第69話「悪夢再び」
――3-1章:簡易回想
僕たちはあのとき、ようやくの思いで現代に戻った。
「ブルー・S・キャロット」を倒し、過去の世界から脱出し、タイムマシンで2005年の日本へ。
ようやく「惨劇」は終わる――そう、誰もが思っていた。
だが、“それ”は終わってなどいなかった。
2005年7月20日。
再び、“あの日”と同じ風景が目の前に現れた。
ママが、ゾンビになっていた。
あのときと全く同じ姿で、僕を振り返ったのだ。
僕は博士と共に、血の匂いが充満した台所から逃げ出した。
玄関の扉を蹴破り、飛び出した外の世界は――地獄だった。
崩れたアパート。泣き叫ぶ人。燃え上がる商店街。
無数の死体。焼け焦げた道路。血まみれの車。
そして何より、群がるゾンビたちの姿が、地獄絵図の中心だった。
僕と博士は、どうにかして小学校までたどり着いた。
保健室。そこには、あの“仲間たち”がいた。
そして、初めて見る5人の高校生も。
その中に、一際異彩を放つ人物――森下亮がいた。
彼の行動は常に予想を超えていた。
刀を手にし、冷静に戦況を見極め、仲間を導く言葉を口にする。
“ただの高校生”とは到底思えない。
だが、そのすべてが“前振り”だった。
最後の最後に彼は、“囮”になる道を選び、僕たちを守って地下に残った。
そして――練馬区全域の大爆発。
森下さんは、あの業火の中に消えた。生死は不明。
僕たちは緊急列車で移動し、次なる避難地へと向かった。
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――現在:2005年8月10日 愛知県新城市
僕は今、新城市の焼け焦げた商店街の裏通りを歩いている。
全身汗だくで、シャツの袖も裂け、ブーツの底には乾いた血がこびりついていた。
右手には森下さんからもらったハンドガン。
左腰には、偶然拾ったサバイバルナイフが差し込まれている。
この2つの武器がなければ、とうの昔に死んでいただろう。
(ここも……結局、同じか)
この田舎の街にも、容赦なく“奴ら”は襲来した。
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【2005年8月8日】――地獄の幕開け。
「ぎゃあああああああああ!! 助けて!!」
「ママああああ!! やめてえええ!!」
「ゾンビだ!!ゾンビが町を崩壊させてるぞ!!!」
「くっ、誰か……助けて……誰かあああああ!!!」
「町が……故郷が、焼け落ちていく……!」
警察無線からは、絶叫と銃声が混じった怒号が鳴り響く。
「子供と女性を優先的に避難させろ!!
男たちは武器を取って戦え!!」
「バン!! バン!! バンバンバン!!!」
「後ろからも来てる!!挟まれた!!逃げろおおお!!」
「もうダメだああああああ!!!」
――まるで映画だ。でも、これが現実だった。
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あれから2日。
僕はみんなとはぐれてしまった。
避難所を出た後、ゾンビの群れに囲まれ、気づいたら一人だった。
だけど、心は不思議と折れていない。
(……みんなも、僕と同じだ。きっと無事に逃げている)
そう信じて、僕は町の中心部を抜け、再び避難場所に向かっていた。
足元にはゾンビの死体がいくつも転がっている。
顔が焼けただれたもの、上半身が潰れているもの、そして……まだ呻いているものも。
僕はそいつの頭に、静かにナイフを突き立てた。
グシャ……
「……ごめん。でも、お前はもう“人間”じゃないんだ」
この言葉、何回目だろう。
――たぶん、もう数え切れないくらい殺してる。
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遠くで火災警報機が鳴っていた。
黒煙が空へと立ち上り、空は曇り、遠くの山が霞んでいた。
すでに新城市は、“終わっている”。
でも、それでも僕は――生き延びることを選んだ。
避難場所まで、あと少し。
その瞬間だった。
背後から、「足音」と「呻き声」が同時に聞こえた。
「う゛……う゛ああああ……!」
「ギシャアアアア……!!」
「ケ……ケロロロ……!!」
振り返った瞬間、20体以上のゾンビの群れが、路地裏から迫ってきていた。
「やばっ……!」
右手の銃を構えた。が、引き金は引かなかった。
弾はもう――残り3発。
「ここで使うわけには……いかない」
僕はナイフを握り直し、ダッシュで避難所の扉へと駆け込んだ。
「っくそ……早く、開け……!!」
鉄製の扉に体をぶつけ、取っ手を回す。
ガチャ――!!
ギイイイィ……
開いた!!
すぐさま中に飛び込み、全力で扉を閉めた。
「バン!!バンバンバン!!」
すぐさま、扉の外からはゾンビたちが叩きつける音が響く。
だが、扉は頑丈だった。簡単には破れそうにない。
僕はその場にへたり込み、深く息を吐いた。
「……間に合った」
心臓がまだバクバク鳴っている。
けれど、この避難所の中には、仲間がいる。
田中、小野さん、五条さん、佐藤さん――
(……戻ってこれた。絶対、また一緒に戦える)
僕はナイフを握りしめながら、奥の部屋へと足を進めた。
この地獄の中でも、生きる意味を忘れないために。
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To be continued




