第32話「屋敷城の恐ろしさ」
――数時間後。
軍隊用のヘリは、青く澄んだ南の海を越え、グアム島の上空に到達していた。
けれどその島に、かつての楽園の姿はなかった。
灰色の施設と不気味な鉄塔。
軍用塀に囲まれた島の中央には、まるで要塞のような巨大な屋敷が構えていた。
「――屋敷城」
太一たちが乗っていたヘリは、その上空でゆっくりと着陸した。
しかし、誰も目を覚ましていなかった。
田中、井上、小野、そして太一――全員、気絶したまま。
それぞれ別々の部屋に運ばれ、目覚めたときには、完全に孤立状態となっていた。
操縦士の姿は、もうなかった。
血の跡だけが、冷たく床を染めていた。
***
――視点は太一へ。
「……う、うん……ここは……?」
目を覚ました僕は、真っ白な天井を見上げていた。
ベッドの柔らかさと、枕の香りが妙に現実離れしていて、どこか“ホテル”のようだった。
だけど、違う。
絶対に違う。
「勇気……翔……小野さん……みんなどこに……」
身体を起こしながら、僕はすぐに違和感に気づく。
「……ハンドキャノンがない。グレネードランチャーも……ない」
武器が、すべて奪われていた。
慌てて部屋の中を探し回るけれど、どこにも見当たらない。
あったのは、無機質な壁と、綺麗すぎるトイレと洗面所、そして静まり返った空気だけだった。
「みんなと合流するには……動くしかない」
僕はドアを開け、廊下に出る。
そこで目にしたのは――
「……ここ、屋敷だったのか……」
まるで貴族の館のような長い廊下。左右には無数の部屋が並び、床には赤い絨毯が敷かれていた。
「でも、階段は……」
歩き回って、僕はようやく気づく。
廊下の端に「F4(地下4階)」という表示がある。
だが、上への階段もエレベーターも、鉄の板で封鎖されていて動かせない。
「……詰み、か……?」
そのときだった。
僕は何気なく入った一つの部屋で、“異変”に気づいた。
コンクリートでできた無機質な部屋。
照明はやけに明るく、しかし、窓も、ドアの取っ手もない。
「なんか……変だ」
気配を察した瞬間――「バタン!!」という音と共に、扉が自動で閉まった。
「ちょ、ちょっと!!おい!!開けて!!開けろって!!!」
全力で扉を叩くけれど、微動だにしない。
呼吸が早くなる。鼓動が速まる。
(閉じ込められた……!?)
僕が後ろを向くと、そこには金庫が一つ。
震える手でその扉を開けると、中には白い一枚の紙。
僕はその紙を、声もなく読み上げた。
---
問題
「悪いワニは 黒くなるが 裏切られて死ぬ」
「」は誰を意味しているでしょうか?
制限時間は2分。
回答は1回限り。
大声で答えること。
正解なら――出られる。
不正解、あるいは時間切れの場合――檻が解放され、喰われます。
最期まで諦めずに頑張ってね♡
---
(……は?)
紙を読み終えた瞬間、頭上から「ガシャンッ!!」という金属音が鳴り響いた。
振り返ると、部屋の中央に巨大な檻が降りていた。
その中には――巨大なワニがいた。
全長およそ10メートル、濁った目、黒い鱗、むき出しの牙。
「なっ……なんだよ、これ……なんでワニ!? ここ、屋敷だろ!?」
ワニは檻の中でうねり、低く咆哮する。
檻の隙間は狭い。けれど――明らかにそれが「一時的な封印」であることは分かった。
「……解け、ってことか。この問題を……」
冷や汗が首を伝う。
心臓が耳元で警告音のように打ち鳴らす。
――制限時間は、あと2分。
「悪いワニは、黒くなるが、裏切られて死ぬ……」
「『誰か』を意味してる……誰だ……?裏切られて……死んだ……?」
(時間がない。落ち着け……落ち着け……!!)
扉もない。逃げ場もない。
間違えたら――喰われる。
この屋敷が仕掛けた“トリック”の最初の牙が、今まさに、僕を試そうとしていた。
――To be continued




