第55話「終わらない惨劇」
――これは、終わったはずの戦いだった。
でも、どうしてこんなにも、僕の心臓は騒いでいるのか。
なぜ、“あの悪夢”がまた目の前に現れるのか。
答えは、誰にもわからなかった。
***
【第2章・これまでの物語のあらすじ】
2005年――東京都練馬区で突如発生した“原因不明のパンデミック”。
ゾンビ化した人々、崩壊した社会、絶望の只中で生き延びたのは、僕・山田太一を含む5人の小学生だった。
僕たちは大阪の「堺軍隊基地」に保護され、安息を手にした――はずだった。
だが2005年10月27日、再び悪夢は訪れた。
パンデミック第2波。基地は地獄と化した。
そんな中、僕たちに手を差し伸べてくれたのが、**「AIASF(反インフィニティ・アメリカ特別部隊)」**だった。
その部隊は、敵である「インフィニティ過激派組織」と真っ向から対立する勢力だった。
僕たちは各地へ散らされ、それぞれの任務へ向かった。
僕自身は、インフィニティの“最終兵器”との死闘に勝利したが、その代償は大きかった。
多くの兵士たちが犠牲になった。
――そして「裏切り」が起こる。
AIASFの隊長であり、僕たちの希望だったローラ・I・ネルが「インフィニティ」側だった。
向かった先は、南洋の孤島「グアム」。そこにはブルー・S・キャロットが支配する研究所があった。
それはインフィニティ組織の中核を担う施設。
僕たちは、謎解きと戦いを繰り返しながら、研究所の核心へと踏み込んでいく。
「過去に戻って根を絶て」――ローラさんの最後の言葉を胸に、僕たちは1970年5月30日の世界へとタイムスリップした。
そこにいたのは、若き日のキャロット。
その圧倒的な力に、僕は倒された。
だが、夢の中で一人の少女に出会う。
その少女の名はリリィ。
小柄で、不思議な金の装飾をまとった彼女は、僕にこう言った。
「残された“最後の技”……それが“足技”。あなたが希望なんだよ」
僕は、彼女から“足技”を授かり、キャロットをついに打ち破った。
そして未来へ戻り、僕たちは確信する。
「もう、世界は平和になったんだ」と。
だがそれは――あまりにも甘すぎる幻想だった。
***
――2005年7月20日 正午。
場所は僕の家、僕の部屋。
「ふはははっ! この展開…やばっ、腹筋崩壊www!!」
僕はベッドで寝転びながら、漫画を読み、腹を抱えて笑っていた。
「……グゥ~~~~~~」
不意に、僕と博士の腹が同時に鳴った。
「お腹……空いたね」
「そ、そうじゃな」
平和で、くだらなくて、どこにでもある日常。
それが、愛おしかった。
「手洗いしてくるよ。博士は先に台所行ってて」
「うむ。ワシは先に行ってるぞ」
そうして、博士はのそのそと立ち上がり、台所へ向かった。
僕は洗面所で手を洗いながら、心の中で呟いていた。
(世界は変わった。キャロットもいない。もう大丈夫)
……そう、“思い込んで”いた。
手を洗い終えた僕は、タオルで手を拭きながら、何気なく台所へ向かう。
すると――聞き覚えのある、あの声が聞こえた。
「お母さん!!聞こえてるのか? 後を向いてくれ。ワシじゃよ」
ドクン、と僕の心臓が鳴る。
台所のドアの向こうに立っていたのは、背を向けたママだった。
……そう、“あの時”と同じ光景。
(まさか……やめてくれ……頼む……)
「ベチャッッッ」
濡れた肉が床に落ちるような音。
赤黒い液体が、廊下まで滲んできた。
ママが振り返る。
その顔は、やはり――
**「ゾンビ」**だった。
濁った白目。
血で濡れた口元。
皮膚は裂け、腕は奇怪な角度に曲がっている。
「う、うわあああああああああ!!!!!!!」
僕は叫び、博士の腕をつかんで走り出した。
「博士!!!ダメだ!!ママは……もう……」
全力で玄関へ向かう。
後ろからは、狂ったようなうめき声と足音。
家具が倒れる音が鳴り響いていた。
外へ飛び出すと、さらに信じられない光景が広がっていた。
崩れかけた建物。
逃げ惑う人々。
煙と火の匂い。
そして――ゾンビの群れ。
「うそ……だろ……」
「太一!!早く逃げるぞ!!」
僕と博士は、目を合わせると頷き、小学校へ向けて走り出した。
あのときと、まったく同じ道を、再び駆け抜ける。
(なんで……なんでだよ!!!)
(キャロットを倒したのに……なんでまた「同じ日」に…!!)
恐怖、混乱、絶望。
それらが押し寄せてくる。
でも僕は、もう逃げないと決めた。
仲間と一緒に、何度でも立ち向かうと決めたんだ。
しばらくして、僕たちは小学校にたどり着いた。
1階、2階……3階……。
校内は静まり返っていたが、どこか違和感がある。
そして――保健室のドアの前に立つ。
僕は、震える手でドアノブを握った。
「みんな……いるよね?」
To be continued




