表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IN:銀河より遠い∞世界  作者: 普通の人/3時のおやつ
第3-2章:「交錯する運命・危機」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/83

第74話「結局地獄」

僕は、倒れた小野さんの横をそっと通り過ぎて、

警察署の自動ドアに手をかけた。

冷たく金属の匂いが染みついたガラスに触れた瞬間、指先にざらりとした不快な手応えが走る。

血か。誰かの――温度を失った命の跡。


ドアが「キィィ……」と鈍く開いた。


そこに広がっていたのは、静寂でもなければ、安堵でもなかった。

そこは――地獄だった。



---


入口すぐの受付カウンターの奥。

制服を着た中年の男性警察官が、壁に背を預けて座り込むように倒れていた。

目は虚空を見つめ、口元からは乾いた血が垂れている。

その足元には、びっしりと染みのように広がる尿の跡。

最期の瞬間、どれほどの恐怖と絶望に呑まれていたのか。想像するだけで胃が捻じれた。


カウンターの向かい側には、片腕のない警官が倒れていた。

もう一方の手には拳銃が握られていたが、撃つことすらできなかったのだろう。

その体は、両脚がなく、喰いちぎられたようにざっくりと肉が裂けていた。


「うっ……!! おぇ……うえっ……!」


耐え切れず、胃の底からこみ上げるものを押さえきれなかった。

さっき嘔吐したばかりなのに、また喉の奥が熱くなる。

食べたものなど残っていない。

それでも、体は“吐く”という行動でしか、この現実を処理できなかった。



---


「……っ、早く……誰か……誰か生きてる人……いないのか……」


涙と胃酸でぐしゃぐしゃになった顔を拭いながら、僕は警察署の中を歩き出した。

生存者がいる可能性は限りなく低い。

だけど、ゼロじゃない。

その“ゼロじゃない”に縋るしか、今の僕にはできなかった。



---


1階の廊下は静かだった。

ゾンビの姿はなかった。

恐らく、入口で暴れたあの三つ首の化け物に、すでに食い尽くされていたのかもしれない。


無言で警察署の奥へと進む。

途中、弾痕の残る壁、割れた監視カメラ、血で汚れた床。

“秩序”の象徴だったこの建物は、すでに“混沌”の記憶で塗り潰されていた。


僕は階段を使って2階へ上がった。

そこでは、数体のゾンビが徘徊していたが、こちらにはまだ気づいていないようだった。

忍び足で廊下を進みながら、部屋のドアを一つずつ開けていく。


「……誰か……いませんか……?」


声を潜めながらも、どこかで誰かが応えてくれることを期待していた。

けれど、返ってくるのは風が吹き抜ける音と、遠くから聞こえるゾンビのうめき声だけだった。



---


3階に上がった時だった。


ある一室の前で、床に落ちていた手帳のようなものが目に留まった。

それは警察官の名前が印字された「事件記録ノート」だった。


僕は慎重に拾い上げて、中をめくった。


その中には――



---


最近発生した事件



---


1. わいせつ事件

・発生日:2005年6月12日

・容疑者:50代男性

・被害者:30代女性

・概要:

 犯人は女性の勤務先で待ち伏せし、勤務終了後に後をつけ、犯行に及んだ。

 取り調べでは「未婚だったから」と容疑を否認している。



---


2. いじめ事件

・発生日:2005年7月8日

・加害者:男子高校生5人

・被害者:同級生男子高校生

・概要:

 加害者は日常的に暴力・暴言・金品の強奪を繰り返していた。

 主犯格は「低身長だったから見下していた」と供述。



---


3. 殺人事件?

・発生日:2005年7月13日

・容疑者:不明

・被害者:10代女性

・概要:

 首元に噛み傷があり、遺体は林道で発見された。

 警察は“野生動物による襲撃”と判断。

 だが、検視の結果、“人間の歯形”に酷似しているとの報告あり。



---


「……最後のやつ……どう考えてもゾンビの仕業じゃん……」


僕は苛立ちを込めて、その手帳を放り投げた。

手帳は乾いた床を滑りながら、壁に当たってぺたりと落ちた。


あのノートに書かれていたのは、人間の罪だった。

欲望、差別、暴力、そして――見逃された“異常”。

それらが積み重なって今があるとしたら、僕たちはすでに“壊れかけた世界”の中で生きていたんだ。



---


警察署の最上階――4階。


ここにもゾンビがいた。

ただし、腐敗が進みすぎていたせいか、動きは鈍く、僕の姿にも気づかず歩き回っていた。


僕はサバイバルナイフを握り、音を立てずに奴らを一体ずつ倒した。

倒したあとはすぐに手を拭い、消毒した。


「……誰もいないか……」


重苦しい空気が、警察署全体を包み込んでいた。

まるで“死”そのものがこの建物を支配しているかのようだった。



---


ふと、窓の外を見ると――


夜が、来ていた。


空はすでに群青に染まり、星がぽつぽつと瞬き始めていた。

瓦礫の上に立つ壊れた電柱が、風に揺れながら軋んでいる。


「……帰らなきゃ……避難所に……」


そこに誰かがいる保証はない。

小野さんは倒れたままだ。

それでも僕には、あの場所しかなかった。


重たい足を引きずるように、僕は警察署を出る。


外の空気は、冷たかった。

夜の風が、血と煙の匂いを運んでくる。


それでも、僕は一歩を踏み出した。


何が待ち受けているかわからない未来に向かって。



---


                    To be continued

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ