第16話「巨人」
例の部屋の中から、轟音と共に何か巨大な影が姿を現した。
「グルルルル!!!!ガアアアァァァァ!!!!」
思わず息をのむ。
その姿…どこかで見覚えがある。
――そうだ。
あれは、さっきの研究発表で見た「G-315」――。
「ってことは…あの化け物……人間なのか!?」
皮膚はひび割れ、全身は不自然に膨張し、目は濁っていた。
しかしその狂気じみた咆哮の奥に、かすかに人の面影を感じさせる。
その瞬間、G-315が雄叫びをあげて襲いかかってきた。
「グルルルル!!!!ヴオオォォォォォ!!!!」
ドン! ドン! と床を踏み鳴らす音。
だが――こいつは鈍い。動きが遅い。
僕はすかさず駆け出した。
目指すはエレベーター。
やっとの思いで前にたどり着く。
モニターには、エレベーターが今、1階にいることが表示されていた。
「早く……早く降りてきてくれ……頼む……!」
祈るように下の矢印のボタンを何度も押す。
背後には、すぐそこまで迫ってくる異形の影。
「グルルルル……グルルルル……!」
その瞬間――
「チンッ!」
待望の音と共に、エレベーターの扉が開いた。
中にいたのは――太郎だった。
「たいちにいちゃんじゃん! ここでなにしてたの?……うしろからきてる、おおきいやつってなに?」
「話は後だ!入れ!」
僕は急いでエレベーターの中に飛び込み、「1」のボタンを押した。
直後、扉が閉まる。
「はあぁ……はあぁ……よかった……死ぬかと思った……。」
安堵したのも束の間。
突然、天井のスピーカーから女性の声が流れ出す。
「あと10分で、研究所を含む練馬区全域は、証拠消滅のため爆発させていただきます。
助かりたい場合は、北のエレベーターを使用し、地下4階までお越しください。
そこには緊急列車がございます。それにご乗車ください。
……繰り返します――」
音声は続くが、僕の脳は一瞬で凍りついた。
「……嘘だろ……俺たちの街が……無くなるっていうのか……?」
すると太郎が顔を上げて言った。
「とりあえず、いそごうよ!!たいちにいちゃん!!
いまのってるエレベーターって……たしか、かんじに“はね”がなかったから……」
「ってことは……南エレベーター!?
まずい……これじゃ脱出できない!!」
「チンッ!」
エレベーターが1階に到着し、扉が開く。
「行くぞ、太郎!!……そうだ、太郎、お前……小野さんと行動してたんじゃ?」
「うん。でも、ぼくがひとりでこうどうしたいって言ったから、
みほねえちゃんにはちゃんとつたえたよ。だいじょうぶ。」
「そうか……よかった……。じゃあ行こう。10分以内に北のエレベーターへ!
地下4階の緊急列車に乗って、生き延びるんだ……!」
太郎はもう走り出していた。
僕も走り出す。
走る前に、心の中で一言だけ叫んだ。
「――行動力!!!」
そして僕は、全力で駆け始めた。
To be continued