第54話「平和な世界…」
翌朝――。
目を覚ました僕は、横で静かに寝息を立てる博士の肩を軽く揺すった。
「博士、朝だよ」
博士はふわっと目を開け、ゆっくりと起き上がった。
「ふむ……今日は朝日が綺麗じゃな」
博士のそんな言葉に、僕は自室の窓辺へ向かった。
カーテンを少し開けて覗き込むと、そこには一面に広がる――幻想的な青空。
雲一つない快晴。太陽の光はやわらかく、世界を優しく包んでいた。
僕は思った。
「す、すごい……朝にこんな光景見たの、初めてだ!!」
知らずに微笑んでいた。
だって、もうすべては――終わったのだから。
***
朝の支度を済ませて、ランドセルを背負った僕は、家を出る。
玄関でママの「行ってらっしゃい」を背に、太陽の下へ飛び出した。
歩き慣れた通学路。でも、その一歩一歩が新鮮だった。
「おーーーーい!!! 太一!!!」
「太ちゃん!! 今日は、登校するの早いんだね!!!」
田中と井上の声。
そして――
「太一君。おはよう!!」
玲奈の声が加わった。
僕は言葉を詰まらせた。
彼女は……確かに死んだはずだった。
あんなにも痛々しく、惨たらしく。あの光景は一生忘れられないと思っていた。
でも今、そこにいる彼女は――完全に元通りの玲奈だった。
何も知らない無垢な笑顔が、僕の胸を刺した。
けれど、泣いてはいけない。
今の玲奈には、そんな“悲しみ”の理由を知る資格なんてない。
「おはよう!!! 玲奈!!」
僕は明るく返した。
そして4人で並んで歩きながら、学校へ向かった。
***
練馬第一小学校。5年1組の教室。
扉を開けた瞬間、まるで時間が巻き戻ったような感覚に陥った。
羽田も、太田も、他のクラスメイトも、元気にわいわい騒いでいる。
日常がそこにあった。
「お!! 誰かと思えば……『足速脳筋』じゃん!!」
「おい!! そのあだ名やめろ!!」
「へへへ!! 嘘だよ、冗談だってば!!」
いつもの羽田。
だけどお前は、あの時――僕に生きろって言ってくれた命の恩人だ。
4時間目が終わり、給食の時間。
「今日の献立の唐揚げ……オイラにくれフ」
太田の「肉」発言がまた飛び出す。
僕は思わず吹き出して笑ってしまった。
こんなにも“平和”が尊いなんて、思ってもみなかった。
***
昼休み。校舎の廊下を歩いていると、小野さんの声が聞こえた。
「健二君…赤髪に染めるのは、今はいいけど…不良にはならないでください」
「いいだろ!!? 別に……不良みたいになっても…(。>﹏<。)」
そうだった、小野さんは児童会長。
そして健二は、ちょっと問題児だけど、根は悪い子じゃない。
顔を赤らめてるってことは……もしかして――。
僕は屋上へ向かった。
ここで、叫びたかったからだ。
だが、また声をかけられる。
「おにいさん!!! ここでなにしてるの!!?」
声の主は、太郎。
だけど彼は僕のことを「おにいさん」と呼ぶ。
――つまり、初対面だと思っているということ。
あの世界で出会った太郎とは、もう“繋がっていない”のだ。
「それはな、叫びたいんだよ……少年」
「さけびたい? なにそれ? おいしいの?」
「いや……食べ物じゃないよ www」
「じゃあ……なんなの?」
僕は、大きく息を吸い込んで――。
「これからも……頑張るぞーーーーーーーーー!!!!」
太郎はびっくりしていたけれど、すぐに笑っていた。
「おにいさん……へんなの wwwww」
「そ、そうかな? www(。>﹏<。)」
僕は思った。
これからも生きて、遊んで、学んで、歳をとっていくんだと。
心から、そう思った。
***
――そして場面は切り替わる。
場所はとある孤島。
地下深くに広がる、鉄と機械に満ちた巨大施設。
その名も、“反インフィニティ・完全組織 本部”。
ある兵士が、最高幹部の部屋をノックする。
「失礼します。新しい手配書が届きました」
「手配書か。名前は? 年齢は? 呼び名は? 懸賞金は?」
兵士は紙を手に、冷や汗を浮かべながら答えた。
「名前は、山田太一。年齢は……11歳。呼び名は、“足技使いの太一”。懸賞金は、5000万アームです」
椅子に座っていた幹部が、驚愕する。
「じゅ……11歳……だと? しかも懸賞金が5000万アーム……いったい誰を倒したらそんな額になる?」
「『インフィニティ過激派組織』の最高幹部の一人、“ブルー・S・キャロット”を倒したからです」
「…………そうか。キャロットを、か」
幹部は驚きを押し殺し、ゆっくりと立ち上がった。
その男の名は――
「ソード・R・ブレイド」
組織内でも最強と名高い、“反インフィニティ・完全組織”の最高幹部。
「だがしかし……まだガキだろ? 中学生にも満たない」
「そ、それは……そうですが……」
「……フン。キャロットが油断しただけさ。たとえ奴を倒しても、残る最高幹部はあと2人いる」
「要件は、それだけです」
「うむ。下がっていい」
そして幹部ソード・R・ブレイドは、静かに独り言を漏らした。
「山田太一……足技使い……どんな奴か、少し興味が出てきたな」
――その頃、平和な空の下。
太一は屋上で風を感じながら、空に笑いかけていた。
だが、まだ物語は終わらない。
第2章が幕を閉じただけ――。
To be continued




