第68話「再出発」
爆発まで、残り2分40秒。
地下2階、緊急列車の乗車口の前に立つ僕と森下さん。
その瞬間――
天井が破壊され、コンクリートの破片が地面に降り注いだ。
ドオオオォォンッッ!!!
ものすごい音と共に、天井に大穴が空き、何か巨大な存在が地面に叩きつけられるように降ってきた。
土煙が舞い、視界が一気に曇る。
細かい破片が顔をかすめ、僕は腕で目を覆いながら一歩下がった。
「な、なんだ……!? また爆弾でも落ちたのか……!?」
だが、その“気配”は違った。
空気が重たい。
肺の奥にまで鉛のような圧迫がのしかかる。
鼓動が速くなる。手が震える。汗が冷たく背中を伝う。
――そこにいるのは、“ただの敵”じゃない。
(まさか……!)
粉塵の向こうから、ゆっくりと姿を現すシルエット――
黒い筋肉に覆われた巨大な人型生物。
両腕には重厚な“金属の拘束具”が巻き付けられ、血管のような管が皮膚の下を浮き上がっている。
その眼光は、まるで地獄の底から這い出てきたような冷たい殺意。
――G-315。
「う……うそだろ……」
僕は思わず声に出していた。
「なんで……なんでお前がここに……姿なんて、一度も見せなかったじゃないか……!」
けれど、確信してしまう。
間違いない――これは、“あの時”のG-315より遥かに強くなっている。
筋肉の密度、皮膚の硬質化、あの恐怖の咆哮。
それに何より、両腕に巻かれた「金属の拘束具」――
つまり、これが“本来の状態”ではなく、まだ封印されている状態だということを示している。
「……くそ……」
恐怖で動けない。
でも、逃げなきゃ――
そう思った時だった。
「太一」
隣で、森下さんが一歩、前に出た。
その姿は、あまりにも冷静で、そして――覚悟を決めた者の背中だった。
「……これは“Xランク”か。納得だな」
「……え?」
僕は耳を疑った。
「D-41、C-97、C-257……あれらは“Sランク”。
でも、こいつ――G-315は“Xランク”だ。
そりゃ、空気も違うわけだ」
「……な、なんでそんなことを……知ってるんですか……?」
森下さんは答えない。ただ、刀の鞘に手を添えた。
僕は叫んだ。
「森下さん、ここは僕も一緒に戦います!!
さっきの廊下の死体、あれ、あなたがやったんですよね!?
なら、僕だって少しくらい、あなたの力になれます!!」
だが――
森下さんは静かに首を振った。
「太一、お前は……乗れ」
「えっ?」
「今すぐ、この緊急列車に乗るんだ。
お前が生きて、前に進め。
それが……俺の選んだ道だ」
「そんな!! それって――犠牲になるってことですか!?」
「そうだ。犠牲になる」
あまりにも、あっさりと。
「……なんでですか!? あなたは……あなたは、死ななくていい人なんですよ!!」
叫んでも、叫んでも、森下さんの目は揺らがない。
それどころか、冷たく、鋭く僕を見下ろしていた。
「……だったら、聞け。俺がここに来た“理由”を。
太一、お前に一つだけ――任務をやる」
「……任務?」
「この世界に、“俺のすべてを知っているクソジジィ”がいる。
そいつを見つけろ。そいつを……必ずな」
「な、なんですかそれ……!! そんな……無責任すぎますよ!!!」
僕がそう叫んだ、まさにその瞬間――
「シュッ!!」
一閃――
頬に痛みが走る。
反射的に手を当てると、血がにじんでいた。
「……え?」
僕は理解できなかった。
なぜ、森下さんが僕を――?
彼の目は、まるで“処分すべき失敗作”でも見るような冷たい目だった。
「さっさと行け、“ゴミ一”が」
……言葉を失った。
僕は震える足で、列車に乗り込んだ。
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「太ちゃん!! 森下さんは!? どうしたの!?」
井上の声が聞こえた。
僕は俯いたまま、声を振り絞った。
「……翔ちゃん。発車して」
「でも、森下さんが……!」
「早く!!!!
森下さんは……もう、戻ってこない……!!」
井上は沈黙し、ゆっくりと頷いた。
「……強制発車、開始するね」
ポン。
「ピシューーーッ!!」
緊急列車の扉が閉まり、発進音が響く。
ガタン――ゴトン――ゴトン……
車輪がレールの上を走り出す。
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約2分後。
「ドオオオオオオオオオオンン!!!!!!」
轟音。
爆風。
地面が割れ、火柱が空へと昇る。
列車の窓から見た“あの世界”が、一瞬で崩壊していく。
その中に、森下さんも――G-315も――
すべてが、燃えて消えていった。
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「……う、うわあああああん!!!」
僕は堪えきれなかった。
叫ぶように、泣いた。
自分の無力さが悔しくて、情けなくて――
その声に、田中が怒鳴った。
「何泣いてるんだよ!!! 太一!!!」
「え……?」
井上も言葉を荒げる。
「そうだよ太ちゃん!! いくらなんでも泣きすぎだよ!!」
髙橋も静かに、しかし確かな口調で言った。
「太一君。こんな状況で泣いていたら……生き残れなくなるわよ」
羽田も続く。
「“脳筋”が泣くなよ!! お前は、バカでも前に進むのが取り柄だろ!!?」
でも――
他の仲間たちが、僕の心を支えてくれた。
「山田君。君は悪くない。……森下さんが選んだんだよ」
「そうじゃ。太一、お前は悪くない。あやつの“覚悟”じゃ」
「……太一さん。あなたは、ちゃんと戦ってた」
「そうですよ。僕たちはまだ生きてるんです。……死んでない!!」
「だったら、仇を取るしかないじゃん!! “あの組織”に!!」
「そうよ、太一!! ここで終わっちゃ、だめ!!」
「わ、私たちだって……怖いし、不安だけど……でも……!!」
みんなの声が、僕を包んでくれた。
そして、涙の中で僕は叫んだ。
「……ごめん、みんな……!
泣いても、何も変わらない!! そうだよ、“これが人生”なんだ……!!
これからは……悩みも、トラウマも……絶対に一人で抱えない!!
必ず、誰かに言う!! それが、俺の“再出発”だ!!」
田中が笑う。
「それでこそ、“太一”だ!!」
羽田が吠える。
「“脳筋”再起動って感じだな!!」
普子が微笑む。
「すぐ立ち直るの、ほんとすごいわ……」
そして僕は、みんなの前で、もう一度強く、はっきりと誓った。
「――決めたんだ」
全員が、静かに耳を傾ける。
「ぶっ倒すんだよ……!!
インフィニティ過激派組織をな!!!!!!」
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列車は闇を切り裂きながら進む。
その先にあるのは、さらなる絶望か、それとも希望か。
だが、僕たちは進む。
絶対に、立ち止まらない。
これが、僕たちの――
再出発だ。
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To be continued




