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IN:銀河より遠い∞世界  作者: 普通の人/3時のおやつ
第3-1章「交錯する運命・序章」

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第67話「脱出命令」

僕は扉を勢いよく開けて廊下に飛び出した。

だが、次の瞬間――足が止まった。


「……な……なんだ、これ……?」


廊下一面が、血と肉片で覆い尽くされていた。


壁に飛び散った赤黒い飛沫。

床を染める重たい粘液。

腐敗と鉄錆が混ざった臭いが鼻を突く。


しかも、そこに転がるのはただのゾンビだけじゃなかった。

異形の開発生物たち――D-41、C-97、C-257――

それらがまるで“見えない刃”で両断されたように、首や胴体を切断されていた。


その切断面は、あまりにも鋭く、綺麗すぎた。


「……これ、斬った跡だ……」


斬撃――しかも一撃必殺の、精密すぎる殺意。

人間技じゃない。


(まさか、これを――森下さんが……?)


その瞬間、僕の脳裏をいくつもの「過去の場面」が駆け巡った。



---


保健室でのこと――

田中と佐藤さんが激しく口論したとき、森下さんは迷いもなく刀を二人の間に投げた。

もし距離感が一寸でも違っていたら、どちらかが斬れていた。



---


そして、旧体育館を出ようとしたとき、

出現した化け物「C-257」をたった一振りで真っ二つにしてみせた。



---


「ありえない……」

「普通の人間じゃ、ありえない……」


僕は息を呑んだ。


これは――もしかすると、「転生者」か「異世界から来た存在」じゃないか?

そんな考えが頭に浮かび、そして、否定できなかった。


そのときだった。


ザッ……ザッ……ザッ……


左側の通路から、足音が近づいてくる。


静かで規則正しい足音。

軽やかで、揺るぎないリズム。


僕は反射的に左を向いた。


そこにいたのは――


「……森下……さん……」


彼だった。


血の飛沫を浴びながらも、服はほとんど傷ついていない。

手には、鞘に納められた一本の長い刀。


彼は僕の姿に気づき、右手を小さく上げて笑った。


「太一、ここにいたのか。手がかりは見つかったか?」


――この人、笑ってる……こんな惨状の中で、何事もなかったように。


僕は声を震わせながら、問いかけた。


「森下さん……聞きたいことがあります。」


彼は少し首を傾げる。


「ん? なんだ?」


「……この廊下で……大量のゾンビと、開発生物を斬り殺したのは……あなた、ですか?」


その瞬間、森下さんの顔から笑みが消えた。

ほんの一瞬の沈黙――だがそれが、全てを物語っていた。


「……そうだ。俺がやった」


「やっぱり……そう、なんですね」


僕の声が震える。


「でも、でもそれは――おかしい!!

あれだけの数、あれだけの強さの敵を、一人でなんて……そんなの、常識で考えたら無理です!!」


「……そうか?」


彼は静かに言う。

まるで、自分の力の“異常さ”に気付いていないかのように。


僕は一歩、彼に詰め寄った。


「森下さん、お願いです! 教えてください!!

あなたは――転生者ですか?

それとも……別の世界から来た“何者か”なんですか!?」


「もし、変なことを言っても……僕、信じます!!」


僕の声が廊下に響いた。


森下さんは目を伏せ、少し口を開いた。


「……それは……」


そのときだった。


――ジジジ……ジジジ……。


天井に設置されたスピーカーから、電子音が鳴り響いた。


その直後、女性の機械的な声が建物全体に流れ出す。


「あと5分で、地下研究所を含む練馬区全域は、証拠消滅のため爆発させていただきます。

助かりたい場合は、地下への階段を使用し、地下2階までお越しください。

そこには緊急列車がございます。それにご乗車ください。

……繰り返します――」




「……!!」


僕は全身が一瞬で冷え切った。


(まただ――!!)

(あの時と同じ放送が、流れた――!!)


だが今回は違う。

仲間たちが全員揃っている。

僕は、もう一度誰も失いたくない。


森下さんは咳払いをして、話題を切った。


「太一、行くぞ。ここが1階だから、入口近くの階段から地下2階へ降りるんだ」


「はい!!」



---


残り4分30秒。


僕と森下さんは全力で駆け出した。

自分の心臓の鼓動がうるさいほど響く。


階段を降りる一歩一歩が、爆発のタイムリミットと競争しているようだった。



---


残り3分56秒。


地下2階の広間に到達した瞬間、緊急列車が視界に飛び込んできた。


その前には、仲間たち全員の姿があった。


博士が手を振って叫ぶ。


「太一!! こっちじゃ!!」


天野君が続く。


「早く!! 早く来て!! 山田君!!」


小野さんも両手を広げて叫ぶ。


「太一さん、急いでください!!」


僕は駆け寄りながら、安心と希望で胸がいっぱいになった。


全員が順に、緊急列車に乗り込んでいく。

やがて、残ったのは僕と森下さん、ふたりだけ。


「さぁ、行きましょう!」


「……ああ」


僕たちが、最後の一歩を踏み出そうとしたその瞬間――


――ズズズズンッッッ!!!!!!!


爆音と共に、天井が崩壊した。


粉塵が舞い、視界が白く曇る。

空気が振動し、コンクリートの破片が雨のように降ってくる。


「うわあああああ!!」


僕は腕で顔を庇いながら、咄嗟に後ずさった。


地響きが止まり、ようやく粉塵の中に、何かの影が浮かび上がる。


全身を締め付けるような重圧。

背筋を凍らせるほどの殺気。


「……まさか……」


僕はその輪郭を見た瞬間に理解してしまった。


どれだけ否定しても、何度見ても、脳が認識してしまう“異質”。


巨大な人型。

膨れ上がった筋肉。

全身に浮き出る黒い血管。

左右非対称に肥大化した腕と、獣のような唸り声。


そして――眼光。

獣とも、人ともつかぬ、純粋な破壊の意志。


「G-315……!!」


僕は思わず、声に出してしまった。


「なぜ……なぜお前がここに……一度も姿を見せなかったじゃないか……!」


答えはなかった。


返ってきたのは――


グオオオオオオオオオオオオアアアアアアアッッ!!!!!!


それは叫びというにはあまりに荒々しく、

咆哮というにはあまりに“悲しみに満ちていた”。


この怪物がどこから来て、なぜ姿を見せなかったのか。

なぜ、今このタイミングで現れたのか。


その理由は、まだ誰にもわからない。


だが、ただ一つ――


この存在が、「逃げられない絶望」だということだけは確かだった。


                   

                           To be continued

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