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あの夏の  作者: 緑茶猫
6/8

残滓

声が消え、静まり返った辺りを見渡す。すると、本殿から右側に今まで無かったはずの、向日葵畑が現れた。向日葵畑が現れる様は、太陽の光を渇望するようだった。金華はギミックの鍵を握りしめ向日葵畑に一歩を踏み出していく。向日葵畑に入ると驚いたことに、天気が変わった。夏のように暑い日差しが痛いほど降り注いでいる。心地のよい風が吹き、本殿の不気味さはこの向日葵畑には一切として無い。それどころか、巻き付く気持ち悪い空気を撥ね飛ばすように、空気が清んでいる。だが一つだけ、不気味なことがある。それは向日葵がずっと自分の方を向いていると言うこと。本来向日葵とは太陽の方向に向き続けるものだろう。それが自分が動く度に、向日葵は向きを変えていく。不気味さは一段と強くなるばかりだ。向日葵の迷路を進んでいくと、一段と広い広場のような場所に到着する。するとそこの中央には一人の少年が立っていた。こちらに気が付くと向日葵のように眩しい笑顔を見せる。


少年は笑うと、声変わりが訪れたばかりの声で叫ぶ

「こんにちわぁ!ようこそ向日葵畑に!」

そして大きく手を広げる。大空を羽ばたく鳥のようだ。

「ここに人が来るなんて久しぶりだよ!」

と言うと嬉しそうに金華に駆け寄ってくる。近付かれて分かるのだが、少年と思っていた人物は、青年のようだ。身長もそうだが、雰囲気からよく分かる。そして、この青年はまるで少年のまま大きく育ったような感じがする。金華は疑念の目を向けながらも、口を開く。

「ねぇ。ここはお兄さんのお庭なの?」

「えっと、ここは僕のお庭···っていうか···なんと言うか···」

青年は聞かれると不味いことでもあるかのように目を反らす。金華はそんな様子を分かっているのかいないのか、金華は悪気のない声で聞く

「もしかして、お兄さんの家族のひまわり畑?」

青年は少し困った顔をしながらも笑う

「そう、そうなんだよ〜…はは…」

すると青年は興味を逸らさせるために話題を変える

「君の名前は?」

金華はその言葉に眉を潜める

「知らない人に名前は教えちゃだめってお母さんに言われてるの」

納得した表情をしながら笑う

「そっかそっか、君達の暗黙のルールを忘れてた。名前を尋ねるときは聞いたほうが先に名乗るんだったね」

金華はなんだコイツと思いながらも更に怪しいヤバい奴なのではとも思う。

「僕は陽向だよ。よろしくね」

「それで、君の名前は?」

金華はなんだコイツと思い続けながらも自分も自己紹介をしておく

「私は金華。神社で巫女見習いしてるの。」

すると陽向は巫女見習いと聞くととても嬉しそうにする。

「巫女見習い!?」

「本当に巫女見習い!?」

「そっか…じゃあ、あの時の…良かったぁ〜。」

金華は首をかしげる。陽向がまるで自分のことを知っているような発言をするからだ。名前を聞いてからその反応が大きくなったような気がする。そして自分自身も彼のことを何処かで見た様なおぼろげな記憶がある。何処で会ったのか覚えてはいないが、それ以上に以前、彼と会ったときはこんな人だっただろうか?もっと静かで大人しい人物だったような記憶がある。金華はその時に一つの推測が頭を過る。もしかして、今居ると思っている場所は夢の中で、現実では無いのではないか、という推測である。すると陽向が金華の顔を心配そうに覗き込む。

「金華ちゃん大丈夫?」

と大きな声で聞きながら軽く肩を叩く。その行動は倒れた人の意識を確認するような行動だ。

「ここは日陰も無くて暑いもんね。涼しい場所に行こうか?」

と優しく笑いかける。そんな様子に金華はさらに既視感を覚える。一体何処で彼と会っただろうか。それともテレビやゲームで見たキャラクターと勘違いしているのだろうか。そんな風に考えていると突然足が宙に浮く。何事かと辺りを見渡すと陽向が抱きかかえていた。

「大丈夫じゃなさそうだね。ごめんね突然抱きかかえちゃって。とりあえず涼しい場所に急いで移動しようか。」

金華は抵抗する事もできずにいる。だがそれ以上に抵抗すれば落ちて怪我をしてしまいそうだったのもある。陽向が人間離れした速さで駆け抜けていくからだ。走る陽向に抱えられながら、先程まで居た開けた場所に何か触手のような緑の蔦が見えたような気がした。

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