第38話「もう博士ではない」
僕は――その扉を開けた。
研究所の中は想像以上に冷たく、そして…異様だった。
壁も天井も床も、すべてが黒。まるで闇がそのまま建物の形を成しているようだった。
左右には広すぎる橋が何本も伸びていて、その下は見えないほど深い闇。
一歩踏み外せば、落ちた瞬間、命は無いだろう。
僕は博士を探しながら、1階をくまなく歩いた。だが見つからない。
何もいない。不気味なほど静かだった。
階段を上がり、2階にたどり着いた。
その南の広いゾーン――そこに、彼はいた。
「博士!!ここにいたんだね!!久しぶり!!」
僕の声が空間に反響する。
その背中は、懐かしい――けれど、今は知らない人のようでもあった。
博士はゆっくり振り返った。そして、皮肉な笑みを浮かべて言った。
「おや?誰かが来たかと思ったら、『下位互換』の襲来か。」
「そんなのはどうでもいい…博士、ここを脱出しようよ!!」
「……脱出? ワシは『キャロット様』には逆らいたくない主義じゃ。」
「なんで……? なんで断るの? “家族”でしょ!? なんで!!?」
博士は目を細め、かつての柔らかい顔つきとは違う、硬く冷えた表情でこう言った。
「言っとくが……ワシらは、もう『家族』じゃないんじゃぞ。」
「……!!」
「太一、ワシはお前を“息子”として扱った覚えはない。
ワシは仕事に明け暮れ、発明にのめり込んでいた。
お前の“存在”に目を向ける暇なんぞなかった。
それでもワシは“人類”に貢献し、“世界一の天才”と呼ばれるようになった。
それが、ワシの誇りじゃ。」
「僕を『息子』として扱っていない理由は?」
「簡単なことじゃ。……お前は“失敗作”だからじゃ。
運動能力だけは高く評価しとる。だが、問題は『脳』じゃ。
ワシが出した基本的な問題も答えられなかった。
……それがワシには、“恥”だったんじゃ。」
――心が締めつけられる。
その言葉が刃のように、僕の胸に突き刺さる。
でも、僕は――叫んだ。
「僕は、“命拾い”のためにここに来たんじゃない!!」
博士は眉を上げた。
「……んっ?」
「僕は、博士を“元の状態”に戻すためにここに来た!!!
今のままじゃ、博士は“博士”じゃない!!!
でも、僕は信じてる。博士には“いいところ”がある。
だから――無理矢理でも救ってみせる!!逃げたりなんて、しない!!!」
博士はゆっくり笑った。
「そうか……そう来なくちゃ、太一。
だが、後悔しても知らんぞ?
……ワシはもう、“Big博士”じゃない。“武器を愛する開発者”――ただの機械狂じゃ。」
博士は手を挙げた。
すると、床が開き、複数の凶悪な武器――自律型の兵器たちが現れた。
「来い、太一。ワシが開発した“凶悪武器”たちに勝ってみろ!!」
金属音とともに、武器たちが動き出す。
マシンガンを搭載した四足歩行ロボット、火炎放射を備えたドローン、そして人間型の戦闘兵器――。
僕はハンドキャノンを構えた。
両肩の痛みを堪えながら、拳を強く握る。
「僕は……絶対に、博士を“取り戻す”!!!!」
次の瞬間、空間が爆音とともに燃え上がった。
激しい戦いが、いま、幕を開けた――。
To be continued




