第40話「正気に戻せ」
――僕は、泣きながら博士にしがみついていた。
その身体は、相変わらず冷たくて、重くて、だけど――懐かしい。
何度も、何度も突き放されても、
心の奥底にいる“お祖父ちゃん”を信じて、僕はしがみついた。
「みんなと一緒に帰ろう!! 博士が大好きなサンドイッチ、一緒に食べようよ!!
…あっ…でも、お小遣いが…ない…。」
「たかがお小遣いがないなら、要求してくんじゃない」
無情な言葉が飛ぶ。
けれど、その声の奥に、わずかに震える迷いを感じた。
僕は、攻撃を受け、吹き飛ばされながらも叫び続けた。
「みんなで公園で遊ぼうよ!!また…楽しい時間を送ろうよ…。」
「黙れ…もう、あの時のことは忘れたいんじゃい!!」
だけど僕は、まだしがみつく。
あの温もりを、忘れたくなかった。
「脱出したら、みんなで旅行行くんだ。
沖縄の那覇や与那国島に観光したり、食べ歩きしたりするんだ。
……どう…行きたい? 博士。」
「何度言えばわかるんじゃ?ワシはそんなことはどうでも良いのじゃい。」
「みんなで脱出して、博士と一緒に勉強したい!!
博士ならわかりやすく解説してくれるから、僕だってもっと、頭が良くなる自信がある!!」
「お前なんかじゃ、無理に決まっているのじゃ。
なんど言わせればわかるんじゃ?」
でも、僕はもう諦めないと決めた。
8回目のしがみつき。
叫ぶ――
「博士!!!!!!正気に戻ってよ!!!!」
博士はまた僕を突き放そうとする。
しかし、今度は様子が違った。
その身体が、小さく震えている。
「……なんで……お前は……いつも、いつも……そんなに……抱きついてくるんじゃ……?」
「決まってるよ!!!
博士を、いや――お祖父ちゃんを、尊敬してるんだよ!!!!」
「……!!!……。」
僕の言葉に、博士の瞳が――かつての、優しかったお祖父ちゃんの色に、少しずつ戻っていく。
「毎日毎日、朝早く出勤して、働いて、帰りはかなり遅くて、就寝時間もかなり短かったでしょ?
それでも……休みの時は、『発明品』で遊んでくれたじゃん!!」
「それは……そうじゃが……それだけなのか……?」
「他にもあるよ!!
お手伝いを一緒にやってくれたり、苦手な単元をわかりやすく解説してくれたり、励ましてくれたりしてたよ!!!」
「……そうっじゃったっけ……?」
「そうだよ!!
僕はお祖父ちゃんのこと……ものすっごく尊敬してるんだ!!!!
だから……みんなで、ここを……脱出しようね……!!」
その瞬間だった。
博士が、僕の胸に強く抱きついてきた。
「ごめんよ……太一……『不良品』呼ばわりしてしまって……。」
「大丈夫だよ博士。いや――お祖父ちゃん。
別に、メンタル崩壊したわけじゃないし。」
「よかった……よかった……本当に……」
――そのときだった。
「ブチュ!!!」という、肉が裂ける音が、研究所に響いた。
「……え……?」
僕が下を見ると、博士の腹部から、大量の血がドパドパと流れ出していた。
何かが、後ろから――貫いたのだ。
博士はそのまま、力なく倒れる。
「えっ……?……なんで……こんなことに……?」
足音が近づいてくる。
乾いた音。ゆっくりと、しかし威圧的な音。
橋の向こうから、**“それ”**が現れた。
「使えないバカどもだなぁ……玲奈に、日佐知香に……それに、博士までもが……ガラクタに。」
そこに立っていたのは、キャロットだった。
左手には、まだ血のついた刃のような武器を持っていた。
黒い瞳。狂気に染まった口元。
「さて、残りは……お前一人だけだな、太一くん。」
To be continued




