第36話「理由」
橋の中央、静かに風が吹く。
その中で、僕は叫んだ。
「なんで天野君がここに……!!?」
天野は、うっすらと笑みを浮かべながら答える。
「ハハハ……決まっているだろう。君たちが“屋敷城の試練”を突破したことで、僕はここで君を待っていたのさ」
「くっ……!」
天野はゆっくりと手を後ろに回し、リボルバーの柄を撫でながら、冷たく続けた。
「ここから先は“研究所”だ。……君たちが入っては困る。だから、ここで終わらせる」
「ひとりで相手する気か……?」
「まあ、そういうこと。だけど、僕なら十分だろう?」
僕の胸の奥に、言葉にならない怒りが渦巻いた。
「……なんで……」
「ん?」
「なんで“インフィニティ”なんかに……加入したんだよ!!!
テロリストなんだぞ!! 人を何百万も殺してるんだぞ!!!
天野君も……玲奈も……それに博士まで……なんでだよ!!!?」
その瞬間、天野の表情が変わった。
あの整った顔に、静かで冷えた怒りと――どこか寂しさが混ざったような微笑が浮かぶ。
「……飽きたからさ」
「……はあ?」
「飽きたんだよ、あの“普通の世界”に」
彼の声は妙に冷静で、だからこそ残酷だった。
「勉強も運動も、インタビューを受けることも、全部やってきた。……だけど、何も楽しくなかった」
「僕はね、“天才”として期待されてきた。
“頭脳力”も、“学習力”も、“運動力”も、すべてにおいて完璧だった。
でも――僕の家族は、そんな僕を“おもちゃ”としか見ていなかった」
その声には怒りも憎しみもなかった。あるのは、諦めだけだった。
「1問間違えれば食事抜き。点数が下がれば、外に全裸で放り出された。
“才能”なんて呼ばれても、僕はずっと、監獄にいたんだ」
そして、彼の視線は遠くへ向いた。
「……そんなある夜、“キャロット様”に出会った。
彼は言った。
“君には圧倒的な才能がある。もう飽きただろう? この世界の“最初の労働”に。
加入すれば、君は“楽園と支配”の意味がわかるようになる”――と」
「キャロット様は、世界で一番、幸せな人間かもしれないよ……」
――その瞬間、僕は自然と「ハンドキャノン」を構えていた。
「ふざけるな……!!!
“飽きた”? “才能”?
そんな言葉で人を殺す理由になるかよ!!!!!」
「天野君……過去は確かに酷かった。だけど、それを理由に人を殺していい理由にはならない!!
……今なら、まだやり直せる!」
僕は銃を下ろし、右手を差し出した。
「握手しよう。……まだ遅くない。友達や家族、先生の信頼は――時間がかかっても、きっと戻る。
やり直せるんだ、天野君……お願いだ!!!」
――しかし、天野は僕の手を見下ろし、笑った。
「やっぱり君は変わらないな。
理想論と綺麗事で塗り固めた世界を、まだ信じてる」
彼は僕にリボルバーを向ける。
「さあ、“開発生物キラー”の太一君。
僕と相性がいい武器で、一騎討ちしようじゃないか」
(逃げても、叫んでも、殺されても……絶対に後悔する)
僕は覚悟を決め、再び「ハンドキャノン」を構えた。
「勝っても負けても……にらめっこなしだ」
橋の上、風が止まった。
世界が静まり返る中、僕たちは互いの銃口を見据えた――
そして、2人の一騎討ちが始まった。
――To be continued




