表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IN:銀河より遠い∞世界  作者: 普通の人/3時のおやつ
第3-2章:「交錯する運命・危機」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/83

第76話「目覚め」

――暗闇の中、ぼんやりとした揺れを感じていた。

体の下は硬く、どこか規則正しい振動が足元から伝わってくる。耳の奥では、低く唸るような機械音が一定のリズムで響いていた。


やがて瞼を押し上げると、視界の上部に吊り下がる“輪”が見えた。

銀色の輪が等間隔に並び、わずかに揺れている。


――吊り革。


頭が鈍く痛む中、ゆっくりと現実が形を持ちはじめた。

ここは……地下鉄の車内だ。


視界の端が滲み、乾いた喉を潤そうと唾を飲み込むが、喉は砂漠のように渇いている。

自分がここにどうやって辿り着いたのか――断片的な記憶が、ざらついた映像のように蘇った。


血の匂い。

倒れた子供たちの冷たい肌。

自分の叫び声。

足元で潰れる肉の感触。

そして――闇に引きずり込まれるような、あの感覚。


そのとき、不意に影が差した。


「おい!! 大丈夫か!! 坊主!! しっかりしろ!!」


荒い息遣いと共に、男の低く響く声が降ってきた。

目を向けると、屈強な体躯の男が僕の前に膝をつき、両肩を掴んで揺さぶっていた。


――小暮浩人。

あのとき、倒れた小野さんを抱き上げ、高機動車でここまで運んでくれた、自衛隊A3部隊の隊長だ。


「……小暮、隊長……」


「ようやく目を開けたか。まったく、心配させやがって」

声に混じる安堵の色は、隠そうとしても滲み出ていた。


「……僕……確か……あのとき……大発狂して……」

唇が震える。言葉にした瞬間、胸の奥で何かが再び蠢く。


「ああ。あの避難所の中で、お前は……何かを見たんだろうな」

小暮隊長は、深く息を吐いた。「俺が駆けつけたときには、お前は床に倒れていて……目を閉じたまま動かなかった」


「……申し訳ありません……」


「謝ることじゃない。お前が何を見て、何を感じたのか……それは、お前だけの戦場だ」


その言葉に、僕は一瞬だけ目を伏せた。

あの地獄を、戦場と呼ぶこと。

そして、そこに取り残された自分を肯定してくれる響きが、なぜか胸を締め付けた。



---


その時、重い扉の開く音が車内に響いた。


「小暮隊長!!! ここにいらっしゃったでごわすか!?」

豪快な声と共に入ってきたのは、がっしりとした体格の男。

その後ろから、もう一人、鋭い目をした長身の男が続く。


「隊長、勝手に地下鉄に向かわないでください! どこに行ったのかと心配しましたよ!」


二人とも、小暮隊長と同じく、自衛隊の迷彩服に身を包んでいた。


小暮隊長が片手を挙げる。「岡本、久野。お前らも無事だったか」


二人の視線が、自然と僕へと向く。


「隊長……これが“例の子”でごわすか?」

「見た目からして……小学生ですかね?」


小暮隊長は短く頷いた。「ああ、そうだ」


「そういえば坊主。名前を聞いていなかったな。お前、名前は?」


僕は小さく息を吸い、背筋を伸ばした。


「……僕は、山田太一。小学5年生、11歳です。これから、よろしくお願いします」


二人の自衛隊員が、それぞれ表情を和らげる。


「俺は久野一。同じ愛知自衛隊A3部隊の兵士だ。……坊主、これからは背中を預け合う仲だな」

「おいどんは岡本仁一郎でごわす。よくまあ……こんな状況で生き延びたもんでごわすなあ」


彼らの言葉に、僕は少しだけ肩の力を抜いた。

ここは、少なくとも“さっきまでの地獄”とは違う。

今は、まだ……安全だ。



---


だが、その安堵の波の中で、ふと胸の奥に冷たい針のような感覚が走った。

――忘れてはいけないことがある。


「……小暮隊長。小野さんは……今、どこに?」


その名を口にする瞬間、喉が詰まりそうになる。


小暮隊長は、僕を真っ直ぐ見て頷いた。


「あの子のことか。安心しろ。隣の車両で治療を受けている。今は眠っているが、容態は安定している」


「……よかった……本当に……よかった」


胸の奥に溜まっていた何かが、少しだけ解けた気がした。


僕だって、生きなきゃいけない。

小野さんを生かすためにも、自分が立っていなければならない。



---


地下鉄は、暗闇の中を静かに走り続けている。

振動は穏やかだが、この先の未来は穏やかとは限らない。


誰かが死ぬかもしれない。

誰かが裏切るかもしれない。

誰かが……自分に手を差し伸べるかもしれない。


そのすべてを飲み込んででも、生き延びなければならない。

この生を、誰かのために繋ぐために。


僕は拳を握った。

地下鉄の車輪音が、その決意を刻むように、単調なリズムを刻んでいた。



---


                              To be continued

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ