第41話「犠牲を払う隊長」
「お……お前は……天野君が言っていた、“ブルー・S・キャロット”か?」
「そうだ!! 私が、“インフィニティ・アイランド部隊”最高幹部――ブルー・S・キャロットだ!!」
キャロットは狂気を孕んだ笑顔で、両手を広げて宣言した。
その声は、まるで舞台に立つ役者のように響き渡る。
「会いたかったぞ、太一君!!!」
「ふざけるなッ!! この状況で自己紹介かよ!!! 博士を……博士を返せよ!!」
僕の叫びに、キャロットはわざとらしく肩をすくめてみせた。
「……残念だが、君の祖父を元に戻すことはできない。なぜなら――私が殺したからだ!!」
「キャロットゥゥゥゥ!!!!」
「殺す、殺す!! 絶対に殺す!!!! 絶対にだああああッ!!!!」
怒りに震える僕の前で、キャロットは一つの影を引き寄せた。
「そこまで私を倒したいのか? なら、これを見たらどうなるかな?」
キャロットが片手で掲げたのは……少女の身体だった。
それは――髙橋玲奈だった。
服は剥がれ、手足は片方ずつ切断され、腹には無数の傷。
血の匂いが鼻を突き、意識が反転しそうになる。
「ゔ……ヴェエエ……オェ……!!」
僕はその場で大量の嘔吐を吐き出した。
言葉も出ない。感情も渦巻いて、何が本当かも分からなくなる。
「太一君が“好きだった”髙橋玲奈という女は……これのことか?」
「……なぜ……なぜ玲奈を……仲間だったじゃないか……」
「仲間? そんなもの、最初から“消耗品”だ。
どうせ裏切るんだ、“汚物”と化す前に処理したまでだ。」
「……ふざけるな……仲間だった奴は、死ぬまで仲間でいろよ……!!!
“友情”や“希望”って言葉、知らないのかよッ!!?」
「ククク……知ってるさ。知っているからこそ、壊すのが楽しいんだよ。
お前もそうだろ? “日佐知香”を撃ったのは、どこのどいつかな?」
「……うっ……!」
「まぁいい。話はここまでだ。今から――お前を殺す。」
キャロットが襲いかかる。その勢いは化け物じみていた。
逃げようにも、僕の身体は震え、思うように動かなかった。
死ぬのか――そう思った、その瞬間だった。
「パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ!!!!!」
5発の銃声が鳴り響く。
キャロットの背中に、銃弾が突き刺さる。
「……まだ生きていたのか。裏切り者が。」
「黙れ、変人。 お前のような奴とは、最初から“一緒”になった覚えはない。」
その声の主――ローラ・I・ネルがそこにいた。
彼女のハンドガンが、なおもキャロットを狙っている。
「ローラさん……なんで……あなたは、僕たちを……裏切ったはずじゃ……」
「申し訳ない、太一。
あのとき、軍隊ヘリの中で君たちを気絶させたのは……本当は、守るためだった。
もし気絶させずにいたら……全員、その場で殺されていた。」
「だから、僕たちを……」
ローラはうなずいた。
「だが、これだけは聞いてほしい。
今から最上階、5階の西ゾーンに行ってくれ。
そこに“タイムマシン”がある。それを使って――
『1970年5月30日』のグアム研究所に行ってほしい。
そこで、キャロットを根から断て。」
ローラの表情は、かつて見せたことのないほど、静かで強かった。
「これが、私の――最後(最期)の命令だ。」
僕は敬礼する。
「はい!! 分かりました、ローラ隊長!!
絶対に生き延びてください!!!!!」
そして僕は、走り出した。
後ろから、怒号と銃声が響く。
それでも、振り返らず、階段を駆け上がった。
――背後で聞こえた、あの一言だけが、心に残っている。
「私は絶対に命令しなきゃいけない人物は……“ロボットみたいな人間”だ。」
誰よりも“命令”と“正義”を貫いた、ローラの最後の言葉だった。
To be continued




