第57話「作戦実行」
森下亮という男――。
刀を構えたまま自己紹介を終えた彼に対し、最初に噛みついたのは、やはり佐藤花だった。
「その前に森下!!あんた、なんで私と“家畜”の間に刀を向けたの!?意味わかんないんだけど!!」
「おい!!!その呼び方やめろ!!」
田中が叫ぶ。
さっきの一件で、顔は赤くなっていたが、怒りの炎もまだくすぶっていた。
だが、森下はまるで空気のように冷静だった。
「えっ?…だって、喧嘩してたから。」
「はぁ!!?あんた“サイコパス”なの!?人間じゃないでしょ!?冷静通り越して怖いんだけど!!」
「人間だ。」
森下はあっさりと肯定した。
まるで、自分が何か別の存在であるかのように言われることに、何の感情も動かさない。
だがその直後、彼が口にした“ある疑問”が場を凍らせる。
「というか、今思ったんだが……『高校生』ってなんだ?」
「…………えっ?」
その場にいた全員が固まった。
「はぁ…?」
誰が呟いたかもわからないほどの静寂が走った。
「この建物に来る前に聞いたんだ……“高校生”って。」
井上が目を丸くする。
「嫌嫌嫌!!!冗談ですよね!!?」
五条さんも混乱していた。
「そうですよ。森下さんは、16歳ですよね?だから…高校1年生ですよね?」
天野君も訝しげに問う。
「ていうか…『小学生』とか『中学生』って言葉の意味はわかるんですか?」
森下は、しばし沈黙した後、はっきりと答えた。
「………わからない。」
どよめきが起こった。
僕たちはみんな、信じられなかった。
“学校”という概念を知らない?
“学生”という区分さえも?
それが本当なら――彼は、この国の人間ですらないかもしれない。
だがその混乱を、彼自身があっさり切り捨てた。
「そんなことはどうでもいいとして、ここを脱出する作戦を話し合った方がいい。」
――彼はただ冷静に、状況を整理していた。
こうして、僕たち13人のメンバーは、保健室の中央に円陣を組み、脱出のための作戦会議を始めた。
森下が手元の地図を見ながら言う。
「この学校――そして周辺地域は、すでにゾンビと感染者によって占拠されている。
我々がここから出るには、6つある通信拠点のどれかを経由して、脱出ルートを確保する必要がある。
だから、2〜3人ずつの6組に分かれて行動する。」
彼の指示は明確で、どこか軍のオペレーションのようだった。
森下は続ける。
「女子の安全も考慮し、男女混成でできるだけ組む。無理があれば、構成は自由にしてもいい。」
僕たちは、それぞれ希望や状況を考慮しながら、慎重にペアやチームを組んだ。
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【グループ決定】
1. 田中・佐藤 花
「なんでお前となんだよ……」
「嫌だ?……まぁ……仕方ないか。」
お互い不満たっぷりだったが、それ以上に言い合いそうなので、むしろ最適かもしれない。
2. 井上・髙橋
「頑張ろうね…玲奈。」
「そ、そうだね。」
二人の間には、ほんのりと優しい空気が流れていた。
3. 羽田・小野さん・五条さん
「よろしくね、お姉さん。」
「は…はい。」
「お姉さん…?」
五条さんが微妙に食いついているのが面白かった。
4. 天野君・長谷川 普子
「よろしくお願いします。普子さん。」
「わ、私は高校生だからね!! こんなに低身長でも(。>﹏<。)…だから…。」
見た目と年齢のギャップに、どことなくぎこちなさが漂っていた。
5. 博士・長谷川 時子
「よろしくじゃ。」
「え……あの“世界一の天才”の人が…私の隣に……(゜o゜;)」
完全に緊張している様子だったが、逆に博士はまったく気にしていなかった。
6. 太一(僕)・森下亮
「よ…よろしくお願いします、森下さん。」
「ああ…よろしくな。」
僕は彼と行動を共にすることになった。
むしろ、彼の近くにいた方が、何かが分かる気がした。
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グループが決まると、森下が黒いケースを開けた。
「この街から脱出するため、各グループに通信機を1つずつ配布する。
見た目は少し古いが、使い方は簡単だ。」
通信機は確かに少し古びたデザインだったが、どれもとんがったアンテナが目立つ。
だから彼はさっき「とんがった物」と表現していたのか――。
言葉の感覚が、やはり普通ではなかった。
各グループは1つずつ通信機を手に取った。
「これを使って連絡を取り合いながら、脱出路や安全なルートを調査する。
接触感染と空気感染、両方が確認されているため、マスクと消毒液は忘れるな。」
そして最後に。
「――生き延びろ。誰も死ぬな。全員、帰ってこい。」
その言葉に、僕たちは一斉に拳を突き上げた。
「お、おーーーーー!!!!!」
それが、**「13人のサバイバル」**の始まりだった。
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僕は森下さんと共に、学校の裏門から回るようにして、隣接する旧体育館へと向かっていた。
途中、彼は自らのホルスターに手をやり、僕に声をかけてくる。
「このホルスターにある2つの拳銃…使ってもいいぞ。」
「えっ…ホントに?」
彼は無言でうなずき、僕に2丁のハンドガンを渡した。
重みと冷たさが、僕の手にずっしりと伝わる。
「弾は8発ずつ。無駄撃ちはするな。」
僕は「うん」と小さく頷いた。
武器の重さが怖い。
でも、それ以上に、「守らなきゃ」という覚悟の方が重かった。
森下さんは、迷いなく歩いていく。
僕は、その背中を見ながら思っていた。
――この人、いったい何者なんだろう。
「高校生」が何かもわからない。
「通信機」のことを「とんがった物」と呼ぶ。
それはただの変わり者じゃない。
世界そのものが違っているかのような感覚。
でも――今はその謎を解いている場合じゃない。
僕たちの命がかかってる。
この街から脱出するために。
戦いが、また始まった。
To be continued




