第6話「泣」
銃声が音楽室に響き渡る。
太一は迫り来る生物たちに向かって、ハンドガンを乱射していた。撃っては下がり、撃っては逃げる。必死に距離を保ちながら、何発も何発もトリガーを引く。
「よし……まずは一体!」
弾丸を受けた一体の生物が床に倒れた。だが次の瞬間、太一の目の前でそいつは立ち上がった。
「はあぁ!?なんで……倒したはずだろ!?」
よく見ると、奴の体からは傷一つ見当たらない。まるで何事もなかったかのように、再び牙を剥いてくる。
太一は何度も撃った。倒しても倒しても、傷は消え、再生し、襲いかかってくる。
「くそっ、キリがねぇ……!」
そして、ついにその時が来た。
――カチッ。
乾いた音が、絶望を告げた。ハンドガンの弾が切れたのだ。
「嘘だろ……こんな時に……!」
恐怖に包まれたその瞬間、音楽室の扉が勢いよく開いた。
「太一じゃねーか!!そこから離れろ!!」
入ってきたのは田中だった。太一はすぐに彼のもとへ走る。しかし、生物たちはその2人に向かって突進してきた。
田中は背中から巨大な武器を引き抜く。
「喰らえ!!ロケットランチャー!!」
轟音が音楽室を揺らす。
「ドカアアアアアアアアアン!!!!」
爆発音とともに視界が白煙に包まれる。やがて煙が晴れると、そこに生物たちの姿はなかった。だが同時に、音楽室の壁には大きな穴が空いていた。
「……ありがとう、勇気……でも、健二さんは……」
太一が言葉を探していると、不意に背後から声がした。
「ここにいるよ!!!たいちにいちゃん!!」
「えええっ!? なんで僕の背後にいるんだよ!? 確か一緒にピアノの裏に隠れてたはずだろ!?」
背後にいたのは太郎だった。無傷の姿に、太一は驚きと安堵の混じった声をあげる。
太郎は鼻をすすりながら言う。
「たいちにいちゃんに、しんぱいかけられたくなくて……ろうかに出たんだ。
そのあいだに、なかまをよんできたんだよ!」
その言葉に、太一は真剣な顔で一言だけ口にした。
「行動力……!!」
すると田中が、やや気まずそうに口を開いた。
「話の途中で悪いが……重要なことを言い忘れてた。
さっき、地下への道を見つけたんだ。」
「地下……?」
「1階の階段の横にある“特別室”だ。扉を開けたら、奥に地下へ続く階段があった。」
「地下への道か……このまま地上にいたら、いずれ餓死する……」
太一はうなずいた。
「よし、決まりだな。俺は通信機でみんなに連絡してくる。特別室の入口に集合するようにな。太一と太郎は、先に向かっててくれ。」
「わかった。……行くよ、太郎。」
その時、太郎がぽつりとつぶやいた。
「けんじにいちゃんは……どこ……?」
太一は一瞬、言葉を失った。
「……それは……」
太郎は涙を浮かべ、太一の背中を叩きながら叫ぶ。
「けんじにいちゃんはどこなの!? ちょっとこわいけど、やさしかったんだよ!?
どこにいったの!? しってるでしょ、たいちにいちゃん!!」
太一はぐっと唇を噛み、静かに答えた。
「……言えない。太郎に言ったら……きっと失望させてしまう。だから……お願いだ。」
太郎は涙をこぼしながらも、頷いた。
「……わかったよ。でも……けんじにいちゃんには、また会えるよね……?」
「会えるさ。いつか……きっと。」
「……うん! わかったよ、たいちにいちゃん!」
2人は音楽室を後にし、特別室の入口へと向かって歩き出した。
その途中、太一は心の中でつぶやく。
(……ごめん、健二さん……また、救えなかった。あなたも……仲間たちも……)
To be continued.