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IN:銀河より遠い∞世界  作者: 普通の人/3時のおやつ
第3-2章:「交錯する運命・危機」

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第77話「約束とあの日」

僕が意識を取り戻したのは――8月11日の早朝だった。

頭の中はまだ霞がかかったようにぼんやりしていて、時間の感覚もおぼつかない。

昨日、つまり8月10日の夕方。避難所での大発狂と、その後の意識の途切れ。

あの一連の出来事はすべて悪夢のようだったが、現実だという感覚は、皮膚の奥で冷たく脈打っていた。


目を覚ました僕がいた場所は、予想通り「地下鉄・新城駅」に停車中の電車の中――1両目。

狭い車内には、まだ夜の冷気がこもっていて、鉄の匂いが漂っている。


そして、僕の胸を占めていたのは、たったひとつの想いだった。


――小野さんの安否。


僕はためらわず立ち上がり、隣の2両目への扉を開けた。



---


2両目に足を踏み入れた瞬間、僕の視界はひとつの光景に吸い込まれた。

そこにあったのは、簡易の病院用ベッド。

そして、その上で静かに眠る小野さんの姿だった。


白く冷たいシーツ。

その下で、彼女の細い体がわずかに上下している。

お腹の位置には分厚い包帯が何重にも巻かれ、その上から止血用の布が押さえつけられていた。


「小野さん!!」


思わず声が出た。

その声は、静まり返った車内で不自然なほど大きく響き、すぐに吸い込まれるように消えた。


しかし返事はない。

彼女は昏睡状態のまま、まるで時が止まったように微動だにしなかった。



---


車内を見渡しても、そこにいるのは僕と彼女だけだった。

きっと小暮隊長や他の仲間、自衛隊員たちは3両目や4両目に控えているのだろう。

つまり、今この瞬間だけは……僕と小野さんだけの空間。


「小野さん……大丈夫ですか……」


もう一度問いかけたが、やはり応答はなかった。

胸の奥がきゅっと締め付けられる。

僕は彼女のベッドの脇に腰を下ろし、握りしめた膝がわずかに震えていることに気づいた。


そして――不意に、視界が滲み始めた。


「ごめん……小野さん。僕が……あの時、もっと早く気づいていれば……」


言葉と一緒に、熱いものが頬を伝い落ちる。

記憶が鮮明に蘇る。



---


あの警察署の前。

背後から忍び寄った、異様な影。

飛びかかる気配と同時に、小野さんの悲鳴。

そして目に飛び込んできた、あの――三つ首の獣。


闇色の毛並みと、燃えるような赤い三対の瞳。

唸る喉から滴る血の泡。

130センチを超える巨躯。

その存在は、人間が作り出した「開発生物」の域を超えていた。


僕は確信している。

あれはただの化け物じゃない。

かつて図書館で読んだギリシャ神話に登場する、冥界の番犬――「ケルベロス」。

その名を持つ怪物に酷似していた。


もしあれが、インフィニティ過激派組織によって造られた新型だとすれば……

今後、僕たちの前に立ちはだかる敵は、さらに異形で、さらに恐ろしくなるだろう。



---


「……でも、小野さん」


僕は彼女の左手をそっと両手で包み込む。

ひんやりとした体温が指先に伝わり、その冷たさが逆に彼女の命の灯火を感じさせた。


「僕が……何とかします。必ずあなたを助けます。だから……生きてください」


それは誓いだった。

ただの子供の意地でも、軽い慰めの言葉でもない。

生き延びることを選んだ者同士の、静かで、しかし揺るぎない約束だ。



---


立ち上がり、1両目へ戻ろうと扉の前に立ったその時――

頭の奥底に、あの不快で耳障りな声が響いた。


『私はネドベドじゃねぇ!! ネドウェドだ!! 間違えんなァァアアア!!』

『この私を侮辱するな!! 私は“世界一の研究者”だぞ!!』

『このガキが!! 誰が泣いていいと言った!!?』

『おい、誰か来い!! エルフの解剖を始めるぞ!!』

『どうだ!! これが私の“技術”だ!!!』

『私は“インフィニティ・日本部隊”の最高幹部だ!!!』


怒鳴り声と笑い声が頭蓋骨の内側を反響し、胸の奥で何かが爆ぜた。



---


あの時……練馬区を脱出する直前。

地下研究所で見た、あのビデオテープ。

そこに映し出された、泣き叫ぶエルフの母子、他種族たちの死体や叫び。

そして、それを愉悦の表情で見下ろす――ネドウェド。


あの瞬間の嫌悪と怒りは、今も皮膚の下で生きている。

焼けつくような殺意が、じわりと視界を赤く染め上げる。


「……ネドウェド」


口の中でその名を噛み砕く。

「絶対に許さない……。戦う時は、必ず……殺す」


それはもはや子供の意気込みではなかった。

一度でも地獄を見た者の、魂からの宣告だった。



---


僕は1両目への扉を開き、静かに、しかし確かな足取りで戻っていった。

この胸に宿った約束と憎悪は、決して揺らぐことはない。



---


                              To be continued

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