第66話「触れてはいけない大量のビデオテープ」
僕は部屋の奥の鉄製の扉を開け、そっと中に入った。
今まで見てきた研究室や実験部屋と比べても、明らかに“異質”だった。
床も壁も比較的綺麗に整っていて、ホコリも薄い。
それはまるで、最近まで誰かが“出入り”していた証のようだった。
しかし何より異様だったのは、その中央に整然と積まれた大量のビデオテープだった。
棚には年代も書かれておらず、ただ無造作にテープだけが並べられている。
黒く、重たく、そして何かを“閉じ込めている”ように、どのテープも沈黙していた。
「……何だ、これ」
僕は一つのビデオテープを手に取り、部屋の奥にあった旧型のモニター付きカセットデッキに差し込んだ。
「……再生」
小さな「カチッ」という音の後、砂嵐が走り、画面が暗転した。
そして……映像が、始まった。
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暗い実験室のような空間。
そこには1人の女性エルフと、その子供と思しき小さな女の子“エル”が映っていた。
女性エルフは腕を縛られ、涙を流しながら必死に訴えている。
「やめて……やめてください。エルだけは……子供には手を出さないでください……ネドベド様……」
そのとき、画面の奥から甲高い怒声が飛んだ。
「……あ? 今、なんて言った?」
ズカズカと足音を響かせながら現れたのは、ネドウェドと名乗る男だった。
白衣に血の染み。肩には「IN-日本部隊」のワッペン。
目は細く吊り上がり、狂気に染まっていた。
「私はネドベドじゃねぇ!!」
「私の名はネドウェドだ!!! 間違えんなァァアアア!!」
彼は壁を殴り、棚を蹴り飛ばし、叫びながら壊して回った。
「この私を侮辱するな!! 私は“世界一の研究者”だぞ!!!」
女性エルフは床にひざまずき、泣きながら何度も謝る。
「申し訳ありません!! 申し訳ありません!! どうか……」
だがネドウェドは一切聞く耳を持たなかった。
次の瞬間、彼は幼い“エル”の髪をつかんで引き寄せた。
「う、うわああああああああんっっ!!」
「やめて!!! お願い!!」
バチンッ!
乾いた音。エルの頬に赤い痕が残る。
「このガキが!! 誰が泣いていいって言った!!?」
彼の目には“種族”への嫌悪しか映っていなかった。
「おい、誰か来い!! エルフの解剖を始めるぞ!!」
背後から現れたのは、インフィニティの研究員たち。
全員が白衣を着て、笑いながら集まってくる。
「ヒヒヒ……エルフってさ、内臓どうなってんのか興味あったんだよなぁ」
「今回のサンプル、子供付きですよ。レアですねぇぇ」
「ギャハハハハ!! 次はゴブリンかドワーフにしようぜ!!」
不気味な笑い声が、カメラ越しにまで響いてくる。
女性エルフはその声に打ちのめされ、口元を押さえて嘔吐する。
「ヴ……うっ……おぇぇ……っ」
そして――場面が切り替わる。
鉄製のフックから、解剖された種族たちの**“遺体”**が吊るされていた。
目を見開いたままのゴブリンの死体。
腹を裂かれ、腸が垂れ落ちたドワーフの少女。
体中が溶けたように変形した妖精の男の子。
そして、人間の死体もあった。
年齢、性別問わず、すべての種族が**“無慈悲に”、“整然と”**処理されていた。
「どうだ!! これが私の“技術”だ!!!」
叫びとともに、各種族の断末魔の声が、映像の最後30秒間に重なっていく――
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ゴブリンの断末魔:「ギギ……ィィッッ!!! あ゛が゛が゛が゛あ゛あ゛あ゛ぁぁっっ!!」
ドワーフの少女:「ママァァア!! 痛いよおおおお!!! やめてええええええ!!!」
妖精の少年:「羽が……羽がああぁぁっっ!! いやぁぁあああ!!」
人間の少年:「見ないで……僕の体……もう、やめて……」
エルフの子エル:「ママぁ……ママぁ……ママァァァァ!!!」
女性エルフ:「エル!! エルううううううううっっ!!! 私が代わりに――ああああああ!!!」
そして――インフィニティの研究者たちの笑い声が、重低音のように画面に響き渡った。
「ギャハハハハハ!!!」
「最高のショーだろ!?」
「解剖こそ芸術!!」
「次は“混血種”のサンプルが欲しいなぁ」
「記録は?ちゃんと残してる?――未来の“神話”になるんだからよォ!!」
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僕は――椅子から転げ落ちそうになりながら、再生を止めた。
部屋の中が急に無音になった。
だがその沈黙が、映像の凄惨さを何倍にもしていた。
歯をくいしばる。唇が切れ、血がにじむ。
握り拳に力がこもる。
震えが止まらない。
「……ふざけんな……」
ビデオデッキに一歩近づき、僕は叫んだ。
「エルフだろうがドワーフだろうが、妖精だろうがゴブリンだろうが……!!」
「人だろうが異種族だろうが――命は命だろうが!!!!」
そのとき、映像の中のネドウェドの言葉が頭をよぎる。
「私は“インフィニティ・日本部隊”の最高幹部だ!!」
(キャロットと……同じ“最高幹部”……)
(ならば――知ってるはずだ。すべてを)
握りしめた拳を震わせながら、僕は誓った。
「もし……もし、どこかでアイツと再会するなら……」
「絶対に……絶対に“この手”でぶっ潰す!!」
怒りが燃え上がる。
あの時と違って、今の僕は――もう逃げない。
絶対に、“止めてみせる”。
そう誓った僕は、ビデオテープを抜き取り、部屋を飛び出して廊下に出た。
心の中にはただ一つの思いがあった。
(もう、誰にも……こんなことはさせない)
To be continued




