第30話「脱出と再来と目的地」
空はどこまでも晴れていた。
けれど、僕たちの胸の中には、雲ひとつない空が不気味に見えた。
生き延びた者たちの乗った軍用ヘリは、今、静かに上昇していた。
「目指すは……名古屋市だ」
操縦士がそう呟いたとき、僕たちに一瞬の安堵が流れた。
だが、それは長くは続かなかった。
「こちらA6、A6……操縦不能!!!」
「きゃああああっ!!死にたくないっ!!」
「いやだ……いやだあああああ!!!」
無線から響く、悲鳴。怒号。絶望。
そして――
爆発音。
「……通信が、切れました……」
静寂が、戻った。
田中の表情が強張る。「いったい……何が起きているんだ?」
すぐに別の機体からも連絡が来る。
「こちらA12……何者かにプロペラを――」
またしても、無音。ノイズ。途切れた電波。
「裏切り者がいるのか……!」
ジョディーが歯ぎしりする。
「いや、それとも……“インフィニティ”による襲撃かもしれない……」
ピューリが警戒を強めた。
だが、次々と通信が絶たれ、気づけば空には、僕たちのヘリだけが取り残されていた。
小野さんが震えながら、手で顔を覆う。
「こわい……いや……いや……」
そのまま、失禁してしまう。
「プシャアアア……ジョロジョロ……」
悲しみと恐怖が入り混じった空間のなか、今度は、僕たちのヘリが急降下を始めた。
「A11、A11! こちらA11! 原因不明の急降下!」
操縦士が叫ぶ。
「なにが起こってる!? 機体異常か!?」
すると、田中が窓を指差して叫んだ。
「やつだ! さっき倒したはずの化け物が……ヘリにぶら下がってる!!!」
僕は驚愕した。確かに――倒したはずだった。
硫酸弾も、火炎弾も……すべて効いたはずなのに。
窓の外には、確かに、あの斧を持った巨大な影――
いや、斧はもうなかった。
片腕も失っていた。
それでも、生きている。
それでも、僕たちを殺すために、やってきた。
「な……なんなんだ……こいつは……」
ジョディーが顔を歪める。
「これは……もう、絶体絶命だ……全体に……」
「ダジャレ言ってる場合か!!?」と誰かが突っ込むも、笑えなかった。
バチン、と音を立てて、ヘリのドアが内側に押し開かれた。
「ヴオォォォォォォォォォォ!!!!」
そのときだった。
「――私が、犠牲になります。」
重く、静かな声が、ヘリの中に響いた。
「この化け物と、道連れになります。」
ソン・パクソンさんだった。
誰もが、その言葉の意味をすぐには受け止められなかった。
「なに言ってんだよ!!」
ジョディーが叫ぶ。
「そんなことしたら、あなたが……!」
ピューリの声が震える。
「私は……最年長の兵士だ。だからこそ、ここで命を懸けるのだ。」
ソンさんの言葉に、誰もが沈黙する。
「ジョディー副隊長……そのナイフを、貸してもらえるか?」
ジョディーは震える手で、サバイバルナイフを差し出した。
「これで……あいつの腕を、断ち切る。」
ソンさんは、巨人の手を切り始める。
「皆さん……出会えて、幸せでした。私は、年上としての任務を……ここで果たします!!」
僕の頬に、涙が伝った。
「ソンさん……お願いだ、逝かないで……」
「みんなで……一緒に、生き残るって……」
「……勝者は東にあり!! 敗者は西にあり!!」
そして――
ゴキッという音と共に、巨人の片腕が切断された。
ソン・パクソンはそのまま、化け物と共に空へと落ちていった。
……
数秒間の、沈黙。
……だけど、それすらすぐに破られる。
「……操縦士。目的地を変更する。」
静かに、けれど明確な声で。
ローラさんだった。
彼女は小野さんの腕を掴んでいた。小野さんは恐怖で顔を引きつらせていた。
「今すぐ目的地をグアム島に変更しろ。さもなければ――この少女の命は、無い。」
「ひっ……」
小野さんは再び失禁する。
「プシャーーーー……ジョロジョロ……」
田中が叫ぶ。「ローラさん!!何をしてるんですか!!?」
ローラは冷酷な目で応えた。
「無理だ。だが、殺しはしない。私はただ命令に従っているだけだ。」
ジョディーが立ち上がる。
「てめぇ……自分が何を言ってるかわかってんのか……?」
ピューリが呟いた。
「お前も……裏切り者か……?」
そして――
「私は、“インフィニティ・アイランド部隊”の大佐。ローラ・I・ネル。」
……僕たちは、全員、息を呑んだ。
その瞬間、田中が怒りで突進する。
「お前が……マイクロさんを……ソンさんを……ッ!!!」
だが、ローラは迷いなく、田中の顔面に膝蹴りを放った。
バシンッ!!
田中はそのまま気絶し、地に倒れ込んだ。
「男のくせに、恥ずかしくないの?マゾ候補が。」
そして、ローラはゆっくりと、僕の方へ歩いてくる。
僕は震える声で言った。
「ま、待ってください……ローラさん……どうして……」
ローラの手が僕の首に触れる瞬間――意識が遠のいていった。
視界が白く染まる。
(これが……終わりなのか……?)
……
前半終了――
To be continued...




