第10話「天才の子」
無数のゾンビと、得体の知れない異形の生物たち。
その群れの中を、僕は手にしたハンドガンで冷静に撃ち抜きながら進んでいた。弾を無駄にしないよう、一発一発を正確に。心を殺しながら。
しばらく進んだ先に、ぽっかりと開いた大きな穴を見つけた。
何かがある——そう確信し、中に入ろうとしたその瞬間、微かに声が聞こえてきた。
すぐさま物陰に身を潜め、息を殺す。
その声は、電話をしているようだった。
「資料ですか?問題ないです。僕が収集しました。」
……この声……どこかで聞いたことがある。
妙に落ち着いた、冷静すぎるその口調。思い出せそうで思い出せない。
けれど、次の瞬間、記憶が一気に蘇る。
——天野君!!
まさか、こんな場所で会うなんて。
彼は、僕のクラスメイトのひとり。世間でも名の知れた「日本一の天才小学生」、天野日佐知香。
漢検・数検・英検、それぞれ1級に合格。
勉強だけじゃない、運動も超一流。雑誌の表紙に何度も載ったことのある、誰もが認める超優秀児。
(なんで…そんな彼がここに……それに、“資料”ってなんだ?)
僕はそっと穴の中へと足を踏み入れた。
「おや?……君は確か、山田君じゃないか。」
振り返った彼は、相変わらず整った顔をしていたが、その目だけは冷たかった。
「天野君……なんでここにいるの?資料って、何のこと……?」
その問いかけに、彼は無言で僕にハンドガンを向けてきた。
「……っ! なんで、銃なんか……」
「これか? ただの護身用だよ。たまたま落ちてたから、拾っただけさ。」
そう言いながらも、その構えには一切の無駄がなかった。指先が、まるで訓練を積んだ兵士のように冷静だった。
そして、彼の表情が変わる。瞳の奥が、研ぎ澄まされた刃のように鋭く光る。
「全部聞いてたの? 聞いてなかったの?どっちなんだい?」
「ぜ、全部なんて聞いてないよ!途中から、ほんのちょっとだけ!!」
その言葉に、天野はようやく銃を下ろした。
「そうか……そうか。なら罰を与えないとね。」
そう言いながら、彼は自分の爪と爪をこすり合わせ、「チャッ」と鋭い音を鳴らした。
その瞬間——
頭上から、重たいものが降ってきた。
……それは、巨大なクモだった。人間を一呑みにできそうな大きさで、不気味に足を蠢かせながら僕を見下ろしている。
「君には、この子と遊んでもらおうかな。きっと、気に入るよ」
背を向ける天野の声は、どこか楽しそうだった。
「じゃあ、僕は失礼するよ」
そして、彼は闇の奥へと姿を消した。
「なんでだよ……なんで、さっき戦ったゴリラみたいな奴の後に、こんな奴まで……!」
目の前の超巨大クモが、鋭い牙をむき出しにして、こちらへ飛びかかってくる。
ここで、倒れるわけにはいかない。絶対に——。
――To be continued.