼差しは、優しくも、何かを見透かすようでもあった。



---


「……リリィ……? 本当に、リリィなのか……?」



---


彼女は微笑んだ。

「そうよ。私はリリィ。これで……二回目ね」



---


「なあ、リリィ……僕は……死んだのか?」



---


リリィは一瞬だけ表情を曇らせ、

次の瞬間――



---


(。>﹏<。)



---


まるで少女漫画の登場人物のように両手で口元を押さえ、顔を赤らめた。



---


「え? な、なんだよその顔……?」



---


僕は視線を下に落とした。

……そして、すぐに理解してしまった。



---


「えっ……(。>﹏<。)!? な、なんで僕……すっぽんぽんなんだよ!?!?」



---


リリィは堪えきれないように小さく笑った。

「フフ……たまに起こるの。夢の中での現象よ。気にしないで」



---


「気にするなって……無理だろ……」



---


羞恥と困惑が入り混じったまま、僕は彼女の言葉を待った。



---



リリィは真顔に戻り、ゆっくりと言った。


「太一君に……いくつか、助言を話してあげる」



---


「助言……?」



---


そう言われても、僕の中で疑問しか浮かばなかった。

この世界は夢か死後の世界かすら分からない。

なのに、未来の助言? そんなの信じろという方が無理だ。

……けれど、話くらいは聞いておく価値がある。



---


「私が太一君に伝える助言は、三つ」



---


「三つ……?」



---


リリィは右手の人差し指を立て、淡々と告げる。



---


「一つ目――昏睡状態の少女は“絶対”に守り抜くこと」



---


「……昏睡状態の少女? それって……小野さんのことか……?」



---


「そうよ。あなたの仲間の一人。その少女を、どんなことがあっても守り抜いて」



---


「……それは……もう、決めてることだ。守るよ。何があっても」



---


リリィは小さく頷き、二本目の指を立てた。



---


「二つ目――建物の中に入り、捜索すること」



---


「……捜索? どういう意味だ?」



---


「太一君が最後に見た“何か”……あれは、とても大きな教会よ」



---


「教会……だって? なんで僕がそこを……いや、いい。最後の三つ目を教えてくれ」



---


リリィは三本目の指を立て、少しだけ口元を緩めた。



---


「三つ目――名古屋市から脱出して、三重県の大紀町を目指すこと」



---


「三重県の……大紀町? なんでそんな場所に?」



---


「理由? あるわ。でも――お・し・え・ま・ちぇん、ふふっ」



---


「……お前、今わざと“おこちゃま”みたいな語尾で煽っただろ!!」



---


「ごめんごめん! 悪かったわ。でも……理由は本当に教えられないの」



---


「……“そっちの事情”ってやつか……。分かったよ」



---



ふと、彼女の声が遠ざかり始めた。

視界が、ゆっくりと揺らぎ始める。

白い世界が、まるで液体が蒸発するように色を失い、崩れていく。



---


「……時間ね。助言の通りに進めば、必ず道は開ける。頑張って……太一君」



---


その言葉に頷きかけた瞬間――

僕は、ある違和感に気づいた。



---


「なあ、リリィ! 助言をくれたってことは……まさか……僕、生きてるのか?」



---


白の彼方、揺らめく輪郭の中で、彼女ははっきりと言った。



---


「あなたは……生きてるよ」



---


その瞬間、視界は真っ暗闇に塗り潰された。



---


                 To be continued

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