第7話「謎」
視点は田中勇気へと切り替わる。
廊下を駆けながら、田中は通信機を手に取り、仲間たちへ連絡を取り始めた。まず最初に電話を掛けたのは井上翔だった。
数回の呼び出し音のあと、すぐに井上の声が返ってくる。
「もしもし、勇気? どうした?」
「特別室の奥に地下への道を見つけた! すぐに一階の特別室入口に集合してくれ!」
「わかった。ところで、太一や太郎、それに小野さんの居場所は分かるか?」
「太一と太郎は音楽室にいる。あとで合流するってさ。小野さんは……多分、安全な場所に避難してるんじゃないかと思う。」
「小野さんの姿は見てないんだな……了解。こっちで探してみるよ。それと、一つ伝えておきたいことがある。」
「一つだけ? 今は時間がない。手短に頼む。」
「玲奈のことなんだけど……あいつのエイム、尋常じゃないんだ。まるで自衛隊並みの正確さだぞ。」
「……は? どういう意味だ、それ。」
「そのままだよ。ゾンビの頭を一発も外さず、次々に撃ち抜いてたんだ。信じられないだろ?」
「……言われてみれば、確かにおかしい。冷静すぎるし、あんな正確な射撃……。」
そのとき、通信機の向こうから女の声が聞こえてきた。
「翔ちゃん? 誰と話してるの?」
「うわっ! 玲奈!? 驚いた……。」
「ごめんごめん。驚かせるつもりはなかったんだけど。それで、誰と話してたの?」
「勇気さ。1階の特別室の奥に、地下への道を見つけたらしい。」
「そうなんだ! 楽しみね。じゃあ、そこに行けばいいの?」
「そのつもり。でも行く前に、小野さんを探すのを手伝ってほしいんだ。」
「小野さん? 見てないけど……いいよ、手伝ってあげる。」
「ありがとう、玲奈……。勇気、こっちは任せて。じゃあ、切るね。」
通話が切れたあと、田中は少しの間、黙って歩き続けた。だが、次第に胸の中に違和感が湧き上がってくる。
(……どういうことだ?)
彼は考える。あの玲奈が、あそこまで正確な射撃をするなんて。まるで性格が変わったかのような落ち着き。そして今の、どこか無機質な口調……。
(……いや、駄目だ。疑っては……)
頭を振る。仲間を疑ってはいけない、こんな状況でこそ、信頼が必要なのだ。
(それでも……やっぱり、いつもの玲奈と、何かが違う……)
葛藤を振り切るように、田中は通信機をポケットへとしまった。そして一階の特別室の入口へ向かうため、思い切り走り出す。
その背には、まだ晴れないわずかな「疑念」が、静かに残っていた。
To be continued