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IN:銀河より遠い∞世界  作者: 普通の人
第1章 「全ての始まり」
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第3話「道ずれ」

北校舎の廊下を駆け抜ける。

汗が額を流れ、呼吸が荒くなる。

それでも僕は、ひたすら教室を探し続けた。


ようやく辿り着いたのは、調理準備室だった。

扉をそっと開けると、そこには――小野さんの姿があった。


「小野さん!」

思わず声が出る。そしてもう一人、誰かが床に倒れている。


「……羽田?」


驚きに足が止まる。制服の袖が真っ赤に染まり、左腕を抑えている彼に駆け寄った。

その顔は青白く、痛みにゆがんでいる。


「どうしたんだ、その傷――」


僕の問いに、羽田は歯を食いしばりながら震える声で言った。


「太一……逃げろ。この学校には……ゾンビなんてレベルじゃねぇ、化け物がいる。……そいつは透明になって……気づいたときには、左腕を噛まれてた……何とか、ここまで逃げたけど……もし隣の調理室に入ったら……最期だぞ……誰か……そいつを……倒してくれ……」


言葉が途切れがちで、呼吸も浅い。

その姿に、小野さんが冷静な声で言った。


「無理して話さないでください。まだ出血が止まっていません。……太一さん、ハンカチを持っていますか?」


僕は慌ててポケットからハンカチを取り出し、小野さんに手渡した。

彼女はすぐさま傷口を押さえ、圧迫止血を始める。まるで医者のような手際だった。


やがて羽田の容態が少し落ち着いたところで、僕たちは彼を安全な場所へと運ぶことにした。

選んだのは、校内で比較的守りやすい放送室だった。


彼を横たえたそのとき、ポケットの通信機が震えた。


「太一、小野さんは見つかったか?」


井上の声だ。

僕が見つけたことを告げると、彼は明るい声で続けた。


「やっぱり太ちゃんは格が違うな。……あ、光世も避難してたのか。今は怪我してるから休んでるんだな? それよりさっき、制御室のシャッターモードを解除したんだ。これで3階にも行けるぞ!」


その声に少しだけ安堵しながら、小野さんが言った。


「羽田さんが目を覚ましたら、私も探索に加わります。……太一さん、くれぐれも油断なさらないでくださいね」


頷いた僕の胸中には、不安が渦巻いていた。


――透明になる? 噛む? 化け物?

人間だけじゃない。生き物までもが、狂っていくのか?


そんな疑問に答えは出ない。けれど、立ち止まってもいられない。

僕たちはもう、命を懸けて戦っているんだ。

化け物だろうが、敵なら倒すしかない。


気づけば、手にはハンドガン。

調理室へと続くドアの前に立っていた。


「行くしかない――!」


扉を開けた。しかし、そこには誰もいない。


「……いない?」


拍子抜けしたその瞬間だった。

背後に気配を感じて振り返る――


そこに立っていたのは、まさに“化け物”だった。


即座に銃を構え、引き金を引いた。

乾いた音とともに、化け物の姿がかき消える。


羽田の言っていた通りだ。


しかし次の瞬間、背後から襲い掛かる気配。


「――ッ!」


とっさに飛び退き、なんとかかわした。もし反応が一瞬でも遅れていたら、僕は――もう、ここにはいなかった。


「おい、化け物!」


怒りが爆発する。


「よくも、僕たちの街を……学校を、地獄にしやがって! 絶対に許さねぇ!」


叫びながら、再び銃を構える。

必死で撃ち続ける。粘る、粘る、粘り続ける。


だが――弾が切れた。


「くそっ……!」


その瞬間、「ドン!」と何かが勢いよく開く音が響いた。


振り返ると、そこには――


「羽田……!?」


立っていたのは、ついさっきまで動けなかったはずの羽田だった。

その顔は決意に満ちている。


「逃げろ、太一。……この化け物は、俺が倒す」


「なに言って……!」


「俺は、もうすぐ死ぬかもしれない。……だからお前は、生きろ。生きて、生きて……生きまくれ!」


羽田の声は焦っていたが、確かな覚悟があった。


僕は拳を握りしめ、怒鳴った。


「――当然だろ!」


調理室の出口の扉を開け、放送室へと走った。


そして――僕が辿り着いた瞬間。


校舎全体を揺るがすような爆発音が、響き渡った。


立ち止まる。


すべてを理解した瞬間――

僕の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。


                To be continued


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