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IN:銀河より遠い∞世界  作者: 普通の人/3時のおやつ
第3-2章:「交錯する運命・危機」

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第78話「出発と惨劇」

1両目に戻った僕の背後から、重い靴音が近づいてきた。

振り返ると――小暮隊長が立っていた。

彼の顔には、普段の険しさよりもわずかな安堵が混じっている。


「坊主、いい知らせがある。聞きたいか?」


唐突な問いに、僕は瞬きした。

「えっ?……小暮隊長、いきなり何ですか? ……まあ、はい、お願いします」


小暮隊長は、短く、しかしはっきりと言った。

「今から“新城市”を脱出する。つまり……電車が動くってことだ」


胸が跳ねた。

「じゃあ……昨日言ってた通り、名古屋市へ避難するんですか?」


「ああ。そういうことになる」

彼は顎を引いて頷いた。

「今、久野と岡本が運転席で車内アナウンスの準備をしている。5両目や6両目にいる一般市民にも知らせるつもりだ。アナウンスが終わったら、すぐ発進だ。坊主、お前は座席で大人しくしてろ」


「は、はい……わかりました」



---


やがて、低く落ち着いた声が車内放送を通じて響く。

「――こちら自衛隊A3部隊。これより新城市を離脱し、名古屋市へ向かいます。各車両の皆さんは着席し、揺れに備えてください――」


放送が終わると同時に、車両がわずかに揺れ、低い唸り声のようなモーター音が車内に満ちていった。

「ウウウウウゥゥゥゥン……」

そして、ゆっくりと車輪がレールを噛み、動き始める。


「ガタン……ゴトン……ガタン……ゴトン……」


電車は加速し、やがて外の景色が細い線となって流れ始めた。

僕はシートの背にもたれ、少しだけ呼吸を整える。

「……これで、しばらくは安全だ」

そう思いたかった。



---


しかし、それは長くは続かなかった。


出発からおよそ1時間40分後――


「隊長っ!! 隊長!!!」

久野さんの叫び声が、運転席側から響いた。


「どうした久野!? そんなに慌てて……」


「もうすぐ名古屋駅に到着するので速度を落とそうとレバーを動かしたんですが……全く落ちません!!」


「なに……?」

小暮隊長の声色が、瞬時に鋼のように硬くなる。


「それどころか、“緊急ブレーキボタン”を押しても、反応がありません!!」


「馬鹿な……!」

隊長の眉間に深い皺が刻まれた。



---


「車内アナウンスで知らせますか?」久野さんが息を詰めて尋ねる。


「それはダメだ!」小暮隊長が即座に切り捨てた。

「ここで知らせたら、パニックが起きる。一般市民だけじゃない……武装してる自衛隊員まで混乱しかねん」


「じゃあ……どうしろって言うんですか!!」久野さんの声が、半ば悲鳴に変わる。


僕の背筋に、冷たいものが這い上がった。

減速できない電車。

このままでは――



---


そこへ、運転席奥から岡本さんの声が轟いた。

「隊長っ!! まずいでごわす!!! このままじゃ脱線するでごわす!!」


その叫びは、車内全体に緊張の網を広げた。

小暮隊長の顔色が一瞬で蒼白になる。

「……嘘だろ。もう、取り返しがつかないってのか……」


久野さんが叫ぶ。

「隊長!! 命令を!!」


しかし、その瞬間――



---


「ギギギギギギギィィィィィィ――――!!!!」


金属が悲鳴を上げる音が、車輪から突き抜けた。

車体が大きく左右に揺れ、天井の吊り革が一斉に暴れる。

「バン!! ガン!! ガシャァァン!!!」

網棚から荷物が落ち、シートの間を転がる。


「うわぁぁぁあああ!!!!」小暮隊長が叫び、必死で手すりを掴む。

「隊長っ!!!」久野さんも踏ん張るが、足元が浮き上がる。

「脱線したでごわすううう!!!!」岡本さんの声が轟く。



---


次の瞬間――


「ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!」

凄まじい振動が車体全体を貫き、視界が大きく傾いた。


「ギャリリリリリリリリィィィィ!!!」

車輪がレールを外れる金切り音が鼓膜を裂く。

「ドガァァァァァン!!!」

車体が何かに激突し、弾かれたように横転した。


窓ガラスが一斉に粉砕し、破片が雨のように降り注ぐ。

「パリン!! ガシャァァン!!!」

鋭い破片が頬をかすめ、焼けるような痛みが走る。


天井の金属パイプが外れ、「ゴン!!」と頭上をかすめた。

誰かの悲鳴、金属の軋み、床を転がる物体の音が入り乱れる。


「ぐぅぅっ!!!」僕はとっさにシートの足元へ身体を潜り込ませた。

しかし次の瞬間、車体は再び大きく回転し――


「ゴロン!! ゴロゴロゴロゴロッ!!!」

360度近く横転を繰り返しながら、何かに押し潰されるような衝撃が襲う。



---


その刹那、前方から黒い影が迫った。

巨大な建造物か、別の車両か……見極める暇もなく、


「ドォォォォォン!!!!!」


雷鳴のような衝撃音。

背骨を砕かれるかと思うほどの圧迫感。

車内の空気が一瞬で押し潰され、肺から勝手に息が吐き出された。


視界が白く弾け、耳鳴りが世界を支配する。

「キィィィィィ……」


そして――暗転。


僕が最後に見たのは、何かにぶつかる直前、

小暮隊長がこちらに手を伸ばそうとする姿だった。



---


                   To be continued

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