第48話「取得」
あの日、あの瞬間、僕の命は尽きる寸前だった。
――けれど、僕の意識は真っ暗闇ではなく、白い世界に落ちていった。
天井も床も、方向すらも曖昧なその空間には、不思議な“静寂”が満ちていた。
そこには何もなかった。音も、風も、感覚も。
僕はふと、目を閉じて自分の存在を確かめようとした――そのときだった。
コツ、コツ、コツ――。
ヒールの音のような、どこか規則的な足音が近づいてくる。
その先に現れたのは、小柄な少女だった。
帽子の先に金色の意匠。肩を包む黒いマントと、裾の金縁が印象的な制服風の衣装。
そして、深い蒼色の瞳。
彼女はすっと立ち止まり、まっすぐに僕を見て言った。
「あなた……もしかして、まだ“技”を取得していない人?」
その言葉が、静寂の世界を切り裂いた。
「……“技”? どういうことだ? ……ていうか、あなたは?」
少女は指を口元に当てて、小さく微笑んだ。
「私? 私はリリィっていうの。」
「リリィ……?」
初対面のはずなのに、不思議と懐かしい響きだった。
「なんで、夢の中にいるんだ……?」
問いかけると、リリィは頬を染めながら視線を外し、控えめに答えた。
「そ、それはね……あなたを助けるために出てきたの。」
「……!」
僕は一瞬、胸が温かくなるのを感じた。
誰かに“助けられている”という感覚。それが、どこか懐かしくて優しかった。
「……じゃあ、“技”っていうのは?」
リリィは表情を引き締め、声を落として言った。
「それは……あなたが、ピンチだからよ。」
ピンチ。
そうだ。僕は、キャロットに敗れ、意識を失って……。
「このままだと、あなたは目覚められない。だから、“最後の技”を取得して。」
「最後……?」
リリィはゆっくりと首を縦に振った。
「うん。もう残ってる“技”は……足技しかないの。」
「足技……?」
彼女の言葉に、僕は疑問をぶつけた。
「なんで他の技は使えないんだ? 誰かが使ったのか?」
リリィの顔が、わずかに陰る。
「そう……。これまでに“挑戦”した人がいたの。だけど、誰一人として「インフィニティ」を倒せなかった。」
「インフィニティ……」
「でも、この“足技”だけが残されたの。最後の希望……それが、あなたなのよ。」
リリィの声が震えていた。
この少女は、僕に何かを託そうとしている。それだけは確かだった。
「……失敗したら、どうなる?」
「あなたも、私たちも、“夢の世界ごと”消える。」
そうか。これはただの夢じゃない。“精神世界”……もしかしたら、僕の“魂の選択”かもしれない。
リリィは僕に歩み寄り、まっすぐに手を差し出してくる。
「だからお願い。あなたが、最後の“挑戦者”になって。」
僕は躊躇わず、その手を両手で握った。
「はい。……ぜひ、やらせてください。」
その瞬間――リリィは微笑んだ。とても柔らかく、救われるような笑顔で。
「ありがとう……!! 太一くん、絶対に……キャロットを倒して……“無限”を終わらせて!!」
彼女の声が遠ざかる。
視界が揺れる。
白い空間が、まるで溶けるように色を失っていく――。
* * *
「――――っ!!」
僕は息を吸った。
目を開けた。
痛い。肩が、頭が、全身がズキズキと痛む。
だけど、今はそれすら“生きている”証拠だ。
――僕は、戻ってきた。
視界の向こう、キャロットがこちらを見下ろしていた。
その右腕は、相変わらず禍々しい“異形”に変化している。
でも、今の僕は違う。
“足技”が、僕の身体に宿っている。
リリィがくれた、“最後の可能性”。
僕はゆっくりと立ち上がった。
左肩は使えない。だが右足には、確かに“熱”が宿っていた。
「キャロット……今度こそ、終わらせる。」
敵は、強大だ。
でも、希望はある。
それは、誰かの言葉で得た“力”じゃない。
僕自身が掴み取った、“選択の証明”なんだ。
「行くぞ……これが、僕の新しい“一撃”だ!!」
To be continued




