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IN:銀河より遠い∞世界  作者: 普通の人/3時のおやつ
第3-2章:「交錯する運命・危機」

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第72話「だるまさんが転んだ」

夕日が赤く、世界を焼いていた。

茜色の光が、倒れた電柱や、吹き飛んだ瓦礫の影を長く引き伸ばしていた。

血の色に染まったような空の下、僕はひとり、黙々と歩き続けていた。


(……見つからない)


誰もいない。

誰の声も聞こえない。

誰の気配もない。


僕の足は、無意識のうちに“地獄”の中へ踏み込んでいた。



---


ある路地を抜けた先で、ひときわ異様な光景に出会った。


銃を手にしたまま、立ち尽くした姿勢で死んでいる警察官。

赤ん坊を腕に抱いたまま、泣きながら死んでいた女性。

その周囲には、首が吹き飛んだ無数の死体。


電線に首を吊られた死体が、風に揺れて軋んでいる。

誰が斬ったのかもわからない、首のない胴体が、住宅の玄関前に雑に並べられている。


(やめてくれよ……)


目を逸らそうとしたが、無理だった。

どこを見ても、すでに“日常”なんて存在しなかった。


――突然。


「うぇっ……おぇぇ……」


僕は、思わずその場で嘔吐した。

胃の中はほとんど空っぽだったのに、それでも何かを吐き出さずにはいられなかった。


かつての自分なら、目を逸らして震えていただろう。

だけど、今の僕は――

11歳の小学生でありながら、戦場の現実を知りすぎてしまった。


どこかで「慣れた」と思っていた。

だけど、慣れていい光景なんて、この世にひとつもない。



---


しばらくして、ふらつきながら町の中心部へ進んでいくと、そこには一人の男が倒れていた。

迷彩服を着ていた。自衛隊――だろう。


彼は、胸を押さえ、激しく血を流しながら、僕に向かって口を動かす。


「しょ……少年……ここから先は……気をつけろ……」


僕は駆け寄り、しゃがみ込んだ。


「な、なんですか!? 誰かいるんですか!?」


「ど……同僚の……自衛隊の奴が……精神崩壊して……スナイパーとして……配置されたのに……今じゃ……通る者すべてに……容赦なく……撃ってくる……」


「!!?」


「……そこにある通りだ……あれは……まるで……『だるまさんが転んだ』だ……こっちが止まっていると撃ってこないが……動くと即……狙撃……」


彼の胸に手を当てたとき、すでにその手は冷たくなり始めていた。


「……胸を撃たれて……も、もう……ダメだ……気を……つけて……」


彼はそれ以上、何も言わなかった。



---


(だるまさんが……転んだ……?)


僕は、通りの角まで行き、慎重に様子をうかがった。


そのとき――


「バンッ!!!」


破裂するような乾いた銃声が響き、すぐそばの道路標識に銃弾が当たった。

火花が散り、標識が倒れる。


(本当だ……撃ってきた……!!)


けれど、敵は遠距離から撃ってくる。つまり、一定のパターンがあるはず。


(……撃った直後は隙ができる。なら、その合間に……!!)


僕は地面に身を低くして、膝をつき、瓦礫の影へと身を滑り込ませた。


「……ッ!」


「バン!!」


また撃ってきた。


――でも、当たらない。こちらは見えていない。

間違いなく、敵は“動き”を感知して撃っている。


(まるで本当に『だるまさんが転んだ』……)


僕はそのまま、“ゲーム”のルールに従いながら、慎重に進んだ。


撃たれ――

その直後に次の遮蔽物へと素早く走る。

また撃たれ――

弾が外れたと同時に、地を這うように移動する。


この流れを、何度も、何度も、繰り返した。


一台の車の影から、別の車の裏へ。

潰れた自販機の影から、街路樹の根元へ。

そのたびに、息を殺し、鼓動を静め、タイミングを見計らった。


撃たれる音は全部で――

すでに20回以上。


けれど、僕の身体にはひとつの傷もなかった。



---


(あと少し……あと数メートルで……)


そう思った矢先――


「や、やめろ……やめてくれ……噛むな……ッ!!」


近くから、別の叫び声が聞こえてきた。


僕は慌ててそちらの方に駆け寄る。

そこには、1人の男――おそらく“スナイパー”本人が、地面に倒れ込んでいた。


彼の腕に喰らいついているのは、ゾンビ。


「あああああ!! 離れろぉ!! お前らなんかに負けるかぁああ!!!」


必死に足をばたつかせるが、すでに右肩は大きく裂かれ、血が噴き出していた。

それでも彼は、反射的に引き金を引こうとしていた――

だが、その銃は、もはや弾切れだった。


ゾンビが、彼の胸を喰い破る直前、僕はその場を立ち去った。


(……後ろに気づかなかったんだ……)


敵は、敵を殺す。

それが今の世界だ。


(……誰かを殺すことだけに集中してたら、自分が死ぬんだ。

これが、“狂気”ってやつなんだな……)


僕は足を止めず、ただ黙って前を見て歩き続けた。


そのとき、右手の道端にある、ぼろぼろになった看板が目に入った。


【→ 新城警察署】


(……もしかしたら、まだ中に誰か残ってるかもしれない。

……助けがあるかもしれない)


その小さな希望にすがりながら、僕は静かに道を曲がり、警察署へ向かった。



---


夜が、迫ってきていた。

風の音も、息遣いのように重くなっていく。

建物の隙間に、何かが潜んでいそうな気配。


だけど僕は、止まらない。


――誰かを、助けるために。

――誰かと、再会するために。

――そして、真実を暴くために。


次に待っているのがどんな“狂気”であろうと、もう怖くはなかった。


                    

                            To be continued

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