第52話「脱出そして現代へ」
あの長い戦いが、遂に――終わった。
黒く冷たいコンクリートの空間に、ようやく歓声が戻ってきた。
「よっしゃーーーーー!!! 倒したぞ!!!!」
僕が叫ぶと、他の3人――田中、井上、小野も、それぞれの声で答えた。
「すごい…すごすぎるよ!!! 太一ちゃん!!!」
「太一!!!! よくやった!!!」
「とても強かったです!!!」
全身に痛みは残っていたが、喜びがそれを打ち消していく。僕たちは思わず、握手し、抱き合った。
やっと、やっと…たどり着いた。
血に塗れた道、失禁にまみれた屈辱、仲間たちの死。
全てを越えて、この勝利をつかんだのだ。
だが――。
「……ガシャーーーーー!!!!!」
金属がきしむような音。
すぐさま僕たちは表情を変えた。
「な…なんだ…この音…!!?」
「わからない…地震か!!?」
「い…嫌、揺れてるけど…もしかして…」
そこで、小野さんが叫んだ。
「あっ!!!…上を見てください!!!」
僕たちは一斉に顔を上げた。
そこには――崩れていく天井。
巨大な鉄骨、崩落するコンクリート、砕けたガラス、瓦礫の雨。
田中が叫ぶ。
「ま…まずいぞ!!!」
「建物が…崩れていく…」
緊迫した空気が流れる。僕たちはすぐに判断を下した。
「と…とりあえず…1階まで降りて…タイムマシンの中に避難しましょう!!」
小野の言葉に全員がうなずき、階段へと駆け出した。
地震のように激しく揺れる床を両手で頭を守りながら、一段ずつ駆け下りていく。
4階、3階、2階――。
階段の壁に沿って崩れる音が追ってくる。後ろを振り返る余裕もない。
ただ、無我夢中で走った。
ようやく1階に辿り着いた頃には、僕たちの顔は汗と埃と涙にまみれていた。
「外へ出よう!!」
僕たちはドアを蹴破るようにして、外へ飛び出した。
グアムの夕焼け空。けれどそんな美しさを楽しむ余裕はない。
「タイムマシンを探せ!!」
僕たちは辺りを走り回った。
そのとき――僕の目に入ったのは、見覚えのある曲線を描いた金属の機械だった。
「あっ!!! あった!!!」
叫んだ僕の声に、全員が反応する。
「やった!! これで未来に戻れるぞ!!」
「早く!! 乗ろう!! 僕が操縦するから!!」
「翔さん…急いで操縦準備を…!!」
タイムマシンに乗り込むと、井上が座席に滑り込んで操作パネルを開いた。
「えっと…2005年7月15日、練馬第一公園、19時――」
その瞬間、タイムマシンの内部が白い光に包まれる。
ゴウン、ゴウン、ギィィィィィィ――ッッ……!!!
未来を変えるための最後の旅が、今、始まった。
***
僕たちが最後に見たのは、崩れゆく「グアム研究所」だった。
キャロットの本拠地。あの黒く巨大な建物が、音を立てて瓦礫となっていく様。
まるで、忌まわしき過去が一緒に壊れていくように見えた。
タイムマシンの中で、誰も言葉を発さなかった。
言葉なんて、いらなかった。
僕たちは、ちゃんと知っている。
「誰が犠牲になって、何を勝ち取ったか」を。
そして数十秒後――
2005年7月15日、19時。練馬第一公園。
――そこに、僕たちは降り立った。
夕暮れの公園には、虫の声と子供たちの笑い声。
誰もが笑っている。
誰もゾンビではない。
「…戻ってきたんだね…」
井上がつぶやくように言った。
田中も、感慨深そうに空を見上げた。
「5日後…本来なら、パンデミックが起きていたはずだ…でも…」
小野はそっと言った。
「未来は…変わったんですね。」
僕は、目の前の景色を確かめながら、静かにうなずいた。
「うん。変わったよ。キャロットがいない未来なら、絶対に…変わってる。」
みんなは黙って、でも確かにうなずいた。
過去を変えた。だからこそ、未来は変わった。
――希望のある、未来へ。
でも、まだ終わりじゃない。
これから僕たちは、「本当の意味での日常」を取り戻すために生きていくんだ。
だから、ここからが新しい物語の始まりだ――。
To be continued




