第71話「悲鳴は助言」
炎が空を焦がしている。
灰が風に舞い、どこまでも広がっていく。
瓦礫の影からは、腐敗した手足がはみ出していて、空気は血と煙と焼けた鉄の匂いで満たされていた。
僕はただ、ひとりで歩き続けていた。
(……ここまで来て、誰一人見つけられないなんて……)
足元を見れば、干からびたゾンビの死体。
壁に赤黒くこびりついた血痕。
そして、その中を、無言で通り過ぎる僕の影。
どれだけ歩いたのか、どれだけ殺したのか、もう数えていない。
外は地獄だ。
ゾンビの数は日に日に増え、さらに悪いことに、あの“開発生物”たち――
「D-41」や「C-97」といった特異な化け物どもが、地中から湧くように現れ始めていた。
――ガルルル……!
低く唸るような声が、背後から聞こえる。
振り返ると、歯をむき出しにして走ってくる「D-41」。
異様に発達した四肢と、鉄をも砕く顎。
「こっち来るな!!」
僕は即座にサバイバルナイフを抜き、正面から突っ込んできた犬型開発生物に対し、タイミングを見計らって側面に回り込んだ。
「はあああぁっ!!」
全力で斬りつけた。
刃は、喉元に深く突き刺さり、血と黒い体液を撒き散らしながらD-41は倒れた。
「……次」
背後からは今度、「C-97」が這い出してきた。
毒液をまき散らしながら、ゴキブリのように音もなく迫ってくる。
呼吸を整え、冷静に――正確に、
サバイバルナイフを投げつける。
「ガアアアァァァ――!!」
頭部に突き刺さり、数秒後、痙攣して動かなくなった。
(……数が多すぎる)
敵がどこまでも現れるこの地獄で、僕は一人、捜索を続けていた。
そのときだった――
「きゃあああああああ!!!!!!!」
――女の子の叫び声。
一瞬で全身の神経が研ぎ澄まされる。
僕は即座に声のした方角へ走り出した。
建物の合間を縫うように走り、煙の合間をかき分ける。
心臓が高鳴り、汗が背中を伝う。
(まだ誰かが……生きてる!?)
前方に見えたのは、ほとんど無傷で建っている建物――「松本レストラン」だった。
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扉を押し開け、中に駆け込む。
建物の中は意外にも静かで、焦げ臭さもなかった。
家具は倒れていたが、燃えた形跡はない。
つまり、まだ“使える”場所だ。
「――っ!」
奥から、微かな銃声と、誰かの悲鳴が聞こえた。
僕は足音を殺しながらも、全速力で駆け抜けた。
――そこにいたのは、
「やめて!!来ないで!!!」
ゾンビに追い詰められた、小野さんだった。
彼女は後ずさりしながら、手にしたハンドガンで応戦していたが、弾は壁や床をかすめているだけで、全く当たっていなかった。
(まずい!!)
僕は迷わず、構えた。
目標を狙い定め、引き金を引く。
――パンッ!!
銃声が室内に響き渡った。
ゾンビの額に正確に弾丸が貫通し、地面に倒れ伏す。
「た……太一さん!? な、なんでここに……?」
小野さんが、目を見開いて驚いていた。
「みんなを探してたんです」
僕は息を整えながら答えた。
彼女の顔が、ふと赤くなる。
「そ、そうなんですね……太一さん……助けてくれて……あ、ありがとう……」
言葉の最後はかすれていて、どこか恥ずかしそうだった。
「大丈夫ですよ。もし、小野さんの“助言”がなければ、気づけなかった」
「助言……?」
彼女は小首を傾げる。
「……なんでもないです」
僕は笑って、話を切り替えた。
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「小野さん。本題なんですが、他の三人――五条さん、佐藤さん、勇気は、どこに行ったか知ってますか?」
「ううん……見てない。最後に見たのは、はぐれる前だから……」
「そうですか。……じゃあ、一緒に行動しませんか? 他の三人を見つけたいんです」
そう言った僕の誘いに対し、小野さんは急に視線を外し、床を見つめながら小さな声で言った。
「……ごめんなさい。まだここにいてもいいですか?」
「えっ? なぜですか?」
「少しだけ……休みたいの。太一さん……お願い……」
僕はその言葉に少し戸惑いながらも、静かにうなずいた。
「……わかりました。僕は先に行きますね。
ここは比較的安全ですから、無理はしないでください」
「……ありがとう」
彼女のかすかな声が背中から届いた。
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外に出ると、風が少しだけ涼しくなっていた。
太陽は傾き、空には茜色がにじみ始めている。
でも、地面には死体が転がり、遠くからはうなり声が響いていた。
どこまでも、終わらない地獄。
だけど、僕は歩く。
(絶対に見つけて、ここから脱出してやる!!)
そう心の中で、強く誓った。
それは“希望”というよりも、“信念”だった。
もう一度、仲間たちに会うために。
そして――
この世界の真実にたどり着くために。
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To be continued




